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発動! 補助魔術(1)

 ここは、一年中降る雪によって閉ざされた最北の地。

 魔物を用いて、世界を侵略していると言われている魔王の住む城である。

 その玉座の間にて、オンダン王国から送られた勇者一行と魔王との戦闘が行われていた。


 はずだったのだが……



「はぁぁぁ。にしてもこの魔術はやばいのぉ。この我がここまで拘束されるとは」


「まったくだな。あらゆる魔法に耐性を持つといわれる勇者の私でも、ここから抜け出せる気がしない」



 賢者の放った拘束魔術のせいで勇者一行と魔王の戦いは一時休戦となっていたのだった。



「にしてもーずっと入っているとー喉が渇きますねー。我々の荷物もここからでは遠いですしー」


「そうだな。おい魔王、部下に何か持ってこさせられないのか?」


「おぬし、それ敵陣に乗り込んできてる奴のセリフじゃないってわかっておるのか?」


「ふっ。毒を仕込もうが私には効かないからな。それに聖女は解毒できるし。賢者は、まぁ、何とかするし」


「いや、待ってくださいよ勇者様。なんで僕だけそんな適当なんですか? ひどくないですか? ほら、聖女様とか――」


「ぐーぐー」


「寝たふりヘタクソか! バレバレだわ! 気づくことはできても飲めませんからね! 敵から出された物ですし。」



 いや、一時休戦どころか皆くつろぎモードに移行しているようだった。そこには拘束魔術発動以前にあった戦闘中特有の緊張感など全くなく、まるで自宅でくつろいでいるかのようであった。

 そのような雰囲気であったこと、またそれに敵意がなかったこともあり、急に発動した魔術が放つ光に対して、4人はなんの反応もできなかった。



「なんじゃ!?」


「まぶしっ!」


「うわーめがー」


「この光はっ!」



 視界が戻った4人の目に映ったその物体は、一つ一つが手に収まるほどの大きさで、楕円形をしており、全体は橙色だが、頭に小さい緑色のコブを持っていた。



「なんなのじゃ? これは」


「今の光は……確か召喚系のものだったはずです。」


「ふむ。ならばこの物体はどこからら召喚された物というわけか」


「これってーもしかしてー拘束魔術の補助魔術じゃないんですかー?」


「ええと……ちょっと待ってくださいね。ざっと禁術のスクロールを見直しますので」



 誰も見たことがない物体の召喚に対して、4人に緊張が走る。

 しかし、それから距離をとることなく机の布に入り続けるのはどんなことにも対応できるという自信の表れか、もしくは……

 そうして緊張の空気をまといながらも賢者が禁術のスクロールを解析すること約10分。



「なるほど! すべて見たわけではありませんがおそらくこの補助魔術ですね」


「やっぱりー解析は早いですねーさすがですー」


「ほお。こんな短時間で禁術を解析し、補助魔術にあたりを付けるとは。やはりやりおるなお主」


「ふふん。すごいだろう? うちの賢者は。やらんぞ」


「まだ何も言うとらんわ、たわけめ」


「それよりーこの丸い物体はーなんだったんですかー?」



 聖女のその言葉に対して、言い争いに移行しようとしていた勇者と魔王も静かになり賢者に対して、皆の視線が集まる。



「おそらくこれは『補助魔術 ミ=カン』というものですね」


「やっぱりー補助魔術でしたかー」


「して、その魔術の効果はなんなのじゃ?」


「効果はですね、簡単に言いますと果物を召喚するようです」


「つまりこれは食べ物ということかな?」


「ええ、その通りです勇者様。橙色の皮を剥いて、中の果肉を薄皮ごと食べるそうです。いくつか剥き方まで書いてますよ、これ。見ててくださいね」



 そう言うと賢者はスクロールに書いてある通りに橙色の皮を剥いていく。剥くたびに香ってくるその甘いような酸っぱいような香りは、体が温まりほどほどに喉の渇きを覚え、かつ小腹の空いてきた4人に我慢できるものではなかった。



「ほら、これをひとつづつ分けて食べるそうですよ」



 星形に剥かれた皮の上に置かれた白色の果肉。それを分けていく賢者。他の皆はその果肉に釘付けになっていた。



「では、最初に食べさせていただきます。あー ――」


「あむっ。おお! 甘いぞ! おいしい!」


「あああ! 勇者様。なななっ、なにするんですか!」


「い、いやぁ、毒味だよ毒味。ほら、毒があったら大変だろう。さあ毒はなかったからみんなで食べようじゃないか。水分量も多いぞ、この果物」


「おおー喉も少し渇きましたもんねー」


「そうじゃの。これで空腹も解消できるしの」



 もう誰も召喚されたものに対しての警戒心はなかった。毒がなく、水分も補給でき、空腹も満たせるとなれば、現状で最高の食料である。

 そうして彼ら彼女らは外に出るチャンスを一つ失ったのである。

 いったいいつになればこの拘束魔術から逃れられるのか。そもそも拘束されているという実感すら持たないようになった4人であった。




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