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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第四話 頂点者達
70/123

5th ACTION 傭兵隊と自警団(戦い終わって)

『かんぱーい!!』


 一斉に上がった声と共に、たくさんのグラスが宙でぶつかり合ってあちこちで音を鳴らす。

 レースが終わり町に帰ってきたエイペックズのメンバー達はギルドオフィスのフリースペースを借りきって祝賀会を始めていた。その中には、途中からエイペックズの代わりにレースを走ったロックと、リカルの姿もあった。


「いやー、あんたらのおかげでいいレースになったぜ!何もないけど、とりあえず飲んでいってくれ!」


 そう言うとチームの中で年長者になるペンギンの少年が、ロックとリカルの持つグラスにジュースを注いでいく。


「あ、えと、バッシュさんでしたね?どうかお構いなく」

「そうそう。こいつ結局のところ僅差で負けて2位だったもん、勢いよく飛び出した割にはおそまつよねー」


 リカルに辛口な事を言われ、ロックは何も言わず困った様な笑顔で長いヒゲを指ではじいていた。


「でも準優勝でも賞金が出てくれてよかったよ、少しはチームの運営費になるからねー。プライドのケガも診てもらって、あなた達には本当に感謝しています。ささやかですけどボク達の気持ちです、遠慮しないでどうぞ!」


 そう言いながらアリシアは二人にジュースや料理などをふるまってきた。

 エイペックズは子供だけのチームなので出された料理はジャンクフードやお菓子がほとんどで、台所事情のためか、出された物も徳用のお菓子や安く量が作れる料理ばかりだ。


 しかしロック達も贅沢な暮らしをしているわけではないので、気持ちの込められて出された料理はごちそうだった。酒が無い事が不満といえば不満だが、料理をつまみ始めたらそんな些細な事はすっかり頭の隅においやられ、しばらくしないうちに二人も傭兵たちの輪の中に溶け込んでいった。


 皆はロックの準優勝という結果に満足しておりとても喜んではいるが、ロック達のテーブルに同席しているメンバー達、チームの年長者やチームリーダーであるアリシアにはその他にも、安心したというか不安を覚えているという、良く分からない感情が見え隠れしているのを二人は見逃さなかった。


「……余計な事かもしれないけど、ひょっとしてあなた達って町の人から嫌われている?」


 その感情を読み取ったリカルが反射的に口に出した言葉が、リカル達の席を凍らせた事は誰でも分かった。いきなりすぎたのでロックもフォローに入る事が出来ず、リカルの言葉にどうなる事かと固唾を飲んで見守っていたが、返って来た答えは結構意外なものであった。


「嫌われているというか、目の敵にしている人達はいますね。今日のレースでトップを取ったライダーもそいつらの仲間だから」

「全くだ!俺達にも非はあるがそれは向こうにも責任がある事だ!まあとにかく聞いてくれよ」


 そうして一人で興奮しながらロック達に話を持ちかけてきたバッシュの言う事には、エイペックズのメンバーはそのほとんどが、元はこの町に住んでいた孤児達の集まりだという。

 ロック達がついている席に座っているメンバーはエイペックズの年長者組で、元はバッシュがリーダーをしていた小さなグループの時からのメンバーだ。彼らは生きていくために富裕層の住民をねらってのスリや盗みを行っていたという。

 そしてここにいる他の子供達も、バッシュ達と同じ事をしていたり他の方法で稼いだり、ごく少数だがきちんとした仕事をしたりなどをしてなんとか生きてきたという子供達だった。


「おまけに経済の恩恵が街全体にいきわたっていない!だからこの町は貧富の差が激しくなって俺達みたいな孤児が増えてくる!なのにこの町の市長一族はそういった弱い人間の立場が分からないから保護政策も何もしない!誰も助けてくれないんじゃ、犯罪だと分かっていても悪い事するしかねえじゃねえか!」

「まあ、とりあえずご苦労な事をしてきた事は分かったわ。それがまとまって傭兵になったって事はアリシア達も孤児なの?」


 バッシュの熱のこもった語りを感想をつけてリカルがまとめると、別にでてきた疑問をまたアリシアに投げかける。アリシアはゆっくりと首を振るとその問いに対して口を開いた。


「ボク達兄弟は元々この町のアドベンチャラーズギルドに所属していた傭兵の元締めの家の生まれです。でも随分前に当時の市長がギルドを閉めちゃって。その時の元締めはボク達の父親なんだけど、そんな事があったから父さん、フリーの傭兵隊に所属したのです」

「つまりはそれなりに良い家の嬢ちゃん坊ちゃんだったってわけか。でも何でわざわざ傭兵になったんだ?」


 彼らの言葉のやり取りを静かに聞いていたロックも、話に興味を持ち始めたらしく自分から質問をする様になって来た。アリシア達もそれを話す事に抵抗が無くなってきているのか、ロックが聞いてきた事について隠さないで話をし始めた。


「このチームにいるメンバーの大半は昔からの顔なじみ、もちろんバッシュ達ともね。低所得層に住んでいるストリートチルドレン達は同じ区画の人達からは見て見ぬふりされて、富裕層の人達からは睨まれる。ボク達も町から追い出された形だから似た者同士、仲良くなってね」

「いつ位だったかな?集まっていた時に誰かが、今のままの生活絶対続いて行く訳無いし、誰か良い知恵持ってないか。って話になった事があってよ。その話を聞いていたアリシアがそれから少しした頃に親の傭兵鑑札を受け継いだから、これからは傭兵で生活してみないかって言ってきたんだよ」

「始めた頃は不良達が一か所に集まったみたいな見られ方したし、富裕層の連中は相変わらずな態度ですごく苦労してね。だからまず普通に仕事を探す前にボランティアで町の活動を始めました。そうやっていって徐々に認めてもらって仕事ももらえるようになって、今は何とかまっとうなことをして生活出来るようになりました」


 そう言う彼女達の話を、ロック達は真面目に相槌を打ちながら聞いていると、今度は彼女達がロック達の事を聞いてきたので、ロック達も自分の身の上を話し始めていた。

 一通りの話をお互い終わらせると、アリシアはご苦労されてきましたねと、ロック達を本気で労う心情で声をかけてきた。ロック達もアリシアに対してそちらもご苦労さま、と一言言葉をかけるとそのままどちらも口を閉ざして飲み物を飲むだけになってしまった。


「何でございますかねぇ、皆にぎやかなのにここだけ辛気臭い話しされて」


 急に聞こえた背後からの声にロックとリカルが振り向くと、いつの間にいたのかプライドがイスに腰掛けながら飲み物の入ったグラスに口を付けていた。

 背もたれを前にして座っている彼は背もたれに腕を回して頭を乗せ、背もたれを抱え込む様な格好をしており、そのまま自分の足で床を蹴りながらイスを前後に揺らしていた。


「苦労話なんて人にひけらかす様なものじゃあねえよなぁ。だからあっしはそういう話するやつぁ好きになれねえんでさぁ」

「それは分かる。オレは冒険者になるまでが大変だっただけで、冒険者になった理由は皆みたいな生活のためじゃなくて自分のためだったから、苦労したとは言っても皆ほどじゃないだろうし」

「あら、そう思っているなら何で自分の話をしているの?」

「そんなの決まってるし。話してもらったんだからこっちも話して聞かせないと不公平だろ」


 その後もお互い打ち解ける事が出来たのか、なんだかんだとお互いに自分達の事を相手に話して聞かせたりしながら時が過ぎていき、ロック達が気付いた時にはすっかり日も暮れて、町の街灯がちらほらと灯りをともし始めていた頃であった。


「あれ、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと」

「まだいいじゃあねえのロックさんよぉ、もう少し話しきかせてくだせぇよ」

「そうしたいけど、こっちも明日からの事をみんなと話しあわないといけないからな。と、そう言えばオレ達まだ目的果たしていないんじゃないのか?」

「あ、そうよまだだったのすっかり忘れてた!ねえアリシア!実はアタシ達あなたにお願いしたい事があって探していたの!」


 改まった態度のリカルをアリシアはきょとんとした顔でみつめるが、リカルはそれにはお構いなしで高額な仕事を一つ回してもらえないかと頼み始めた。


「宇宙船の修理費稼ぐための仕事ですか。そんな高額な仕事今入っていたかな?」

「せめて今オフィスに並んでいる仕事の十倍もらえるものはない?あそこにあるのじゃ全然足りなくて」

「だったら姉貴、明日頼まれてる自警団の連中の依頼でも回してやったらどうでさぁ?」


 横で話を聞いていたプライドの一言が他のメンバー達を同調させたらしく、アリシアにそうしたらと次々発言してきた。初めは腕を組んで考えていたアリシアも、チームの勧めという事もあってか、その仕事をリカル達にゆずる事にした。


 こうして仕事をゆずってもらったロック達はアリシア達にお礼を言うと、今度こそ帰るために席を立った。

 入り口まで見送りということでプライドも席を立つと二人を案内し、外まで送りだした。そして挨拶をするロック達に返事をすると急に声をひそめて話題を変えてきた。


「多分聞かれると思うんですが、自警団のリーダーに姉貴の事聞かれても、適当に流してくだせぇ」


 プライドの言葉に気になった二人がどういう事か聞こうとしたが、すでに彼は建物の中へと戻っていたため、その言葉を気にしながらも二人は帰路へとついて行った。

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