4th ACTION 『終わるまでは諦めねぇ!』
地面に置かれている金属製の丸いふたが、ガタガタと音を立てる。
初めは音だけだったが、それがぴたりと止むと今度はふたが持ち上がり、ぽっかりと丸い穴が地面に出来る。
そこからするりと現れる黄色い影。影は穴から出てくると穴にふたをしめ直す。
「何だルーフォ、変な所から出てきたな」
不意に声をかけられ黄色い影、ロックは振り返り声の主であるレインの方を見てはにかんで見せる。
「街中でまこうとしたけど駄目だったんで、地下に潜ってまきましたよ」
「そうか。やっぱり本職でベテランの冒険者相手にするのはきついだろ」
「でも面白いですよ、ガチで戦えるシチュエーションは。時間ももうすぐだしこのままいけば……」
勝利を確信してか、足を止めてレインと話をするロック。
しかしロックが話を続けようとしたその時、突然大きな爆発音が村中に響き渡る。
驚いて音のした方を振り向くと、何かがものすごい勢いで空に昇っていくのが見えた。目をこらしてそれを見ていたロックが、金色と空色の何かと認識できた時点でそれは動いた。
左腕につけた小型の砲門をロックに向けると同時に声を上げる。
「クリスタルスパイク!トリプルファイヤ!」
声と同時に先端に光が集まり、次の瞬間透き通った水色の光が三発、ロックに向かって飛んできた。
とっさにレインを突き飛ばしたロックの周辺に着弾したそれは急激に形を変え、とげのついた三つの巨大な水晶の山となって、ロックを囲むようにそびえていた。
「おーいルーフォ、大丈夫か!」
「レインさん下がって。僕のに巻き込まれる!」
細かな水晶の破片で視界が悪くなったが、ロックは突き飛ばしたレインからの声に返答をしながら水晶の魔法が飛んできた方向を見るとAPRを構え、弾の種類を機銃タイプに変えてトリガーを引いた。
地下水道で戦闘準備を整えたリカルは、腰から引き伸ばし型のスティックを取り出してまたがり、マンホールの下に立つとエネルギーを溜め始めた。
スティックのパワーが臨界まで高まった所で、リカルは素早く右手で銃を取り出すと真上のマンホールを撃って吹き飛ばし、蓋が開いた瞬間に大空に向かって飛び出した。
周りの建物より高い位置に昇るとその場で周りを見渡し、ターゲットとする少年を見つけると左腕を突き出し魔力を腕に装備している魔道砲に充填。
水晶の魔法を彼に向って撃ち出す。狙い通り彼の周囲に魔法が当たると瞬間、水晶が彼の周囲に現れ彼を閉じ込めた。
そこに突撃をするリカル、そのリカルに向かって正面からプラズマ弾が連続で飛んでくる。
それをよけつつ勢いを付けながら更に突撃をする。
弾の数は多いが狙いがきちんとしていないためよける事は簡単だった。
突然止まる銃撃、その機を逃さず最高速度で駆け込むリカル。
しかしそれはロックの誘いだった。
APRで前方の空間に弾をばらまきながら、ロックは始動呪文の詠唱を進める。
右手に持つロッドの先端に魔力と理力が折り重なっていき、物質世界では見ることのできないその力に形が作られていく。
そして最後の呪文を唱え終えると銃撃を止め、ロッドを前に突き出し最後の言葉-パワーワードと起動呪文を言い放つ。
「切り裂け猫の風爪、ウインドリッパー!」
ロッドの先の力がたくさんの風の波になり、前方に一気に飛び出す。
突然変わった攻撃方法に備えていなかったリカルはまともにその中に突っ込む。
服の魔法防御力の高さのおかげで大きなダメージにはならなかったがジャケットは真空の刃によって裾や袖口など色々な所に切り傷が付き、更に気流を乱された事によって飛行態勢が取れなくなり、そのまま近くの家の屋根の上に墜落した。
チャンスとばかりにロックはAPRを構えると弾丸タイプを変更し、照準をリカルに定めてトリガーを引いた。
一方リカルは屋根にぶつかる寸前に何とかスティックを水平に持ち直す事に成功し激突を免れたが、そこにロックの放ったプラズマ弾が飛んでくる。
真横から高速で飛んでくる弾をリカルは紙一重でかわすと、もう一度飛び出そうと態勢を立て直す。
しかし避けられあさっての方向に飛んで行った弾は、急に軌道を変えて再度リカルに迫ってくる。
「ホーミング弾!?一体どんだけ手数を持ってんのよアイツ」
何かが迫ってくる音を聞き分けたリカルは後ろから弾が追いかけてくる事に気付き、急いで屋根に降りるとスティックを手に持ち、そのまま屋根つたいにロックのいる方向へ走りだす。
近づいてくるプラズマ弾を空弾銃で撃ち落とすが振り向きざまの攻撃は狙いが定まらず上手くいかない。
そのまま走っていると彼女の眼の前の屋根が途切れた。
途切れて開けた空間、その視界にロックの姿を見たリカルは屋根の端から大きくジャンプ、スティックを起動させ立ち乗りの体勢でロックめがけて突っ込む。
APRを構えるロック、一直線に向かってくるリカル、後ろから迫るプラズマ弾、そしてスティックの上から姿を消すリカル。
スティックだけを飛ばしてリカルは後ろに跳び退く。
そして後ろのプラズマ弾を飛び越えると追尾される前に空弾銃で全弾撃ち落とす。
一瞬の出来事にあっけにとられたロックは、それでも自分に向かってくるスティックを横に大きく跳んでかわす。
パガンと軽い音と共に地面にぶつかったスティックは大きくひしゃげて地面を転がる。
なりふり構う事のないリカルの攻め方を見てロックは、彼女もだんだんと本気になってきていることに気付き、自分も中々できるものだと嬉しくなってきていた。
しかしその一方で彼女の攻撃が激しくなってきている事も確かな事であった。
空中から着地したリカルはロックが体勢を立て直すまでの間に彼の懐に潜り込み、爪を出した右腕を振りかぶり彼めがけて振り下ろす。
とっさにロックはAPRのアームガードの部分でその攻撃を受け止める。
受け止められた彼女はそのままの姿勢で右足から鋭いけりを繰り出すが、ロックも体をひねるとけりを放ち、この攻撃も受け止める。
受け止められた瞬間リカルは右腕をロックから離すと、腰に手をかけ空弾銃を取り出す。
ロックも直感と言うべき速度でAPRを構えると互いにトリガーを引いた。
「グウゥ!」
「ニャウッ!!」
至近距離で炸裂し合う互いの弾丸が生み出した衝撃は二人の体を吹き飛ばした。
二人とも地面に倒れたがすぐにほぼ同時に起き上がると、互いを見据えて低い姿勢の構えを取った。
リカルはすぐに飛びかかれるようゆっくりと間合いを詰め、シッポを大きく振りながらタイミングを計っている。
対してロックは時間まで逃げ切る方法を考えているが、本気の彼女にここまで近寄られてはそれも無理だと諦めている。
そもそも今の攻め方を見る限り、彼女は自分の手足を折ったり内臓を潰してでも動きを止めようとしているらしく、弱気を見せれば一瞬で決着がついてしまう。
ロックはしびれで痛くなっている足に意識を回し、その後シッポで腰の左後ろ辺りに下がっている、できれば使いたくない切り札を確認する。
その様子を見ているリカルは、彼の眼には恐怖はなく、また勇気といった物も感じない、全くの別の感情、それは子供が新しい遊びを見つけて嬉々としている、この状況を楽しんでいる彼を見て、言い知れぬ不快感を感じていた。
ここで守勢に回っていたロックが先に仕掛ける。
鋭い足さばきでリカルに近づくと彼女の顎めがけて掌ていを放つ。
彼女は腕でその攻撃を外に受け流すが、ロックはかわされた手で彼女の肩を掴むとそのまま強引に自分の方に引き込む。
予想外のロックの動きにそれでも倒されない様にリカルは耐えたが、それはそのまま彼に背後を取らせる形となる。
後ろに回ったロックは左手に持つロッドを持ち直すと、彼女の背中を思いきり殴打する。
この攻撃はリカルがとっさに体の位置を変えたため完全に決まらなかったが、それでも少なからず彼女にダメージを与える事が出来た。
しかし彼女も黙っていなかった。
ロックが攻撃態勢から元に戻るまでの間に体を反転させると、彼の胸元のプレートめがけて腕を伸ばす。ロックはこれにたいし彼女の腕を掴んで奪取を阻止するが彼女は反対の手でさらにプレートを狙う。
当然これも彼が受け止め、がっぷりと組み合う形となる。
似たような体格の少年少女が組み合えば、当然力の面で少年が有利になるが、リカルの身体は思った以上に筋肉質で、ロックよりも力が少し勝っていた。
そのためロックには正面からリカルを押し返す事が出来なかった。押さえつける力を利用して横払いのキックを放つが彼女の足に簡単に止められる。
そしてロックがリカルを見上げると、リカルはロックに頭突きをかました。
インカム・メット越しでもさすがにきいたため、ロックは思わず手を離して数歩後ずさる。
そこを逃さず飛びかかるリカル。
ロックは目くらましにAPRを地面に向けて撃ち、土煙を巻き上げるが彼女はお構いなしに迫ってくる。
とっさにTシャツごとプレートを掴むロック、彼の肩を掴んでそのまま押し倒すリカル。
仰向けに倒されたロックはすぐ起き上がろうと体をひねるがリカルがその動きに体をあわせてくるため上手くいかない。
空いている手で彼女を殴るが、反対に拳を受け止められそのままひねられる。
痛みで思わず呻き声を上げるが、プレートを守る手は一層強く握られる。
それを見たリカルはプレートのチェーンを千切り、腕を持ち上げようとするがロックは頑なに抵抗をする。
リカルはプレートの下側に爪を立てるとそのままロックのTシャツを縦に引き裂き、強引に彼の腕を引っ張る。
Tシャツは破れ前がはだけ、そしてプレートを握るロックの腕はリカルの手に掴まれている。
「いい加減負けを認めな!でなきゃ次はアンタの腕を折るよ!」
「やれるもんならやってみろ!もうカウントダウンが始まってんだ、譲れねぇ!!」
ロックの言葉に太陽の方を見ると、太陽の最後の残滓が今まさに地平線に沈もうとしている光景が目に入る。
再びロックに視線を移すとさっきもしていた楽しいという表情でこちらを見ている彼と視線が合った。
その顔を見た瞬間、リカルは牙をむき出しにするとロックの腕を掴んでいた手に本気で力を込める。
激痛に思わず悲鳴を上げるが、ロックも負けじと腕に力を入れてリカルの攻撃に耐える。
「もう降参して!ケガした身体を魔法で癒してもすぐには使い物にならない、腕が砕けるなんてアンタも本位じゃないでしょう!?」
「腕が砕けたって、終わるまでは諦めねぇ!何としても……」
しかしロックの言葉は突然の爆音に遮られて最後まで発音されなかった。
音の方向を同時に見る二人の所にレインが走りこんできて勝負の一時停止を告げる。
「一体何があったんですか。今の音は何です!?」
「今通信があったが、フェアーが来たらしい。どうやらバトリングパペットに乗ってやってきたらしいぞ」
「RWで喧嘩?あのオバサン相当根に持つな」
「とにかく二人とも早く行ってやってくれ。それと」
含みのあるセリフとにやけた表情でレインは先を続ける。
「そろそろ離れな。俺みたいなオッサンはいいとして、他の連中には刺激が強いぜ」
そう言われて二人は自分達の体勢に気がつき、お互い顔を赤くしながら慌てて離れた。