2.宝箱の中身
いつの間にか、結婚してから十年近い月日が流れていた。
子どもたちをつれて寝室を出る。
多少寝坊しても、子どもが着替えている間に朝食を用意できるようになった。あのころでは考えられない進歩だ。
パンの日は、たまごのおかずやさっとソテーした葉物野菜。時間があればトマトを切り、たっぷり野菜の入ったスープも添える。
ごはんの日は、わかめと刺し身のサクを一緒にレンジで蒸したものを出すことが多い。それに味噌汁と、常備菜の野菜おかずを添えれば栄養バランスもある程度整う。
そしてこれらは、あまり考えなくても、無意識でできる。それは自分には絶対に不可能だと思っていたことだ。
目の前にごみの山があったとする。そこから小さなビーズを探し出すように言われたらどうだろう? 途方も無い作業に感じるはずだ。でも、大きな瓦礫を3つだけ撤去してほしいという指令だったら? 無理なく、すぐにできる。
全体像を見て怖気づいてしまうことはよくあるけれど、大切なのは今できることから、順番を決めて、ひとつずつ始めていくことだ。そして、進捗をきちんと管理すること。
それをこつこつ積み重ねていくと、どんなにひどいごみ山からでもビーズは見つけられるし、発掘作業の練度がどんどん高まっていく。最初は意識して慎重に行っていたものが、なにも考えなくても片手間でできるくらいに。
家事ができるようになるというのも、それと同じだった。やることを決める。進捗を管理する。
困ったときにいつも助けてくれるのは、本だ。
私は仕事が終わると、図書館や書店に足繁く通うようになった。そして、家事に関する本を片っ端から読んでいった。
今の私が読めば違うのかもしれないけれど、その多くは、その時点での私にはむずかしかった。どうしてかというと、私は家事ができないわけではなかったからだ。
できていないのはそれ以前のこと。時間と行動の管理だった。それから片づけ。
当時はそれに気がつかずに、家事を当たり前にできている人たちの書いた素敵な本を見ては、自分と比べて落ち込むばかりだった。
私はまず、片づけからはじめることにした。兎にも角にも部屋が散らかっていて、何をやるのも大変だった。視界に入ってくる情報が多いと、それだけで疲れてしまうらしい。
幸い、世の中は片づけブームだった。部屋を片づけていく様子をブログに載せている人もたくさんいたし、本もたくさんあった。
片づけに関する本は、すっきりした部屋の写真を眺めるだけでも効果があった。収納テクニック以前の問題だったので、中身を参考にすることはあまりなかったけれど、ともすれば投げ出してしまいたくなるような部屋の中で、やる気を培っていくためにはとても助けられた。
そうしてものに一つずつ向き合っていく過程で私が見つけたのは、たくさんのノートたちだった。