6th ACTION 「嫌っている相手を喜ばせる手伝いなんか出来ないものな」(メンドくさい要求)
思い出すのも腹立たしいといった表情をしながら、リカルは先程庁舎であった事をプライドに話して聞かせた。
「あの町長らしい冒険者嫌いで。でも皆さんも冒険者なら、そんなに怒る様な条件でもねえとおもうんですが?」
「アタシらが怒ってるのは別の事よ!」
「本当にCA持ってきていいのか気になったから、庁舎の周りでそれとなく聞きこんで見たらよ、ただ単にあの町長が鎧とかのアンティーク好きだってんだ。結局自分のおつかいを俺らにふったんだよ!何が町の歴史財産の交換だよ、白々しい」
リカルの言葉に反応したのか、先程まで話に参加していなかったリープもめいそうの様な構えを解きながら会話に混ざって来た。
「ああリープ。何か良い情報はあった?」
「ネットワークや昔のデータを見てみた。確かにこの付近には色々な遺跡があるな。でもCAが発掘されたって遺跡の情報は町長が言っていた28年前の事例だけみたいだ。こいつは自力で探すしか無い様だぜ」
「そうなると手当たり次第ね。全く、面倒な条件を押しつけてきてさ、何様のつもりだろ」
「まあ、オレは手当たり次第ってやり方好きだけど」
「目的はプレートだけ。時間がかかればそれだけ滞在費とか色々出費がかさむんだからよそ見している暇なんかないわよ」
「……遺跡に入って探す気ですかい?」
そんな三人のやり取りを見ていたプライドの声に気付いたロックは、彼の声が不満気な感じになっている事にも気がついた。
「いけすかない相手には違いねえけど約束した以上は守らないとな。とりあえず最低限の対応ってヤツだ」
「まあ、こっちが約束守っても向こうが難癖付けてくるようならまた考えなくちゃいけないけど、とりあえずいきなりお尋ね者って状況だけは避けないとね」
「ケンカは嫌いじゃないけど、何でもかんでもケンカ吹っかけてちゃ命がいくつあっても足りないし、第一面倒くさい。オレ達だってそんなにヒマじゃないからな」
嫌な事だと隠しもせず、それでもやらないといけないと言う三人の言葉を聞いて、プライドはふーんと興味の無い様な返事を返しただけだった。そして思い出したかのようにその場から動きだした。
「それじゃあっしはこの辺で。仕事の続きをしてきやす」
「うん、仕事がんばってきてね」
「お手伝い出来りゃよかったんですが……」
「気にするな、嫌っている相手を喜ばせる手伝いなんか出来ないものな?」
ロックの一言に図星を突かれながらも、プライドは平静さを装いながらボードを走らせその場を後にしていった。走り去っていくプライドを見送りながら、ロック達も今後の自分達の行動を決めるために話を続けていく。
「発掘済みの遺跡から見つけるのはまず無理だろうな、あらかた掘り尽くされているだろうし。それにCAなんてレアものがあったら真っ先に運び出されるからな」
「ここの地図情報端末から引っ張り出せたのは踏破済みと人が入った事のある遺跡の分だけ、この情報もここのギルドオフィスが閉まる前のものだから、その後から誰かが入っていたりしていると状況が分からないな」
「そうなるとやっぱしらみつぶししかねーけど、時間はかけたくないんだろ。案内役でもいりゃあなあ」
「でもそんなのいないでしょ。この辺りに知り合いいないし、エイペックズは町長の事嫌っているから聞いたって教えてくれそうにないし」
「プライドのあの態度から見てもそれは確実だな」
その言葉を最後に会話が途切れ、三人はどうしたらいいかと途方に暮れた。
「やあ皆さん。またお会いするとは偶然ですね」
そのためこの声は、今の三人にとって幸運を引き寄せる声も同然だった。
声の方を三人が一斉に振り向くと、テラスの外に先程まで彼らからの依頼として仕事をしていた自警団の少年が立っていた。
「ああ、フォロウさん。先程はどうもありがとうございました」
「こちらこそ。大変参考になる模擬戦でした。それで町長との話はどうなり……」
「ちょうどよかった!実は教えてほしい事があるの!ちょっと話を聞いてもらえる!?」
偶然通りかかったフォロウをリカルが強引に呼び止めると、すぐに自分達の席へと招き入れた。
突然の事で事情が分かっていないフォロウを席に座らせると、リカルは彼らと別れてからのあらましを語って聞かせた。
話を聞いていくうちにフォロウも落ち着きを取り戻していき、リカルの話が終わるころには大体の事情は理解できた。
「そうですか。私は今の隊の隊長になって日が浅いので町長の事は詳しく知らなかったのですが、そこまで冒険者を嫌っていたとは……」
「それでこれから、その町長の依頼でCAを発掘しないといけないの。どこか探索されきっていない遺跡とかCAが見つかった遺跡とか、そう言う話を聞いたりした事無いかな?」
リカルの問いかけにフォロウは考え込む動作を行った。リカル達三人がそれを見守る中、突然彼は思い出したかのように頭を跳ね上げた。
「そういえば前によく分からない遺跡があるという話を聞いたことがあります。この町はこんな調子ですから調査に来る冒険者もいないので、ひょっとしたらまだ手つかずになっているかもしれませんね」
「あ、それだよ。そこだったらきっと見つかるかもしれない!お願いフォロウさん!アタシ達にその遺跡の場所教えて!何でもお礼するから!」
ずいっと詰め寄りフォロウに頼み込むリカル。その勢いにたじろいたフォロウがロックの方を見ると、彼も首を縦に振って「何でもするから教えてほしい」と頼んできた。
「いやそんなお礼だなんてそこまでしてもらう訳には」
「何かしてもらうならそれなりの対価を出す。これ冒険者だけじゃなくて日常にも言える事よ」
「そう。だからここの町長の無茶な要求も聞かなくちゃいけないんだけどな」
そうしてリカル達は改めて何かないかと訊ねてきた。ちょっと戸惑い気味になりながらも考えてみたフォロウは、やがて一つの事を思い付いた。
その事を口にするのにかなり勇気が必要だったが、ここしかチャンスは無いと感じた彼は意を決して二人の顔を見上げた。
「でしたら一つお願がありますが、二人はエイペックズのアリシアの事知っていますよね?」
「ああ、あなたが好きなのよね?」
「うぅ……。ま、まあわかってらっしゃるなら話が早い。それでお願いなのですが、彼女との距離が縮まる様にお膳立てしていただけないかな、と思いまして……」
フォロウの話を聞き終わると、リープは良く分からないといった顔でロックとリカルを見て、その二人は互いの顔を曇った表情で見ていた。
「頼みごとは分かったけど、でもさっきも言ったようにエイペックズ達とは昨日知り合ったばかりだから、どれだけ期待に答えられるか分からないわよ。それでもいいの?」
「なんでも大丈夫です。今より少しでも多く出会えるきっかけが作れれば」
そう言いながら、らんらんとやる気に満ちた目を向けてくるフォロウを見て色々な感情を持ってしまった三人は、とりあえず出来る限りの事はやってみるという条件のもとでフォロウの条件を聞き、遺跡までの案内をしてもらえる約束を取り付けた。
かくして状況は一歩前進なのだが、町長にしろフォロウにしろ何でもすると言ったらかなりきつい条件を突きつけてきたので、三人は気持ちがげんなりしてきていた。これが冒険者同士なら仕事の手伝いや賃金の要求で済んでいるため、これだから一般人は物を知らない分怖いと三人は心の中で呟いていた。