解除! そして伝説へ
ここは、一年中降る雪によって閉ざされた最北の地。
魔物を用いて、世界を侵略していると言われている魔王の住む城である。
その玉座の間にて、オンダン王国から送られた勇者一行と魔王との戦闘はもう終わっていました。
「はー。あの機材からどんな料理ができるのかのー」
「わからないな。あの大きい皿のようなものにまとめるのだろうか」
「けんじゃさまはー知ってらっしゃるのですかねー」
「たしかに、それもそうだな。知ってそうではあるが……」
賢者が冷え込む廊下を歩き、厨房にて料理の下ごしらえをしているとき、賢者を追い出した3人は特に新たな『ボド=ゲ』に手を出すでもなく、何とも言えない中だるみのような時間を過ごしていた。
そのような空気だったからこそ、普段はしないであろう会話も出るというもの。
「そういえばじゃが、お主らはどうしてここに攻めてきたのじゃ?」
「今更なことを聞くな、魔王よ。貴様が魔物を操り、我が国やその周辺諸国へ侵略してきたのだろうが」
「そうですよー。「魔物を操る王、すなわち魔王である!降伏するもの共の命くらいは救ってやってもよい!」ってー言っていたではないですかー」
「はぁ? なぁにを言うとるんじゃお主等は。そ奴は我ではないわ。っていうか我のとこにも手を出してきとるし、そいつ」
「なにっ!? どういうことだ魔王よ!」
「どういうことも何も、我はこの国の魔法使いの頂点。すなわち魔法使いの王、魔王じゃ」
ここにきて標的が違うという真実。まさかの事態に勇者と聖女は言葉を失う。
それはまるで、これまでの冒険のすべてを否定されたような、これまで積み上げてきたものが足元から崩れ落ちていくような感覚に襲われた。
「と……ということはだ、我々がこれまでに倒してきた四天王とやらは……」
「それは魔王の配下じゃ」
「ああ! 私はなんてことを! これではただの侵略者ではないか……」
「いやすまん。そ奴等は魔物の王の配下じゃ。倒すと消えおったじゃろう」
「そっちか。紛らわしいな! まったく!」
「も少し申し訳なくせえよお主は。ここの間はボロボロなんじゃからな」
これまでの『ボド=ゲ』を通じて、なんだかんだ遠慮の無い関係になっている勇者と魔王。
魔王違いという結構な事実をサラッと流していくのはさすが勇者か。
「でもー四天王は本物だったのにー魔王の情報だけ偽物というのはーどういうこのなのでしょうかー?」
「ん? お主等が倒した中であ奴の四天王なのは火焔龍だけじゃぞ」
「そうなのか? だが確かに、配下もいて手ごわかったのはあいつだけだったな……」
「といいますかーなぜこちらの魔王さんはー我々の動向についてーいろいろ知ってらっしゃるのでしょうかー?」
「国境関係なしに魔物を退治して回るチームがいれば調べるじゃろ。我らもあ奴に対してやられっぱなしではいられないでな。じゃからこっちを攻めてくると聞いたときは首をかしげたものじゃ」
「じゃあここに来るまでに誰とも戦闘にならなかったのは……」
「当然、我が避難させたからじゃ。我が勝てんのなら誰も勝てんしな。それに勝てるかどうかの奴をあてるほど危ないとも思わんかったし」
次々と明らかになる真実。
たしかに、勇者一行がこれまでに倒してきた四天王は、火焔龍以外ニセモノであった。
嘘を隠すならば真実の中というように、四天王最弱の火焔龍をさも四天王最強であると錯覚させていたのだ。
そして、四天王の情報を真実だと思い込ませて、勇者一行に強敵である魔法使いの王を倒させようとしたのが、魔物の王の策略であった。
魔物の王の誤算は、魔法使いの王側に嘘の情報を流しきる前に勇者一行が火焔龍まで倒してしまったことと、『コ・タツ』によって魔王と勇者一行とで話し合いが行われてしまったことである。
「ふむ、こうして話せたのは僥倖というべきじゃな。無駄な消耗をせんで済んだしの」
「そうだな。そこに気づけたのは大きい。そうと分かれば一度情報を王国に持ち帰り、今まとめているものを再精査しなければならないのだが……」
「そうですよねー出れないですよねーぽかぽかですものー」
「まあ、賢者が帰ってきてからでも遅くないか」
「あたしはーけんじゃさまが戻るまでーおやすみなさいー」
「こ奴、我が敵ではないと分かったとたんガチ寝するつもりではないか。横になってぐっすりではないか」
「聖女はそういうマイペースなところがあるからな」
「マイペース……なのかの……」
勇者一行と魔法使いの王、魔法王との間にあった敵対関係は消えたが、3人が『コ・タツ』から逃れられないことには変わりはなかった。
ここから出るという考えが浮かばないという異常事態にすら気づけていない時点でどうしようもないのだが……
_______________
__________
_____
「しっかし、賢者の奴も遅くないかの? そんなに時間のかかる料理なのか?」
「たしかに。もしかしたら迷ったのかもしれないな」
「だったらお主が助けに行かねばな」
「いや、やはりこの城の構造を知り尽くした魔王が適任だと思うがな」
「いやいや、何を言うか。お主の仲間じゃろて。それにあ奴の誤解はまだ解けとらんしの」
「いやいやいや、説明がてら向かうべきだろう。勇者はそう思った」
「いやいやいやいや、なぁにが「勇者はそう思った」じゃ。どうせここから出るのが億劫なだけじゃろ。と魔王は感じ取った」
「いやいやいやいやいや、そういう――」
そんな会話が繰り返されているとき、やはり噂をすれば影が差すというべきか、賢者が戻ってきたのだった。
「お待たせしましたー。ただいま戻りましたよ」
「おおっ! 賢者よ、待っていたぞ。話さねばならないこともあるんだ」
「やっと戻ってきよったか。はよ座れ」
「話とはなんでしょうか? って聖女様入りすぎですよ! こっち足飛び出てますよ! 僕が入れないではないですか!」
「Z Z Z ...」
『オナ=ベ』をこちらに残していった台に置いた賢者は聖女の行った領土侵害に抗議を行う。そして、寒い中厨房と玉座の間を往復した賢者は追い出され方に加えて、戻ってきてからの扱いに対し、とうとう怒りを抑えることができなくなり、『コ・タツ』における禁じ手の一つを使うのだった。
「寝るからといってこれはいけません。暖かいのがそんなに眠たくなるならばこうしてくれます!」
「何をする気だ! 賢者!」
「そうじゃぞ! 布の端なんぞつかんで。我は嫌な予感しかせんのじゃが……」
「何をするもなにも。こうするんですよ!」
バサッ! バサッ!! バサッ!!!
まさに悪魔の所業。暖かい天国のような『コ・タツ』。そこから暖かさを奪うように、冷え切った外気を供給する。賢者の行った怒りに任せた行動は、聖女だけでなく、勇者と魔法王にも多大なる影響を与えた。
「んなっ! 寒いじゃろうが! やめよ!」
「知りませんよ! 僕がどんな思いでここを出たことか!」
「ひえー、おきたらさむいですー」
「あっ悪魔の所業だぞこれは……はっ!」
シュパパパッ!!!
「ひっ! すいません勇者様! やりすぎました! 許してください!」
「おいおい。さすがに武器を出すのはやりすじゃろて……ってそうか!」
「ひえー」
「ふう。さすがだ賢者よ。ファインプレーというやつだな」
勇者が剣を抜いた先、そこには役目を終えたかのように消えていく、切り刻まれた『コ・タツ』の残骸があった。
「はっ! また『コ・タツ』に囚われてしまってましたね、僕は」
「その言い方じゃと一度気づいとったようじゃの」
「いったいーどうなっていたのでしょうかー」
「ふむ。やっと『コ・タツ』の拘束から逃れることができたようだな。よかった」
賢者の起こした『コ・タツ』内部への冷気流入という暴挙。
それにより一瞬、緩んだ拘束を抜けて『コ・タツ』の術具を破壊したのはさすが勇者というべきか。
術具が破壊された時にチラッと見えた術式から破壊式を見抜き、その再生を止めたのはやはり魔法使いの王たる実力なのだろう。
かすかなチャンスから勇者一行と魔法王はとうとう、拘束魔術から逃れたのである。
「さすがは勇者というべきかの。あの一瞬であれほどの術具を破壊するとは」
「何を言うか魔王よ。お前もあの術式の再生を阻止したではないか」
「さすがはーお二人とーいうべきですかー」
「いや、何慣れあってるんですか勇者様、聖女様。相手は魔王ですよ」
「そういえば賢者はまだ聞いてなかったな。四天王や魔王について」
そう言って勇者は賢者に対してこれまでの勘違いやミスリードなどの事実について話すのであった。
_______________
__________
_____
「うーん。その話について、勇者様の嘘探知は働かなかったんですよね?」
「その通りだ。よってこれは事実であると信じれるはずだ」
「ちょっと待つがよい勇者よ。嘘探知の祝福は王位を継ぐ者の特権ではないか。お主は王ではなかろうて」
「王達の持つ祝福が自国民の何らかの改善に寄与する際に反応するように、勇者の祝福は魔王に関係する際に反応するそうなんだ」
「なるほどのぉ」
そこから、勇者一行と魔王は互いの祝福の話や魔物の王、魔王に対する事などについて情報共有を行った。
魔法使いの王の国が保有する情報の提供、世界をめぐっていた勇者一行が保有していた情報とのすり合わせ。普段は裏で行われるやり取りすらなく行われたこの情報共有は、勇者側にも魔法王側にも利益をもたらした。
その後、政務がめんど……やりたくな……オ゛ホンッ!
政務を自分の後任(No.2)へと譲った魔王は、勇者一行へと合流し、一行の戦力は飛躍的に高まった。これまでの一行に足りなかったところを合流した魔王が補うことでより弱点がなくなったことにより、魔物の王側は、より劣勢に立たされることとなったのだ。
強化されて本当の四天王さえも破竹の勢いで倒していった勇者一行に、魔物の王はなすすべもなく、まさに蹂躙されたのだった。
魔物の王を滅ぼし、世界を救った後に、勇者一行はそれを自国へ報告に参上した。王はこれに対し何か褒賞を与えるとしたが、一行はこれを辞退。その後、表舞台から姿を消したのだった。
この理由についてはいくつかの説が流れており、自国の王によって傀儡にされることを嫌ったのではないかという説や、後に加入した魔法使いの王から、権力者の世界の闇について話を聞き、その世界に自分が足を踏み入れることを嫌ったのではないかともいわれている。
ある田舎に流れる噂話には、美人な嫁さんを4人とよく手入れのされた1匹のペットを連れているにも関わらず、よく目の死んでいる一人の苦労人夫が引っ越してきたという物もあり、これこそが勇者一行なのではないかとの声もある。
しかし、賢者のいた勇者一行は、合流した魔王を併せてもこの人数と一致しないため、この噂話に信憑性は皆無だが、万が一……万が一これが真実である場合、賢者は一回大変な目に合うべきである。いや、合わなければなるまい。
以上が400年前に魔物の王を滅ぼした勇者一行の物語である。
――著:デシー・ジェラス
「なにこれ?」
「勇者様の逸話の一つさ。それをまとめたもの」
「……」
「どしたの? けん――」
「いやこれがオチかいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
~完~
著者のヒノトウシです。
今作、私の初投稿作品は楽しんでいただけましたでしょうか?
最後まで見てくださった皆さま、ありがとうございました。
よろしければ、今作の良かったところ、悪かったところ等ありましたら
感想をいただければと思います。
これからも、よろしくお願いいたします。