第六話
魔族化した光星にお姫様抱っこされたまま、ルキリアは空の旅を楽しんでいた。これから行くのは、おじいさまのところ…らしい。
らしい…と言うのは、私はおじいさまのいる場所なんて知らないし、そもそも今でもおじいさまが人間に紛れて生きているなんて知らなかった。
それとも、ただ記憶を思い出せていないだけなのか…どれにしても、連れていってくれている光星の、横顔がものすごく格好いい。
「ルキリア、外に出ただけでも少しは気がまぎれたか?それとも…おれの顔をずっと見詰めて、何かついているとか?」
「っ!?…別に、そんなことは………」
光星が、何故だか嬉しそうな…この顔は夜とか、最近は昼間でも容赦なく、ベッドに連れ込まれる時の表情。
というか、全部分かっていて私をからかっている…そのことだけが、嫌だけど、でも嬉しいとも思ってしまう。
「おれのことをそんな顔で見詰めておいて、つれないことを言わないで欲しい」
何故だか近付いてくるすごくすごく格好いい顔…次の瞬間には、く、唇に、キスされていた。
少しだけ長い、触れるだけのキス…やっと離れて、また見える光星の顔は外でしていていい顔じゃきっとない。
「やっぱりエヴィルに会うのはまたにして…ベッドの上でおれのことだけを考えて、可愛い声で喘いでいるルキリアを抱き潰したい」
途中から、耳元でいじわるに囁かれた。
顔が一瞬で熱くなる…光星から目を反らしたくても彼の手はそれを許してくれないし、熱くなった顔はずっと熱いままで、ずっと熱が上がり続けているような気さえする。
また、彼の綺麗な空色の瞳に映る私の顔は………うぅ、恥ずかしすぎるっ…!
ーーー私、こんな顔してた…の!?
こんな顔じゃ…おじいさまに会えない。そう言えば、この格好のままではおじいさまに会うことなんてできない。
そんな現実逃避をしたはずなのに、光星はずっと私をからかって楽しそうに笑っている。
逃げたい…それなのに、光星の後ろには、いつの間にか懐かしい気配が1つあった。
「エヴィル…いつからそこにいた?」
「そうじゃな…“ルキリア、外に出ただけでも少しは気がまぎれたか?”辺りからじゃな」
このしゃべり方…やっぱり、おじいさま!?
でも姿が…え!?何て言うか、若い?
何だろう、あれ?まさか、今の光星とのこと、おじいさまに全部見られてたってこと!?
「お前はルキリアが絡むと駄目だのう。それより、クーファッシュ…ルキリアは私の可愛いひ孫じゃ」
気が付けば…私はおじいさまの腕に抱っこされていた。小さな子供みたいに。
いったい何が起きたのだろうか…今の今まで、光星にお姫様抱っこされていたのに!?
「ルキリア、こやつが嫌になったならいつでも私の所に来るといい。あいにくルイは転生し直している最中でいないが、不自由はさせない」
おじいさまからの提案を聞いていたその一瞬で、何処かの結界の中に入っていた。気が付けば村と同じ気配がする…とても懐かしい感じのする、安全な場所。
すぐ下には広い綺麗な庭が広がっている。
あれ?何故だか女王の住まう城に似た魔力の気配がするような気がするけど…そして、その先には大きなお家が目に入った。
そして、横には不機嫌そうな光星がいる。
「おじいさまのお家ですか?」
「そうじゃ。三代前のルイと選んだ家でのう……………」
この後、おじいさまの、歴代のおばあさまとの馴れ初めや恋ばなを…何故か、これでもかと聞かされた7日間になった。
⭐︎⭐︎⭐︎
おじいさま達の家で過ごした1週間…と言っても、私がおじいさまと楽しく過ごしていたので、クーファッシュがルキリアに思うように触れられずに機嫌を損ねまくっていた。
それはそれで放っておけというおじいさまの言葉に、機嫌が悪いと拗ねた顔しながらも…1週間を付き合った光星もすごいと思う。
流石にこれ以上は自分の身が危険だと感じたので、もうそろそろ“光星と2人きりの時間”に戻った方がいいかと思っていたそんな時…目の前にクーファッシュが現れた。
ーーーあれ、何だかまるで…初めて出逢った時代を思い出すような・・・・・
庭に散歩に出ていた、そのはずなのに…私の目の前には、仰け反るほど見上げないといけない大きな魔族の姿をしたクーファッシュが静かに降り立っていた。
すぐ側にあの湖はない。魔王の城もとっくの昔に女王の住まう城になっていて、ある意味ではない。おばあさまも今は転生前で不在…
ーーーそれなのに、何処かデジャブ…?
「ルキリア。おれにあなたの姿を良く見せて下さい」
そう言いながら近付いてくる、大きな大きな黒い鱗におおわれた…顔。
この姿のクーファッシュを見るのはいつぶりだろうか。とても懐かしくて、すごく嬉しい気分になる。
「クー!」
私はたまらすにクーファッシュの顔に飛び込むように抱き付いた。
柔らかくはないクーファッシュの固い鱗…だけど、それが何よりも愛おしい。
「ルキリア、本体のおれの方がいいですか?」
すごく切なそうな光星の声が聞こえる。
きっと、表情もこの声と同じ色をしている…気がする。
「クーも光星も好きなんて言ったら、私は最低な人間になってしまう…かしら?」
不安を隠せない顔をして言えば、すぐさま“そんなことはない”と言いきる…すぐ前と後ろから聞こえる二つの声は、とても………
ーーーきっと、“私の転生は”・・・・・




