9.レシピノートをつくる(3)
「――なにこれ」
冬吾は渋い顔をする。
「あの、ネットのレシピでつくったんだけど……」
「食べた?」
決して、おいしいとは言えなかった。分量も手順も間違っていないはずなのに。
「まずいよな? こんな変なのつくるくらいだったら、冷凍とかレトルトでいいよ」
「――レシピ通りに作ったから。それでおいしくないなら私のせいじゃない!」
私はいらいらして声を荒げた。乱暴に音を立て、皿を全部下げた。
冬吾が疲れていることも、仕事のストレスがたくさんあることもわかっていた。だからって、そんなきつい言い方しなくたっていいじゃないか。
冷凍食品でもレトルトでも怒られないのはわかっていた。でも、自分の気持ちも努力もすべて否定されたような気分になって、嫌だった。
疲れている冬吾に、がんばってくれている冬吾に、少しでも健康的なものを食べてほしいと、そう思ってがんばったつもりだった。
作るのってかんたんなことじゃない。A4サイズくらいの広さしかないワンルームのキッチンでは、なにかをするたびに洗って片づけて出して……といった作業もくり返さなければいけなくて、とにかく時間もかかった。
そうしてようやく作り上げてもまだ終わりじゃない。深夜だというのにこれから洗いものも待っている。油で汚れたフライパンを洗うと思うだけでも気が重い。
冬吾は冷凍庫から買い置きのチャーハンを取り出すと、皿に移してレンジで温めはじめた。
そのまま洗いものを始めると、悔しくて、悲しくて、涙がこぼれた。
ソファの周りには、適当に積まれた本や、脱ぎっぱなしの服が落ちていた。はじめのうちは13畳の部屋のほとんどを収納家具が埋め尽くしているような環境だったけれど、それもずいぶん処分した。
でも、片づけても片づけても、先は見えなかった。生活は毎日続く。出したものは戻さなければまた散らかっていくけれど、片づけるべき場所を作るのはむずかしかった。
「掃除はしたの?」
冬吾が不機嫌そうに訊く。私はうなずく。
「全然綺麗になってないけどな。――毎日同じことをやるんじゃなくて、他にやってないとこだよ。それをやってかないといつまで経っても終わらないって」
溜め込んでいた切り抜きを処分した。そう答えても怒られる気がして、私は答えなかった。
冬吾はため息をついて、テレビに目をやった。