第26話 発動!太陽の恩寵!トワvs暴走ジーク
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あぁぁぁ」
ジークさんの悲痛な叫びが城内に響き渡る。リーフィス王女はその場に倒れた。
「そんな……酷い……。なんで……」
僕もその状況を飲み込めない状態でいた。握力が弱まり剣を落とす。
目の前で人が血飛沫をあげるのを見るのは初めてだ。
僕の中で怒りと悲しみの感情が解けない糸のように絡まり合う。
「うるせぇなぁ。お前らの声が頭に響いていてぇんだよ」
リーフィス王女はピクリとも動かない。
ジークさんから白と赤の湯気が立つ。
「がぁぁぁぁあぁぁ!!!」
その叫びは、獲物を狙う獣のようだった。
次の瞬間! ジークさんの背中から太陽のような紋章が浮かび上がり、髪の毛の緑色のメッシュの部分がオレンジ色に変わる。
「なんだ、これは……」
思わず口にしてしまう。にしても、急に温度が上がったのかとても暑い。
パッシブスキルの熱耐性のおかげでなんとか耐えられている状況だ。春で、こんなに暑くなるのは異常だ。
「なんなんだ。この暑さは。急に暑くなってきた。ーー次会った時がお前らの最後だ!」
次の瞬間。ジークさんが目に追えないスピードで紅葉さんに飛びかかった。
「いて。なんだ? なんで俺はこいつに馬乗りにされているんだ?」
紅葉さんは、自分の状況があまり理解ができてないようだ。
ジークさんは拳に炎を纏い、紅葉さんのお腹に重い一撃を入れる。
「ガハッッ! うぐっ。なんだこいつ。さっきより攻撃力が桁違いだ」
その言葉に僕はジークさんのステータスを確認する。
名前 ジーク・アーティダル レベル20
職業 ランサー
装備枠1
武器 アーティダルの長槍
頭 アーティダルの冠
体 アーティダルの鎧
脚 アーティダルの臑当
装飾品 パワーリング
自分の物理攻撃力を20上昇。魔法攻撃力を10上昇させる。
ステータス
HP 1750
MP 200+100
物攻 300+20+160
物防 350
魔攻 230+10+120
魔防 280
素早さ160
次のレベルまであと3200
特殊スキル
太陽の恩寵
発動中、以下の能力を得る。
① 自分のMP、物理攻撃力、魔法攻撃力が50%上昇。加速状態を得る。
② 火属性攻撃が強力なものになる。火属性スキルの威力が2倍になり、火属性の属性ダメージを0にする。
③ 発動中、特殊なスキルが使用可能になる。
『太陽の恩寵』? なんだそれは。聞いた事がない。ゲーム時代にはなかったスキルだ。しかも特殊スキルとなっている。
ステータスの上がり方も相当なものだ。スキル効果も強力なものになっている。
火属性ダメージを0にするっていうのは、火属性の物理攻撃を受けた場合は、物理攻撃分のダメージは受けても、属性分のダメージは0にできるって事なのだろうか。火属性攻撃の属性値を失う的な?
装備には属性耐性がある。各属性の数字が高ければ受ける属性ダメージを軽減できる。
しかし、マイナスの場合は逆に受ける属性ダメージが増加してしまう。
分からないことが多いが、ジークさんの様子がおかしいのでなんとかしなければならない。
リーフィス王女はまだ生きていると信じて回復してみようと思う。
リーフィス王女に近づこうとすると、ジークさんがこちらを睥睨の眼差しをこちらに向ける。
簡単には近づけさせてくれないようだ。
「ジークさん! 落ち着いてください! リーフィス王女の状態を見せてください。
生きていれば、まだ間に合うかもしれません! 希望を捨てないで!」
僕の声は聞こえてないようだ。紅葉さんの胸ぐらを掴むと、城内の中央の近くに投げ飛ばした。
「あいたっ! なんなんだこいつは! 簡単に投げ飛ばしやがって! 握力ゴリラかよ!」
ジークさんは高く飛び上がり、怨声をあげ、力を溜める。すると、オレンジ色の光が拳が右手に宿る。
「ぐぁぁあぁ!! 『太陽神の一撃』」
その巨大な拳の一撃を紅葉さんを押さえつける。
「熱い! 熱い! 焼けるぅぅ! 死ぬぅぅ! あぁぁぁぁ!!!」
押さえつけた拳は数秒たった後、消滅した。白い煙が上がっていて、ジークさんの周りが見えない。
今のうちにと僕はリーフィス王女の方へと駆け、リーフィス王女に触れる。
「息をしていない……。そんな……一足遅かったか……いや、体が冷たい、もうあの時には……。うわぁっ!!!」
急にジークさんが僕を押さえつけた。加速状態に入っているからとても早いのか。
僕も悲しくて泣き出したい気持ちだ。しかし、今はジークさんを元に戻さないといけない。
戻し方などは知らないけど、模索するしかない。
「ジークさん! 元に戻って下さい!」
「がぁぁぁぁ!!!」
ジークさんは僕を軽く持ち上げ、一蹴する。
「痛いなぁ。剣でガードしてもこのダメージ。僕の体がもたないよ」
話をしたくても、相手が話を聞ける状態でも、話せる状態でもない。戦って弱らせるしかないのか。
ジークさんはこちらの方を向いて、口を大きく開けると、
「『太陽神の咆哮』」
その咆哮でできた衝撃波は床を削り、地響きを起こす。僕はそれに巻き込まれる。
「耳がぁ。これが、『太陽の恩寵』のスキルなのか。レベルが違いすぎる」
僕は衝撃波を受けながらも、剣を盾代わりにしながら横に回避する。
「よし、なんとか抜け出せた」
ゲームパッドから回復薬と『エナジードリンク』Pを取り出し使用する。
エナジードリンクPで三十分間受けるダメージを25%軽減する。
こちらにダッシュで近づいてくる。
「その速さにも慣れてきましたよ。僕が元に戻してみせます」
ジークさんのその拳を僕は左手で弾き、剣の柄で顎を強打させ、思いっきり一蹴する。
「ぐおおぉぉ! グルルルルッ」
ジークさんは、高く飛び上がり力を溜める。あの構えは『太陽神の一撃』だ。
「『太陽神の一撃』」
次は僕に向かって技を放つ。僕はタイミングを計り、剣を思いっきり突き上げた。拳と振り上げた剣がぶつかり合う。
「うおぉぉっ!!! くっ。
重い一撃ですね。……ジークさんが暴走したのもリーフィス王女が亡くなってしまったのも僕が怠惰だったせいです。
謝って済む話ではありませんが、すみません。……うわっ!」
ぶつかり合った拳と剣は軽い爆発を起こす。煙で見えないが、上から急襲してくると思い、剣を横に振り下ろす。
ドンっ! と、音が鳴りジークさんが床にはたき落とされた。
「はぁ……。はぁ。ジークさん大丈夫ですか?」
倒れたまま動かないジークさんを心配して近づくと。急に目を見開き倒れたまま、一発蹴りを入れられた。
剣でガードしたのだが、威力が高すぎて出口の壁まで蹴り飛ばされてしまった。
「あたたた。生きてた。良かった。それにしても、壁にめりこむほどの威力か」
ジークさんはゆっくりこちらに近づき、手のひらをこちらに向ける。僕は立ち上がる。
「僕は負けるわけにはいかないんだ。ヒロさんやルナさんと約束したから。
そしてあの頃と変われないままじゃ、ザーハックに見せる顔がないから。
僕を信じてくれる人のために僕は最後まで戦う!!! さぁ! こい!」
「終わり……だ。『ロスト・プロミネンス』」
ジークさんの手のひらから渦状の炎が円を描く。
その炎がこちらに近づこうとした次の瞬間。
僕の目の前にゴーレムがどこからか現れ、僕を庇う。
「やれやれ。全く。世話の焼ける方々ですね」
声の主の方を振り向くと、『ギルド対抗戦・模擬戦』の対戦相手だった、橘さんの姿があった。




