13th ACTION 遅れてきたモノ 『……シュート!』
普通の拳銃の構造に、外部から受ける衝撃を分散させ、さらに全体の剛性と衝撃に対する弾性を強化することで、拳銃でありながらナックルのように格闘戦をこなすことが出来る特殊拳銃。この拳銃を使用する武術を銃式格闘術と呼ぶ。
心身を鍛え技量を研鑽することで強くなっていく格闘術においても弱点はある。その最もたるものが攻撃リーチの短さである。
自分の手足を中心に戦う以上は武器を持っている相手に対しては明らかに負けてしまう、その弱点を補うために考案された格闘術である。
しかしその扱いの難しさから格闘家達の間でも廃れてしまっており、今では少数の傭兵やハンターがその技を細々と守っているという状況である。
そして、ロックの言葉に出てきたドラグナーとは、CAでの戦闘を前提とした対マシン戦のスタイルである。先ほどのようにコンピュータに対しての妨害電子戦を行うことも、その逆に仲間が使用しているコンピュータの性能強化を行う電子戦も出来るが、本来の戦い方はCAを装備した状態で他のRUと連携を取りながらの戦い方である。
ざっくりとした説明だとエクストリーマーの戦い方と似たような印象を受けるが、彼らの連携とは主にRWの上に乗り、砲台役となりながら相手を攻撃する方法が中心となる。
戦闘機の翼の上に乗る事はもちろん、パペットの肩や背中のバックパックに身体を固定しながら、時には機体の上を駆け巡りながらRUと戦っていく。
といった具合に命がいくつあっても足りない戦い方をするのでこちらもなり手がほとんどいない状態だ。
そんなマイナーとも言える戦い方を二つも、自分より年下の少年が使いこなしている。それだけでもロックの興味を引くには十分だった。思わず治療の手を止めてしまいそうになるほどプライドの方を見ている。
CAのリーダー機を撃破すると、プライドは少し離れたところで戦っているリカル達に目をくれる。リーダー機を介してリカル達と戦っているCA達にもプライドはハッキングを仕掛けていたため、彼らも身体に異常をきたしていた。
それもあってリカル達は初めの時に比べるとかなり彼らとの戦いが楽になっている。しかしあまりにも急な変化のため彼女たちはかえって警戒を強くしており動きに大胆さが無く、また、効果的にダメージを与えることのできる武器を失ってしまったため、まだCAを倒すことが出来ていなかった。
CAのセンサー波をリカルに合わせると、先ほどのキーボードを展開してコマンドを入力、彼女のインカム周波数を確認するとその周波数に割り込み、彼女に声を伝える。
「姉さん方、すぐにそいつらから離れてこっちに来てくだせえ」
突然聞こえてきた声に戸惑いながらリカルがあたりを見渡すと、見慣れないCAを着込んだ誰かが大きく手招きしている。
どんな相手かわからないという不安はあったが、CAに対しての決定打を無くしてしまったリカルには悩むための時間も贅沢なものだった。
リープについてくるよう声をかけると自分の勘を信じて躊躇うことなく走り出し、自分を呼ぶ声に従ってCA達から離れだした。
一方声をかけたプライドは、リカル達とCAの距離を注意深く見ながらイグニッションスペルを唱えている。
低音でよく通る声を出しながら両腕を前に突き出すと、手首の上下についている銃口から薄暗くて濃いピンクの光が漏れ出している。
先史文明時代においては機械と魔法はかなり密接した関係性を持たせる事が出来ていたらしい。例えばこのCAに搭載されている二つの装備品。
マナエンジンは空間のマナを機械的に取り込む事が出来るため、マナを活かしきれないため自身のフォース消費量が不安定になってしまう術者が安定して魔法を使うことが出来る。
そしてフォースブースターが搭載されている装具を使って術者が魔法力を増幅させると、術者が普通に使用するよりも効果の強い魔法を展開することが出来る。
CAから逃げているリカル達も前にいる人物が何か行動を起こそうとしている事に気付いたので、全力で走ってCAから何とか距離を離していく。彼女らの距離が開いたのを確認すると、プライドは目を細めて攻撃ポイントを見据え、最後の言葉を言い放つ。
「響き砕け……、ボム・ウーハー……シュート!」
ドライブスペルと共に銃口から撃ち出された魔法の光は走る二機のCAの足元に着弾。解放された音の魔法はドーム状の力場を生み出すと中に入ったCA達に重低音の衝撃を与える。
打撃や斬撃、銃撃などには耐えられるCAも、純粋な衝撃を身体全体に浴びせられるのは堪えるらしく、ドームの中で一気に膝を落として崩れ落ちた。
「……メガウェポン、セット」
力場に捕えられ、動きを止めたCAを見るとプライドは淡々とした調子で一言命令コードを呟く。
それと同時に背中に装備されている二門のビビッドレッドのランチャーカノンが左右に動き、下側の可動部を基点に上側の砲口が後方に稼働。そのままグルリと回転すると、プライドの脇腹あたりでカノンが水平になる。
「ウェポンホールド、コンプリート。エネルギー、メガチャージ」
脇腹にセットされたカノンをそれぞれの手で持つと、エンジンからのエネルギーをカノン砲に供給させていく。
カノン砲にエネルギーが供給されると、チェンバー部分のエネルギーメーターに現在のチャージ量が光となって現れる。
走るリカル達は目の前で起きている状況を見て正体不明のCAが何をしようとしているのかを察すると、攻撃の射線から外れるために、斜めに大きく広がるようにがむしゃらに走りだした。
走る二人が進路を変えてプライドの正面が開けた瞬間、カノンのエネルギー充填も完了する。バイザーに照準を出すとCA二機に狙いを定める。腕と身体を動かして誤差を修正すると、最終セーフティを解除した。
「メガ・ツインキャノン、シュート!」
ランチャーカノンのトリガーを引くと、充填されたエネルギーが砲口部分で圧縮されて輝き、次の瞬間、強烈な光の柱が二本プライドの身体から伸びていく。
光の柱はそれこそ目にも止まらない速さで真っ直ぐ突き進んでいくと音の魔法の力場に閉じ込められているCA二機に衝突、膨大なエネルギーを周囲にまき散らしながら爆発を引き起こした。
……数秒後、エネルギー爆発が収まると、あとに残っているのは爆発で抉れた地面と大小の金属片のみ。CAは二機そろって破壊された。