7th ACTION L.D.C 遺跡調査(荒野の中の遺跡)
遺跡への案内役を確保したロック達は一度船に戻ると仕事の支度を行い、コーラル達に留守番を頼むとフォロウと合流、そのまま現場まで案内してもらっている。CAを持ち帰る事を考えてロック達は運搬用に馬力を持っているRBジープを持ち出し、運転をリープが、助手席にはフォロウが乗って走っている。
「しかしなんだなー」
そして後部座席に乗っているロックは自分の装備のチェックを行い、リカルは遺跡に入る前に行うと言って窓の外を見ている。する事をしながら声を出すロックにリカルが反応すると、ロックはやはり装備品に目を向けながら話を続ける。
「フォロウの頼みごとって自分で告白する勇気が無いから付き合ってくれー、ってのと同じだよな。正直こんなんでいいのかなー?」
「まあ確かに男らしくは無いだろうけど、それでも何もしないでうじうじしているのよりはましだし、それにアタシも恋をしている女の子だから力を貸してあげたいな」
女としてはそんなものなのかと、リカルの言葉を聞くとロックはそこでこの話題を止めにした。目的地に到着したからだ。
案内された場所にあったのは小さな扉が一つだけ、その扉も周りの岩などの風景に混ざっており見づらく、よほど注意をしなければそこに扉がある事など気が付かないだろう。そもそも扉自体が岩山の上にあり、場所からしても見つける事が難しくなっている。
「確かにこんな場所じゃ、案内が無いと見つからないわねー」
少し強い風が吹いている岩山の上で、リカルは髪が乱れないように片手で軽く頭を押さえながら辺りを見渡していた。ロックは周りの景色もそこそこに扉に近づくと周囲を調査し始めた。
人の出入りも少しはあったらしいので扉の鍵は空いているとフォロウから聞いてはいるが、それでも気になる物は自分で調べる性格なロックであった。
少し調べて扉のコンソールに手を添えるとフォロウの言うとおりに簡単に扉は開いた。それを見てロックは満足したように頷いていた。
分かっている事なのになぜそんな事で満足できるのか、ここにいるロック以外の人達には全く理解のできない事だった。
とにかく扉は開いたので全員が開いた内側を見ようと覗き込む。やっぱりと言うか当然と言うか、扉の先の通路は光も無く真っ暗であり、外の光もその通路の全てを照らし出す事は出来なかったらしい。
漆黒とも言うべき暗さにフォロウは少し身構えて扉から二歩ほど後ずさる。一方ロック達は装備の中からライトを取りだすと、それをインカム・メットの拡張部分に取りつけて灯りを確保した。
予備のライトをフォロウに渡すと、いよいよロック達は遺跡の中に足を踏み入れた。
「そう言えばここの遺跡はどうして入り口も分かっているのにちゃんとした調査がされなかったの?」
遺跡にはいった直後に、リカルは疑問にしていた事をフォロウに聞いた。いくら町の人達が冒険者を嫌っているからといっても遺跡を調査する位なら町に迷惑がかかる事もないし、仮に何か起きたとしてもすぐに封印をかけてしまえば少なくとも直接的な外への影響は最小限に出来る。少なくとも嫌いだという理由で危険物かどうかの確認をしないほうがもっと危ない事になるかもしれないからだ。
「詳しい事は分かりませんけど、一本道の通路がずっと続いていて、そのまま行き止まりになるそうなんですよ。三年ほど前に町の住人が偶然この入り口を見つけて、当時の自警団で調査をした時の報告がそうだったそうです。そうした結果中には何もない、という事だったときいています」
「一応調べたのね。それで害がないから放っておいたと。でも素人の調査でそんな大事な事判断していいのかしら?」
話をしながらも四人は一本道を奥へ奥へと進んでいく。入り口から入って十分ほどしたあたりだろうか、外の光が全く届かなくなった中、ロック達の持っているライトが道を遮る壁を照らし出した。
そこからぐるりと辺りを見渡すとフォロウが言っていた通り、周りには壁以外、これといって変わった物は見つからなかった。
「確かにざっと見は変化も無いし、ガーディアンが出てくる気配も無い。普通の連中ならこれで異常無しで引き揚げていくんだろうけど……」
「それが一つ所で住み続ける草の人、土の人達の限界ね。こんなのアタシ達からすれば調べる所だらけだってのに」
「やっぱりここには何かありますか?」
ロックとリカルの態度が先程と少し変わっている感じのしたフォロウは、遠慮しがちに二人に声をかけると、二人はその声に対して同時に頷いて見せた。
「何かありますか、っていうより、何かないとおかしい、ってのが正しいな」
「そうなのですか!?」
「そりゃそうよ。アナタ、昔の人達が趣味や遊びでわざわざこんな長い一本道を作ったと思っているの?自然物ならともかく人工物なら絶対作られた意味があるの。そう考えられるかどうかがアタシ達とアナタ達の違いなのよ」
「違い。先程言っていた草の人とかの事ですか?」
疑問を投げかけるフォロウに「聞こえていたのね」と呟くと、リカルは一緒に持ち込んできた様々な調査用の道具を出しながらその質問に答えていく。
「昔っから言われている、ハンターとそれ以外の人達に対する呼び方ね。一つの土地に住んで一生を迎えていく人達の事を、大地に根を張る草に例えて草の人、もしくは土の人と呼び、反対に土地から土地に根無し草で渡り歩くハンターや冒険者の事を、鳥の人や風の人と言うの」
「もっとも今は冒険者が使う言葉として残っている感じで、普通の人達は意味さえ知らないのかもしれないけどな」
二人の会話に割って入る様にロックも話に参加する。彼の方はすでに通路の隅にしゃがみ込んだ体勢で、道具を使って念入りに調査を行っていた。それに遅れてリカルも壁際などを調べ始める。
フォロウはリープに呼ばれると、彼女と一緒に二人から少し離れた。道具を持ちながら壁や天井、床を調べる二人。
シッポをゆっくりと振りながらロックは行き止まりをくまなく調べ、リカルは別の壁を軽く叩きながら耳を動かして何か音を聞いている。
そんな二人を見ながら離れた場所にいるリープは、何やら低い起動音を出しながら目を開き、網膜に当たるモニターに走査線を出しながら何かを呟いている。
そしてその三人を見ているフォロウは自分が持っている常識とはかけ離れた行動を取っている冒険者達が別の世界の存在に見え始め、途端に自分がすごく場違いな場所にいるという孤独感を感じてしまっていた。
そうしてしばらくすると、調査を終えた二人がリープ達のいる場所に戻ってきて、各々が調べて分かった事を挙げていった。
「下があるな」
「下があるわね」
「反響音から見てかなりの空洞が足元に空いてるな」
少しの討議の後、三人が出した結論だった。答えが出た所で次は下への行きかたを探す三人。
今度はリープも直接探そうとしたが、彼女が動くと通路が不自然にきしむので、二人に来るなと言われて先ほどの位置まで下がっていた。通路を丹念に調べるリカル達を見ながら、自分はそんなに重くない、自分の重量を支えられない通路が悪いとリープは不満げにぶつぶつとつぶやいていた。
「あの、聞いてもいいですか?」
先程から場所を動いていないフォロウが戻ってきたリープに手を挙げて声をかけると、リープは「ん」と短く声を出して彼の方に向いた。
「どうした改まって?」
「下に何かあるのは皆さんの話で分かったのですけどわざわざここから降りる道を探さないといけないのですか?ここなら穴を開けてロープか何かで下まで行けるかもしれませんし、ここに限らなくても外から入れるかも知れないでしょう?」
「へぇ、なかなか良い所に目が行くじゃん、冒険者でも無いのに見直したぞ。でもその考え方ではまだ足りないな。まず初めの意見だけど、俺達はこれから重量物を見つけて持って帰らなくちゃならねえ。ロープで昇り降りなんてしてたら引き上げが大変だ。そんで二番目のについてだけど、この辺りは岩山だろ?下側の入り口は岩山の下や中腹に隠れていたり、場合によっては岩でふさがっているかもしれない。だから外からは探せないかもしれないな」
そう言ってリープがフォロウの質問に答えていく。口調は相変わらずだが分かりやすく聞かせようとはしていたので何とかフォロウにも理解をしてもらう事は出来た。答えを聞いていたフォロウもそこまで考えながら調べている事に一種の感動を覚え始めていた。
「おーい、降りれるようになったよー!」
その後も色々と話をしていたリープとフォロウにリカルの声が届く。
フォロウが声のしたあたりを見てみると、リカルの立っている通路の下側が不自然に盛り上がっていた。近くへ行って見てみると、通路の一部が折り畳みになっており、この場所を畳む事で下層までの大きめな穴がぽっかり開く仕組みになっていた。
ここからどうやって降りるのかとフォロウが考えていた時、下から何かが動いてくる音が聞こえてきた。穴から下を覗いていると、下の方から床がゆっくりと登って来ていた。
「作業用のエレベーターが隠れていたのか。するとここは資材の搬入口か搬出口なのか?」
「どっちかっていうと非常口になるんじゃないか?このエレベーターも簡素な造りだし」
リープの言葉に答える様にロックの声が聞こえる。その声が三人の後ろから聞こえてきたのでフォロウが振り返ると、ロックは行き止まりになっていた場所からみんなの所に歩いてやってきた。どうやら非常口の解放を行うスイッチが別の場所にあったらしい。
なぜわざと不便な作りにしたのだろうかと思いながらも、フォロウは元の向きに身体を直すと再びエレベーターに目を向けた。
そんな彼を置いておき、リカル達は下の安全確保をまず誰で行うか話しあっていた。と言っても、話もそこそこで緊急事態に一番対応しやすいとの事でリープがまず下に下りて危険が無いかを調査する事になった。
「しっかし強度的に脆そうだなこいつ。俺が乗っても大丈夫なのか?」
「まあ最悪壊れても直せば使えるだろうさ。どうしても気になるなら直接下に下りたらどう?」
実際重量制限が何トンまでか分からないのでロックの答えも適当なものである。少し考えた後、リープは自分のボードを使って下りる事にした。
エレベーターを手動で一度下げ、半分辺りで止めるとリープはボードに乗り粒子を展開、次いで服としてボディと同化させていたレギオンメタルの翼を出して大きく開くと、エレベーターが止まっていた穴に飛び込み下を目指して下りていった。
リープが使っているSBは昔の軍で使われていた重装備・強行軍用の物で、小回りは利かないが出力と重量耐性に優れているため、戦闘装備で3トン近くになる彼女を乗せてこの様な活動が出来るのである。
墜落しない様にゆっくりと地面を目指しながら下に下りていくリープ。先程彼女が行っていた反響音調査で彼女はここの高さが20メートル位だと知っている。そのため今の彼女は周囲に危険物や異常が無いかを、装備しているセンサーを使って調べながら下りている。
そうして時間はかかったが、リープは無事に一番下の床に着地出来た。センサーアイで周りを見渡しとりあえずの安全を確認できた時点で彼女は上で待っている仲間たちに下りてくるよう連絡を入れた。
再びエレベーターを上に上げて、三人がそれに乗り込むとリカルが下へ下りるボタンを押した。非常用のエレベーターと思っていたが意外に速度が速く、簡単な手すりだけであまり安全設計されていなさそうなエレベーターは上の階層から一番下まで一直線に下りていった。
「ロック、アタシは先に下りてリープと合流するから。あなたはフォロウさんを護衛しながら下りて来てね」
そう言いながらSスティックを取りだすと、リカルはそれに掴まり半分位まで下りたエレベーターから離れ、一人で下に向かって下りていった。突然の事なのでロックは彼女に返事が出来なかったが、行ってしまったものは仕方が無いので彼女が言った通りにフォロウを見ながら下に向かって行った。
スティックを縦に持ち、垂直に降下してリカルはリープの近くに着陸した。
地面に足を付けるとすぐにリカルはスティックをしまい、代わりに愛用のナイフと空弾銃を取り出して周囲の警戒を始めた。レーダーが今安全を示していても敵はどこから現れるか分からない。まして古代の遺跡の中ではこちらの常識の超えた所から何が現れても不思議ではない。
下の二人は慎重になって上からの二人を待つ。少しして少年二人を乗せたエレベーターが下層に下りてくる。
ここまで何もない事に一旦安堵の表情を顔に浮かべ、リカルが後ろを振り返り少年達を迎えようとする。上から下へすっと目線を動かしていると、エレベーターの到着地点に何かでっぱりみたいなものが出ている事に気が付く。
スイッチみたいなそれを見ながら何故こんなものが付いているのかと考え、それに対して一つの可能性を考えたとき、リカルはすぐに声を出そうとした。
しかし時すでに遅く、エレベーターが地面に到着するとそのスイッチも押された。スイッチが押されるとすぐ、エレベーター周辺に強烈な光が当てられる。
強力なスポットライトで照らされた四人は全員が視界をやられてしまい、その数秒後、どこからともなく現れた番人達が、四人に目がけて進撃を始めてきたのだった!