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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第四話 頂点者達
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15th ACTION 成るべくして(二組の来客)

 アリシアと別れたフォロウはアリシアとのやり取りがまだ頭の中で渦を巻いてリフレインしていた。自分と彼女の立場、身の上、貧富の差。何も知らなかった自分のしてきたことは結局何も考えてないのと同じなのではないか。


 どこをどう動いたのかよく覚えていないまま、気が付くと彼はシャインウエーブ号の外で働いていたロック達と再開していた。

 船体の修理状況の最終確認をしているリカルと次の目的地までの航路を計算しているコーラル、そしてケガの治療を済ませ、物資の補充量を確認をしているロックが同じ席で作業している所へやってきた彼は、自分と町長とアリシアの間に起きた出来事を興奮しなから早口で説明し始め、一体どうなっているのかと言ってフォロウが話を切った時、ロックとリカルはそろって口を開くと、「やっぱりね」と一言だけはっきりと言い切った。


「やっぱりねって、二人はこうなると初めから知っていたのですか!?」


 興奮冷めやらぬ所に聞かされた言葉はフォロウを更に興奮させる。

 これほど落ち着きを無くした彼を見るのは初めてだったリカルは、このままだとまともに話が出来ないと思い、とにかく彼を落ち着かせようとして飲み物の入ったビンを彼に勧める。


 リカルが勧めてきたビンの中身をフォロウはあおるように一気に飲み、次の瞬間盛大にむせてようやく話を止めたのだった。


「これ、中身ビールですか!?」


 リカルに軽く背中をさすられながら呼吸を整え、ようやく喋れるようになった第一声がこれである。

 あまりに間の抜けた声で聞いてきたので、三人はそれぞれ顔を見合わせてからフォロウに目を向け、ロックはこぼれたビンの中身を見ながら不機嫌になり、リカルはまだまだといった感じで顔をしかめさせ、コーラルは彼の一生懸命な所に小さく笑みを浮かべていた。


「ちょっと、もったいない事しないでくださいよ」

「そうよそうよ、せっかくロックがおごってくれたものなのに」


 むせて中身を吹きこぼしたフォロウに、なぜかロックが少しムッとした口調で声をかけると、リカルもロックに同調するような旨のセリフでフォロウに声をかける。

 ところがリカルの言葉が気に障ったのか、ロックは表情を変えずにリカルに顔だけ向けると彼女にも不機嫌な声をぶつけ始めた。


「誰がいつおごったって?人が楽しみで買ってきておいたエールを半分以上持っていきやがって!お礼の言葉だけじゃ割りに合わないんだけど!?」


 どうやら元はロックの物であったビールをリカルが持って言った事に対して彼は怒っている様だ。しかしそれを聞いてもリカルは特に詫びれる様子もなく、ロックの言葉にも首をかしげていた。


「だってあなたはケガしていて、先生からも治りきるまで飲酒は禁止されてるじゃないの。置きっぱなしにしてたらあなた絶対飲むから、だからアタシ達が飲もうって……」


「だったら隠しておくとかしておけばいいだけだろ!なんで飲むんだよお前ら、訳がわかんねえよ!!……ああもう!先生も先生だし!失血の量が思ったよりも少ないとみると、輸血用の血液はとっておきたいから自分で血を作っておいてくれってこんなもんよこして。並みのヤブ医者だってこんなことしねえぞ……」


 リカルの言葉に散々愚痴をこぼすと、ロックは脇に置いていたグラスを手に取り、その中にミルクを注ぐと間を開けずにそれを口に付けてグラスの半分ほどの量を飲んだ。


 CAの剣に刺し貫かれた彼の右肩は、彼自身がかけ続けていた回復魔法のおかげもあって致命傷にはなっていなかった。


 船に帰ってきた彼を出迎えた船医はバイタルスキャナーで彼の患部を確認、ケガの度合いを見て完治が可能だと診断すると、医療装置と医療用ナノマシンで砕けた肩の骨を接合し直し、痛み止めを打ってからギプスで肩を固定した。


 今のロックはノースリーブのシャツを着てケガをしている事が周りに分かるよう患部を露出させている。彼自身も痛み止めが効いているので生活にはそこまで支障が出ていないが、それでも右手はしばらく使えない状態になっている。グラスを掴んだ手も、ミルクを注いだ手も全て左手だ。


 そんな状態で少し窮屈そうにしながらミルクを飲むと、今度は皿の上に乗っている小魚の煮干しを少量掴んで口の中に放り込んだ。


 正直つまみとして食べるには味的にも良い組み合わせではないのだが今日はこれを口にするようにと船医の先生に言われたので、早く身体を治そうとロック的にはヤケと意地でそれらを口の中に入れていった。


「ほらほらオーナーにチーフ、真面目に話を聞いて差し上げましょうよ」


「失礼ねーコーラルさん、ちゃんと聞いているわよ。そうよねロック」


「そうそう、アリシアがあのダメな町長ぶん殴って町を出るって言ったんだろ。そこまでは聞いたぞ」


 むせこんで話の腰を折られたフォロウに助け船を出したのは、同年代でなんとなく他人とは思えない物を彼の中に見出しているコーラルだった。リカルと一緒になってフォロウの背中を軽くさすって介抱すると、ようやく落ち着いたのかフォロウも再び会話に参加し始めた。


「と、……とにかく、あなた達はアリシアが出ていくということが分かっていたのですか?」


「まあオレがアリシアと同じ立場だったら同じ事して町から出ていってたな。でもあの子が町長をぶん殴っていくとは思わなかったけど。せいぜい話がこじれて失敗して、それを理由に出ていくかもとは思ってた。町長との和解とかアリシアにしてみれば今更感が強すぎるからな」


「大人の都合で虐げられてきて、そんな状態なのに大人は誰も助けてくれない。大人達に認めてもらおうと背伸びして頑張ってみても誰も評価しないどころか余計目の仇にされる。協力する話に町長が乗ったってあなたは言っていたけど、アタシの見方じゃ町長は町の外の人間に冒険者達と仲良くなった事をアピールしたい、って考えが見えるから、その約束自体ちゃんと守るか怪しいのよね。結局大人は当てにできないし、現状を変える気が無いからあの子のしている事は空回りだもんね。アリシアは溜まったうっぷんを晴らす意味も込めてそんなことしたんでしょうね」


 ロックとアリシアから説明を受けるとフォロウも改めてアリシアが拒んだ理由が分かってきた。それが分かってくると自分の浅はかさが改めてフォロウの心にのしかかってくる。


「私が余計な事をしたからアリシアは町を出ていく事になったのでしょうか?」


「んー、それはあんまり関係ないと思うわね。エイペックズの他の人達の話も聞いたことあるけど、元々この町に思い入れとか無いみたいだし、今回の事は切っ掛けだったでしょうけど、これが無くてもそのうち何らかの理由で町から出ていくつもりではいたとアタシは思うわ」


「それより彼女たちはこの町を出ていってどこに行く気なんでしょうね?親元の所にかえるのかな?」


「アリシアたち姉弟だけならともかく、チーム全員で町を出るんだったらそれは無理でしょう。何十人も抱え込めるかわからないのに。せいぜいオレたちみたいに流れ者になる位しかないと思いますよ。小さい子もいるから上手くいくかわからないけど」


「あるいは同業者に自分たちを売り込むか別の町に住みつくか、まあ聞いた話だと兵隊としての実力はあるらしいからどこでもやっていけると思うわよ。お金があればアタシが雇いたいくらいだわ」


 フォロウの呟いた言葉を受けて三人はそれぞれ思ったことを口にする。彼を慰めようとする気持ちも見えるが、ほとんどが言葉を真に受けて自分の気持ちを言葉にしているだけなのでフォロウのためでもなんでもない言葉だらけだった。


「そんなに気になるんなら本人たちに話を聞けばいいんじゃねえの?」


 そんな彼らに声をかけたのは、今までどこにいたのかひょっこりと現れたリープだった。

 彼女の声を聞いた全員がその方向を振り向くと、彼女の隣に立っている人物に目が留まり全員が驚いて目を丸くした。特にフォロウはイスから勢いよく立ち上がり、その人の事をひどく動揺した表情で見つめていた。


 リープの隣、全員の視線の先には、今まさに話題に上がっていたアリシアがいたからだ。


「アリシア!何故ここに!?」


「フォロウ……。あなたがここにいるなんて……」


 フォロウとアリシアがほぼ同時にそれぞれに向かって口を開く。再び止まりそうになった二人だが、その間にリカルが入ると強引に割って入り話の流れを無理矢理自分の方へと引き寄せる。


「はいはい、フォロウはちょっとそこいらで待っててね。アリシア、あなたがここに来たってことはアタシ達に話がある、という事で良いのかしら?」


 フォロウがいると話が進まないだろうと感じたリカルは彼をアリシアの視界から一度遠ざけ、彼女が自分しか見れないように顔の近くまで近寄ってから体を屈め、リカルはアリシアの目を見ながら彼女の訪問理由を尋ねてみた。


 そのアリシアは、やはりフォロウの姿を見てしまったためだろうか言葉を発するのに少々抵抗があったようだが、やがて意を決すると一つ大きく呼吸をしてから気持ち大きな声を出した。


「リンさん。お願いします、ボク達エイペックズを雇って下さい!」

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