表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/27

9.レシピノートをつくる(3)

「――なにこれ」


 冬吾は渋い顔をする。


「あの、ネットのレシピでつくったんだけど……」

「食べた?」


 決して、おいしいとは言えなかった。分量も手順も間違っていないはずなのに。


「まずいよな? こんな変なのつくるくらいだったら、冷凍とかレトルトでいいよ」

「――レシピ通りに作ったから。それでおいしくないなら私のせいじゃない!」


 私はいらいらして声を荒げた。乱暴に音を立て、皿を全部下げた。


 冬吾が疲れていることも、仕事のストレスがたくさんあることもわかっていた。だからって、そんなきつい言い方しなくたっていいじゃないか。


 冷凍食品でもレトルトでも怒られないのはわかっていた。でも、自分の気持ちも努力もすべて否定されたような気分になって、嫌だった。


 疲れている冬吾に、がんばってくれている冬吾に、少しでも健康的なものを食べてほしいと、そう思ってがんばったつもりだった。


 作るのってかんたんなことじゃない。A4サイズくらいの広さしかないワンルームのキッチンでは、なにかをするたびに洗って片づけて出して……といった作業もくり返さなければいけなくて、とにかく時間もかかった。


 そうしてようやく作り上げてもまだ終わりじゃない。深夜だというのにこれから洗いものも待っている。油で汚れたフライパンを洗うと思うだけでも気が重い。


 冬吾は冷凍庫から買い置きのチャーハンを取り出すと、皿に移してレンジで温めはじめた。


 そのまま洗いものを始めると、悔しくて、悲しくて、涙がこぼれた。


 ソファの周りには、適当に積まれた本や、脱ぎっぱなしの服が落ちていた。はじめのうちは13畳の部屋のほとんどを収納家具が埋め尽くしているような環境だったけれど、それもずいぶん処分した。


 でも、片づけても片づけても、先は見えなかった。生活は毎日続く。出したものは戻さなければまた散らかっていくけれど、片づけるべき場所を作るのはむずかしかった。




「掃除はしたの?」


 冬吾が不機嫌そうに訊く。私はうなずく。


「全然綺麗になってないけどな。――毎日同じことをやるんじゃなくて、他にやってないとこだよ。それをやってかないといつまで経っても終わらないって」


 溜め込んでいた切り抜きを処分した。そう答えても怒られる気がして、私は答えなかった。

 冬吾はため息をついて、テレビに目をやった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ