第102話 出航の前に
ここは、アーティダル王国の東側にある船着場。
ここから船に乗ってプレイシス大陸に向かうのだ。
「着いたー! これが私たちが乗る船かぁ! いやぁ、そそるねぇ! 豪華客船が我に乗れと私を呼んでいる!」
ヒロさんは堤防にある岩の上に足をあげ、そんなことを高らかに主張した。
「呼んでませんよー」
「もう! トワ君はロマンがないねー! やろうどもー! イカリを上げろー! 帆を張れー! 出航だぁぁ!!!」
「それじゃあ海賊船ですよ。あくまで客船ですからね。でも確かにかっこいいですね」
その巨船は黒をベースに、至る所に虹色に光る菱形の紋章が散りばめられている。
スマートな形をしているが、船体の構造はしっかりしている。
外板は黄金に光っておりかなり分厚い。これぞ豪華客船! って感じだ。
「すごく大きい船ですね」
リーフィスさんは船の大きさに感動をしているようだ。
ルルード王国の周りには海ではなく、豊かな自然に囲まれている国だから、見たことがないのだろうか。
「すごいです! これが船ってやつですか! 強そうですね!」
いや、この船とは戦わないからね。戦闘設備も整ってはいるんだろうけどさ。
そんな事を言っているのはトゥビーさん。まあトゥビーさんも以下同文だろうな。
「そろそろ時間だし、みんな! 乗り込めー!」
「「はーい!」」
「楽しみー!」
「良き船旅になりそうですわ」
女性陣はとても楽しみにしているようだ。
「くっくっく。我は氷の予言者なり! これからノアの箱舟で絶望の声が響き渡るだろう! あーっははは!」
ゼロさんの厨二病も絶好調のようだ。確かに僕もそういうのはそそられるんだけど、口や態度には出せないな。恥ずかしいし。
一方、僕以外の男性陣は険しい顔をしてその船を見ている。
「どうしたんですか?」
僕が聞くとザーハックさんが答えた。
「いや、この船『海竜種』に襲われたりしたら沈没するのではないかと思ってな」
「戦闘設備も整っているとは思いますよ? ほら、あそこから大砲を飛ばすんですよ」
僕はその場所を指を差しながら言った。
「そうか。なら、まずは耐久チェックだな」
ザーハックさんはそう言い出すと、武器を取り出して豪華客船に近づこうとする。
僕は慌てて止めにはいる。
「そんなことしなくて大丈夫ですよ! 弁償にでもなったらとってもじゃないですが払えませんよ! っね? ジークさん!? この船なら安心してプレイシスにまで行けますよね?」
僕は船でプレイシスに行ったことがあると言っていたジークさんに助けを求めた。
「まあ行けるだろうが、それより、俺とこいつ……どっちの方が早えーかなぁ」
「勝負しなくていいです! ほら、ジークさんもそう言ってますし」
ザーハックさんは渋々武器を納める。グーファーさんはそれを見てケラケラ笑っている。
みんな戦闘時は頼りになるが、こういう時はまったく纏まらないなぁ。個性の集団リンチを受けているようだ。
「こんにちは」
その声の持ち主は、トロン国王とユナちゃんを連れたティアンさんだった。
「こんにちは! ティアンさんたちがどうしてここに?」
「昨日、ジークからこの地を離れて修行をするって聞きましてね、お見送りに来たんですよ。ユナも離れ離れになる、お兄ちゃんやお姉ちゃんの顔も見たいでしょうし。トワさん。二人をよろしくお願いしますね」
「なるほど。急な出来事ですみません。二人にはいつもお世話になっております」
僕は片膝を突き、ユナちゃんの背に合わせて続けて言った。
「ユナちゃん、お兄さんとお姉さんを預かるね。またお土産を持って帰省するから待っててね」
「はい! お兄様とお姉様をよろしくお願いします」
ユナちゃんはそう言ってくれた。初めてまともに会話できた。とても嬉しい! それに元気になったみたいで良かったよ。
「父上、母上。お越し頂きありがとうございます。お見送りのご配慮痛み入ります。王国とユナをよろしくお願いします」
「あぁ。任せなさい。今はこの旅を楽しんでおいで。きっとこれからの人生の役に立てるから」
「はい! ありがとうございます」
「それじゃ、ルナのこと頼んだよ。いやーしかし、船旅とは懐かしいなぁ、母さん」
「そうですねぇ。もう何十年の前の話でしょう」
トロン国王とティアンさんは笑いながら語り合っていた。
挨拶が済み、みんなは豪華客船に乗り込もうとする。
「トワくーん! どうしたのー? 早く乗ろうよー!」
ヒロさんは豪華客船に乗るのが楽しみなんだろうな。こんなウキウキしながら見つめられたら、僕の良心が痛むよ。
「そうですね。そろそろ行きましょうか」
僕は隣に止めてあった小さめの船に乗り込もうとすると、ヒロさんが声をかけてきた。
「トワ君何してるの? 船はこっちだよ?」
みんなの楽しみを壊したくはないけど、僕はみんなに真実を伝えた。
「何って、僕たちが乗る船はこっちのほうです。昨日配ったチケットに番号が書いてありますし、僕は一言もその豪華客船に乗れるとは言ってませんよ?」
「えぇ……。そ、そんにゃぁぁ。トワ君の悪魔ー!」
ジークさんを除く男性陣とヒロさんとトゥビーさんは残念そうにした。ザーハックさんも実は楽しみにしてたんだ。
「僕に言われたっても無理ですよ。橘さんに貰ったチケットですし。さぁ、文句言わずにこの船に乗って下さい。この船もなかなか悪くないと思いますよ」
「嫌だぁぁぁ! 橘さんのケチィィ!!! 詐欺師ー!」
「そうだ! あいつは、インチキメガネ詐欺師だ!」
ヒロさんの言葉にジークさんはのっかる。
橘さんは何も悪くないのに……申し訳ないです。
ゼロさんの予言はある意味当たってるな。
「では、みなのもの! しばし待たれよ!」
ゼロさんがそう言い残すと、豪華客船の改札スタッフに話しかけた。
数分待っていると、ゼロさんが帰ってきて言った。
「暗黒の取り引きで代価を支払えば、巨大黒船マキシマムブラックに乗船できるように話をつけてきた。危険な匂いがするが、どうするかはみんなで選ぶんだ!」
その言葉にヒロさんたちは再び目に輝きを取り戻す。
訳すと追加料金を払えば豪華客船に乗れるように話をつけてくれたみたいだ。
「ほんとに!? ほんとのほんと!? いくら!? いくらでも出すよ!」
ゼロさんはヒロさんの耳元で囁く。何を話しているかは分からない。でも、さっきの文章を一瞬で理解したヒロさんはすごいな。
話を終えたヒロさんはみんなに問いかける。
「このチケットがあるから、追加で一人10万ドリーを支払えば乗っていいんだって! あんまりお客さんがいないから大丈夫らしい! トワ君以外のみんなはどうする!? 私はもちろん乗る!」
ゼロさんは何者なんだ。改札スタッフの人とそんな話をできるなんて……。って僕以外!?
みんなは次々と豪華客船の方に向かう。
「残念だったな。坊主。また後でな!」
「え? ザーハックさん? いや、僕も乗りますよ!」
僕は走って豪華客船の方に向かう。
「トワ君はこの豪華客船よりそっちの船に乗りたいんでしょー? 先にプレイシス大陸で待ってるねー!」
「いやいや、そんなことは言ってないじゃないですかー! なんでそんな意地悪言うんですかぁ!」
「べーーっだ!」
僕は10万ドリーを払い豪華客船に乗り込んだ。




