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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第四話 頂点者達
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3rd ACTION A.P.X-S(小さな出会い)

「ロック、あとどの位で着きそう?」

「あそこに見えるのが会場だろ、なにも無ければ十分位で着くな」


 そんなやり取りを行いながら、二人はロックの操縦するBチェイサーで道を走っていた。


 キリカシティでまとまった金額の稼げる仕事を紹介してもらうため、オフィス長の助言に従って彼らは現在、キリカシティのギルドオフィスに所属している唯一の傭兵チームに会うため、RU競技を行っている会場に向かっていた。


「そのチーム、子供だけのチームって話だけど一体どんなのだろうな。リカルはどう思う?」

「興味無いわね。大体アタシは傭兵みたいな仕事はしないし、特に商売敵になるような相手じゃないなら調べたりもしないわよ」

「ノリが悪いね」


 そう言ってロックもチェイサーの運転に集中し直した。

 トラメイの大地よりも更に荒涼とした乾いた大地を、元々乾いて硬くなっているのに更に固めて舗装されている道を伝って、近隣の町と村がそれぞれの調和と発展の場として作り上げた競技場へと向かって行った。


「ま、それでもこの名前は興味あるかしら。エイペックズとはまた御大層な名前付けて、ロックといい勝負じゃない。案外気があうかもよー?」


 ノリが悪いと言われた事を気にしたのか、リカルはロックに対して自分の感想を素直に述べた。

 しかし元々大して興味があった訳ではないので上出来な感想とも言えないセリフしかリカルからは出てこなかった。

 ロックもその事にすぐ気付いたが、盛り上がりに欠ける話の上げ足をとってもろくな事にならないのは目に見えていたのであえて何も言わず、その会話をそこで打ち切った。

 しかしリカルが大きな声で呼びかけてくるため、ロックはまたチェイサーの速度を落として彼女の声に耳を傾ける事になる。


「今度はどうしたの、早く行きたいんだろ?」

「あそこ!あっちの奥の方、人が立ち往生してる!子供みたいよ」


 子供が困っているみたいだと言われれば放って行く事も出来ない。ロックは一度チェイサーを停めてリカルが指をさしている方向を見る。

 距離的にはそう離れていない所に別の道路があり小型のバンが停まっている。そしてその周りに人影が動いているのが見えた。

 子供がいるみたいだとリカルは言っていたがそこまでハッキリとは分からない。

 ふと彼女の方に目を向けると、彼女はどこから取り出したのか単眼鏡でロックと同じ方向を見ていた。

 納得したロックはリカルに声をかけると再びチェイサーを動かし、道から外れてその方向へと走り出した。


 道が無いとはいえ元々が何もない荒野である。RUは粒子を干渉させて浮遊、飛行する事が出来るので、悪路であろうと道が無かろうと関係なく進む事が出来る。

 二分ほどして近くまで来ると、ようやくロックの目にもそこにいるのが自分達より少し小さな子供達だという事が分かった。

 一人の少女がバンの下側に屈みこんで何かを見ており、二人の少年が車体の後ろでバンを前に押している。

 彼らがロック達の近づく音に気が付くとそれぞれ作業を中断し、一斉にこちらに目を向ける。

 ロックが速度を落としながら子供達に近づくと後ろに乗っていたリカルがそのままチェイサーから飛び降り彼らの方に歩み寄っていく。ロックはその間にチェイサーをバン側の道に停めるべく動かしていった。


「何か大変そうね。あなた達大丈夫?」

「特に大丈夫。そちらは何ですか?」


 リカルの問いかけに答えてきたのはそこに一人だけいたトリ族の少女だった。光沢のあるつややかなコーヒー色とでも言えばいいのか、黒の入った茶髪はショートにしており、縁のない丸眼鏡をかけている。

 顔に残るあどけなさからリカルよりも年下だという事は分かるが、その顔は少女特有の愛らしさというよりは未完成ながら出来あがってきているある種の美貌とでも呼んだ方がまだしっくりくると思われる。


 一見するとどこかのお嬢様と思えそうな子だが、服装は上下ともに体型に合わせた余りの無い、金属片や硬くなめした皮を全身至る所に張り付けて補強してあるパーカーとロングパンツという動きやすい実戦系の服装をしており、左腕にはデスクワークやフィールドワークで使う各種のツールが入っているリスト端末を巻きつけており、その姿はお嬢様というよりは冒険者と言った感じだった。


 まくった袖から見える細めの腕には薄い紅色の毛並みがそろっている。その少女は突然声をかけられたためか、ゆっくりとした動作で立ち上がると値踏みをするようにリカルの事を上から下までマジマジと見つめてきた。


「そんなにジロジロ見なくったって、別にあなた達を取って食べようって訳じゃないわよ?」


 相手の態度が露骨過ぎたので、リカルもすぐに自分達が警戒されている事に気がついた。そのため相手の警戒心を解くためにとびきりの笑顔で話しかけてみるがどうも上手くいかない。

 そんなぎこちないやり取りが続いている所に別の方向からも声が掛って来た。


「オレ達ただの冒険者さ。乗って来た宇宙船を直すのに仕事を探しているだけのね。君達を見つけたのは、まあ偶然だな。だからこっちからは特に用が無いけど、何か困ってる?」


 ロックの声だった。彼の声は子供達には無関心で、たまたまここにやってきただけという態度を露骨に表していた。

 聞く人にとっては冷たいイメージを与える物言いだったが、子供達目当てでは無いという事が分かったらしく、少し子供達の緊張が解けたようだった。

 それでもロック達の声に応じた少女だけはまだ二人の事を警戒しており、何を聞いても大丈夫としか言って来なかった。


「本当に大丈夫ならオレ達はこれで行かせてもらうよ」


 そう言って、驚くリカルを促してロックがその場を立ち去ろうとした時、周りにいた子供たちは一斉にトリ族の少女の元に集まり何かを話し始めた。短い会話が終わると、少し距離が開いてしまったロック達に向かって少女が大きな声で呼びかけてきた。


「あの、その、すみません。もしお時間あるようでしたら、ボク達を手伝った欲しいのですが……」

「ああ、いいよ。何を手伝ったらいい?」

「……何よ、助けてほしいのなら最初から言えばいいのに」


 少女が声をかけてきた事に軽く頷くと、ロックは振り返って来た道を戻り始めた。それに続くリカルはつい不満に思った事を小さく口ずさんでいた。

 リカルの声が聞こえたロックは少し歩く歩幅を落としてリカルと並ぶと、しょうがないさと小声でリカルに話しかけた。


「子供だけで生きていくんだったら、あの位用心深くないと逆に危ないからな」

「詳しいわね」


 そう言ってから、リカルはふとロックも同じような経験をしている事を思い出した。そして自分の言葉の短慮さに気付いた彼女はロックに「ゴメン」と謝った。


「自分のしてきた事で人に謝られる事なんか無いから、悪いと思うならそう簡単に謝ってほしくないな」


 そう言われてまた謝ろうとして、リカルは今度はその言葉を飲み込む事が出来た。

 その間にロックは小走りで子供たちに近づくと、すぐに彼らのバンの周りを点検していった。間もなくロックはバンの後輪がくぼみにはまってタイヤが空回りしている部分を見つけた。


「何かで空回りしている部分を埋めて、後ろから押せばいいかしら?」

「それに加えて、バンを前から引っ張れば大丈夫だな」


 そう結論づけると二人は子供達に声をかけて、早速車を動かす準備を始めた。

 元々機械作業に慣れている二人の動きは的確で、バンとロックのチェイサーをワイヤーで繫ぎ、子供達のバンに乗っていた金属製の細長い棒を束ねて即席のつっかえ棒を作るとそれをタイヤのはまったくぼみに差し込んでタイヤの隙間を埋めた。


「これで動くかな。それじゃリカル、チェイサーに乗ってくれ」

「ええ?アタシが動かすの?ロックじゃなくて?」

「そんな事言ったってこっちはすごく重いぞ?力仕事を女の子にさせるのはなぁ」

「バイクタイプなんか動かした事無いから、壊れたって責任持てないわよ?」

「自走出来なくなったとかじゃ無けりゃ直すから気にすんな。ひっくり返す位までなら許してやるから」


 そう言って送りだすロックに渋々と従い、リカルはチェイサーに向かって歩いて行った。

 ロックはくぼみにはまっているバンの左側に立ちつっかえ棒を持つと、他の子ども達にはバンの後ろに並ばせて、合図と同時に力いっぱい押す様に頼んだ。


「何よ、なーによ。結局一人で仕切っちゃって。手伝えないと思ってるんなら離れてみてろとでも言えばいいのに」

「はは、お姉さんも大変ですね」


 自分の独り言に声をかけられ、驚いたリカルが周りを見渡すと、バンの運転席に座っていた少年が窓から顔を出してリカルの事を見ていた。

 車を動かすのだからハンドルやアクセルを見るために誰かが運転していないといけないので、それに気付かず文句を言っていたリカルの落ち度だったが、少年はリカルの言葉は気にしていない様だった。


「僕の所も姉さんが意地っ張りで大変なんですよね。もう少し人の事を信じてもいいのに」


 軽く笑いながら表情を変える事無く言葉を続ける少年の事を、リカルはバツが悪いといった顔で苦笑いをしながら観察していた。

 初めに彼を見てすぐ印象に持ったのは、表で他の子供たちをまとめている少女に似ている事だった。そして今までの会話の流れで彼には姉がいるらしいので、彼と少女は姉弟ではないかと考えた。


 機械屋(メカニック)が着る様な厚手でポケットがたくさん着いている白と黒の作業用ツナギは、肌の露出を少なくすることも求められる要素なので彼の身体つきまでは確認できなかったが、少女と同じくらいの背恰好をしているようなので、あまり少女とは歳は離れていないらしい。


 もう少し見てみようともしたが、後ろの方で準備が出来たロックに急かされたため、リカルはそこで観察を止めた。

 じゃあねと小さく手を振ると少年から離れていき、バンの前につないだロックのチェイサーに跨ると、リカルも準備が出来たとロックに合図を送った。


「よーし、チェイサーとバンはゆっくり前に進んでくれ。後ろの皆は力を合わせてバンを押すんだ。力を合わせればすぐに終わるからね」


 ロックの声で全員が頷くと、そのまま位置に着くようロックは続けて声を出した。

 全員が位置に着いた事を確認すると、ロックはせーの、と一際大きな声を張り上げる。そしてそれを合図に皆が自分の仕事を始めた。

 掛け声を合わせての動作はすぐに息が合う様になり、先程まで子供たちだけでは動かなかったバンは少しずつだがくぼみから外に出ようと動き出していた。そうして作業開始から数分後、バンは無事にくぼみから押しだす事に成功した。


「やったー、上手く行ったね!」


 自分の事の様に喜ぶリカルだが、当の子供たちはそれどころではないといった感じに急いでバンに乗り込んでいく。


「助けていただいて本当にありがとうございました!急いでいるのでこれで失礼しますが、このご恩は忘れません!」


 最後に少女が深々とお礼の挨拶をすると、急いでバンの助手席に乗り込み早々とその場を去っていった。

 その慌ただしさにロック達も声をかける事が出来ず、ただ子供達の出発を黙って見送る事しか出来なかった。


「何というか……、大丈夫かしらね?」

「うん、あんなに慌てて走り出して。またどっかで事故らなきゃいいけど」


 ようやく言葉を出した二人はバンの影が見えなくなるまでその姿を見送った後、チェイサーの場所に戻って再び乗り込むと、今度こそ目的地である競技場に向かって走り出した。

 その目的地でもある競技場では、彼らの目的でもあるエイペックズのレースが今まさに始まろうとしている所である。

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