序章
ノートと私を振り返ってみる。
最初に思い浮かぶのは、小さな緑の屋根の文具店。
数時間に一本しか電車の通らない田舎町で、小学生だった私が買いものを楽しめるのはその店しかなかった。
レジにはいつも少し不機嫌なおばさんがいて、眉根を寄せながら、とんとんと机を指で叩いている。
私はそれにびくびくしながらも、店の探索をやめられない。
レジの近くには香り玉が並んでいた。小瓶に入った、ビーズほどの大きさのきらきらした玉からは、いい香りがするのだ。見た目の可愛さも相まって、つい集めたくなったものだった。
プロフィール帳は友だち作りの第一歩だった。みんなが書くことを楽しんでいて、意外な一面を知れるのがとても楽しかった。
いろいろな種類のカラーペンは、いくら買ってもまだ足りない。ミルキーな色合いのものがとりわけ好きだったけれど、ほかも捨てがたい。3つの色が混ざりあったペンは不思議な味わいがあるし、香りつきのペンは使うたびにわくわくする。
小さな町の、小さな文具店に並ぶノートは決して多くはなかった。
それでも、私は時間をかけて、どれを買うのか決めていった。限られたお小遣いで何を買うのか。それはとても大きな命題だった。
ところが、そうして集めたノートたちの末路は悲惨だった。
多くはほとんど使われないままだったのだ。
特に、数ページだけ書いて飽きてしまったノートたちは、いつも私の心を苛む。
続けることが苦手な自分が恥ずかしくなる。
でも、大人になってから、ふと気がついた。使いかけでやめてしまったノート。実はこれって、ものすごいお宝なんじゃないだろうか。続けられないのには理由があるはずだ。それを変えてみたらどうだろう?
こうしてノートと私の実験の日々がはじまった。この実験は、奇しくも私の暮らしを、生き方を変えていくものとなったのだった。