8th ACTION 長い一瞬(一瞬を繋いで)
轟音を出しながらガラガラと崩れ落ちていく遺跡の巨大な一本の柱。見ている方は長い時間を掛けてそれが崩れ去っていくような錯覚を覚えるが、実際にすべてが崩れ去るのに大した時間がかかることはなかった。
上空に退避していたリープがかつて柱だったもののガレキの上に立ったときには、あたりに動くものは何もなかった。敵も味方も、有機体も無機物も。
リープは目の前の今を信じたくはなかったが、その惨状を見てとても何かをしようとする気にはなれなかった。
しばらくその場に立ち尽くし、やがてどうしようもないと判断したリープがガレキの上から飛び立とうと翼を羽ばたかせたとき、突然近くのガレキの一部が大きな音と共に四方八方へと飛び散った。
いきなりの出来事に驚いたリープが飛ぶのを忘れてその方向を見ると、土煙の中に人影らしきものが見える。
各センサーを使って土煙の中を見ると、彼女は自然とその顔の表情を緩めていっていた。土煙が完全に晴れるとそこには、片膝をついてロッドを構えているロックと、その両脇にはリカルとフォロウが頭を低く伏せている姿が見えた。
「無事だったかみんな!」
三人の無事を喜ぶリープに、立ち上がったリカルが手を振って答えるとそれを見たリープも三人のそばまでやってくる。
「三人ともあの状況でよく無事でいれたな!」
「目を覚ましたロックが柱の崩れる直前に風の結界を張って守ってくれたのよ」
そう言ってリカルも膝をついてロックの隣に身を屈める。ロッドを持ったままのロックは顔を下に伏せていたが、しばらくしてから一言だけつぶやいた。
「……気持ちわりい……」
そうつぶやくとロックの身体はゆっくりと前のめりに倒れていく。
リカルとリープが慌ててロックを支えようとしたとき、別の方向から伸びてきた腕がロックの肩をつかんで彼の身体を支えた。フォロウが支えたのである。
「ふう、危なかった。ロックさん、病み上がりみたいなものだからこれ以上動かすのはやめさせた方がいいのでは?」
「そうね、まだ体も動かないみたいだし、アタシらだけで調べましょうか。ガーディアンはもう動きを止めておいたから大丈夫だろうし。フォロウさん、アタシたちで遺跡のお宝探してみますので、ロックのことをどこかで見ていてください」
リカルの頼みを聞き入れたフォロウは、とりあえずガレキの上ではロックも休めないだろうと床まで彼を降ろす事にした。
足場が不安定だったのでリープにも手伝ってもらいながらロックを平らな床の上に寝かせると、リカルは先ほどまで使っていた医療ユニットをもう一度ロックの周りに展開し、その後リープと共に遺跡の闇の中へと潜っていった。
残されたロックのそばにはフォロウがつきそい、今は目を覚ましているロックと二人きりになっていた。もっともロックの方はまだ身体も満足に動かない状態で、受け答えをするのも辛いからか、目を開けているが一言も言葉を発しないでいた。
ロックがそんななので自然とフォロウも言葉を出すことなく黙り込んでしまい、そのまま時間が過ぎていった。しばらくその状態が続いたせいか、さすがに我慢が出来なくなったフォロウが口を開いた。
「あの、一つだけ聞いておきたいことがあるのですけど、皆さんはどうして冒険者になられたのですか?」
「……聞いてどうする。気になるのか?」
相変わらずロックの声は苦しそうなものだったが、それでも先ほどに比べればかなり聞き取りやすい話し方をしている。体調不良のために言葉を選んでいられないロックの口調の荒さをとりあえず置いておき、フォロウは一言気になると言って、言葉を続けた。
「こんな生命の危険もあるような事をしなくても、暮らしていくだけならもっと安全にできることがたくさんあるでしょう。今もロックさん死にかけたりしたし、なぜそこまでして全てを賭けるようなことをしているのですか?」
フォロウの言うことは比較的もっともな意見である。だからこそ答える必要がある。
まだ本調子ではないあちこちだるい身体に気合を入れ、呼吸を少し整えるとロックはゆっくりと、低めの声であまり大きくはないが力を込めた言葉で質問に答える。
「オレが冒険者になったのは冒険者になりたかったからだな。憧れというか、情熱というか。でもいざ色々なものを知ってみると、そのうち単純に楽しいから冒険したいって、そんな感じで。リカルは聞いた話じゃ昔自分が言って回ってた考えが正しいのか、その答えを過去から探したいと言っていた。リープはオレが起動させた相棒だからオレについてきてくれている」
「それだけ、ですか?なんだか単純な理由というか、動機がすごく希薄な感じがするのですけど」
「リカルや他の連中はどうだか分からないけど、オレの事に関しちゃ確かにそう言われても仕方ないな。でもな、明日の事どころか今日これからのことだってわからないようなこんな時代だ。生きる目的なんてパッと思いついたことでもいいからそいつに本気にさえなればそれでいいと思うんだよな。だってそうだろ、何もしないで、昔からやってきていることをただ守っているだけの連中より、ずっと生きてるって感じがするだろ?」
「生きるために死にかけちゃ元も子もない気がしますけど、少なくともロックさんの理由はわかりました」
そういうとフォロウはロックに軽く頭を下げてお礼の意を表した。それを見たロックはまた態勢を崩すと少し寝るとだけ言って目をつぶる。
目をつぶったとたんに寝息を立てだしたので、ロックもまだ本調子ではないことをフォロウが知ると、腰のホルスターから護身用の拳銃を取り出しておき、何もないことを祈りながら周囲を警戒し始める。
そうやって彼はリカルたちが帰ってくるまでロックのそばを離れず、ロックの護衛を勤め上げたのだった。