発動! 補助魔術(3)
ここは、一年中降る雪によって閉ざされた最北の地。
魔物を用いて、世界を侵略していると言われている魔王の住む城である。
その玉座の間にて、オンダン王国から送られた勇者(一行)と魔王との戦闘が行われていた。
そう、ちょうど白熱のオセロが終わったところである。
「うっはっはっはー。我の勝ちじゃな勇者よ」
「ふん。今回は勝ちを譲ろう。だが勝ち越してるのは私だがな」
「とはいっても僅差じゃろに。次で同率、その後は我の勝ち越しじゃ」
「そううまくはいかないぞ、魔王よ。次はこいつだからな」
白熱する勇者と魔王の戦い。
それを見る聖女もまた、応援に熱が入っていた。
その光景を見つめる賢者の目は、絶対零度を感じさせるようになっていた。
「ふう。そろそろ暑くなってきたな」
「そうじゃの。ここから出るとするか」
「真剣勝負でしたものねー応援だけでもぽかぽかですー」
と話していたその時、またしてもあの光が!
「次は何がくるんだ?」
「ゆうしゃさまーもう慣れてますねー」
「お主もの、聖女よ」
「皆さん五十歩百歩ですよ。まったく」
光が治まった後にあったものは……
冷気を放つ4つの円柱であった。
「なんじゃこれ?」
「ふむ、見たところ冷たそうなことはわかるな」
「またまたー急にあらわれましたねー」
「これはですね、『補助魔術』の――」
「っと待て待て賢者よ。もうわかっておるのか?」
「皆さん解析結果を待ちませんからね。先に解析を進めていたのですよ」
「どうだ魔王よ。うちの賢者は有能だろう?」
「こんな序盤にわかるとそこで話が終わってしまうじゃろ? もっと考えよ」
「いや何メタッってるんですか。あなたが発言を考えてください」
「我、魔王じゃし」
というように、先を見据えた行動をしていた賢者。
ここで、少し引っ張れないのは残念でならない。
まさかの行動力。おのれ賢者。
「いま、理不尽に責められた気がしますね、僕」
「まーまー。あたしはこの物体が気になりますねー」
「そうだな。早く教えてくれ、賢者よ」
「はいはい。わかりましたよ」
そういうと今回の補助魔術について語っていく賢者。
この補助魔術が今の3人に一番必要なものであると知るまであと少し。
4つしかないものをどう分けるのか。どう取り合うのか。どうなるかは誰にもわからない。
「これは『補助魔術 ア=イス』というものですね。異界よりアイスクリームという甘味を召喚するようです。そ」
「ほう! ではこれらは甘味というべきか」
「これは迷うな。どれがいいのか」
「うん? そうですねー大小さまざまですねー。どれがいいのかー」
ボードゲームで戦い続け、あるいは応援し、体が熱くなった3人にはまさにうってつけのものであった。
しかしこれは数的に一人一つ。先に選ぶべきか、残りの方がよいのか。
まるで出方を伺うように周りをみる3人。
「「では、私は(我は)これにしようかな。む(ん)?」」
一度固まった空気を破壊できたのはさすが勇者と魔王である。
出方を伺うことはしつつも、主導権は逃さない。
しかし、二人の狙いは最も大きな円柱に集約していた。
ゆえに、こうなることは必然だったのかもしれない。
「ほう、勇者よ。我の狙う獲物を横からかっさらおうとは」
「ぬかせ、魔王。先に手を伸ばしたのは私だぞ。横から来たのはそっちではないか」
「位置的にはー正面同士ですけっ、いやなんでもないです」
「ならば勇者よ。ここはこの『ボド=ゲ』で決着といこうではないか」
「ふっ、望むところだ魔王よ。後悔しても遅いぞ」
大きな円柱をかけて再び始まった『ボド=ゲ』勝負。
流れに乗り遅れた聖女と賢者は二人で勝負の行く末を見守ることにしたようだ。
賢者は最後まで説明を聞かなかった3人に対し、しめしめという顔をしていた。
もともと説明に違和感を持っていた聖女は、その顔を見逃さなかった。
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「フハハハハハ、我の勝ちだな勇者よ! この『ア=イス』は我がいただく!」
「くっ! あそこで銀ではなく桂馬を使っていればっ!」
「いやーいい勝負でしたねー」
「ありがとう。それで聖女と賢者はどれを選ぶのだ?」
「いや、僕は最後でも構いませんよ。先に選んでください、勇者様、聖女様」
「では、お言葉に甘えて、次に大きいものをいただいてもいいか?」
勇者は魔王にとられた一番大きな『ア=イス』に次いで大きなものを選んだ。
「いいですよ」と言いつつも狙い通りと言わんばかりの顔をする賢者を見て、聖女は自分が選ぶべき『ア=イス』にあたりを付けた。
「ではーわたしはーこの一番小さいものでー」
「なっ!」
「ん? それでいいのか、聖女」
「意外じゃな。お主も大きいものをとるものとばかりに思っておったが」
「いいのですよー。たまにはーいいものをーけんじゃさまにーゆずろうかとー」
と笑顔で言う聖女。対する賢者は「やられた」という顔になっている。
誰も気にしていないという油断がこの事態を招いてしまったのだ。
今回召喚された異界の『ア=イス』
賢者の説明を途中で遮って話が進んだため、その大きさと価値が反比例しているのは、賢者しか知らないはずだった。しかし、知らないうちにしていた油断により聖女に見抜かれていた。
愚かなり賢者よ。先を読みすぎるからこうなるのだ。
これに懲りたら、もっと身近な範囲で行動するがよい。先を読み解析を終わらすなどしないことだな。
「なんか、すごい理不尽な仕打ちを受けた気がします」
「ん? どうした賢者よ。食べないのか」
「なんならーもらってあげますよー」
「食べます食べます。食べますよ」
ボドゲで熱くなった体を冷ますために、『ア=イス』を食べる4人。
またしても外に出る機会を失ってしまった。
この拘束魔術から逃れることはできないのか。この魔術はいつまで続くのか。
終わりの見えない時間はまだまだ続きそうである。