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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第四話 頂点者達
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2nd ACTION 新たなる旅の大地(流されて、流されて)

 夜のとばりを切り裂いて、太陽の光が地平線から世界を照らし出す。一条の光はだんだんとその光を束ねていき、光のもとである太陽は時間をかけてゆっくりとその赤い身体を持ち上げ、惑星の朝の領域を明るく照らしていく。

 その太陽の輝きを横目に見ながら、シャインウェーブ号がゆっくりと惑星に降下していく。船体のあちこちには焦げ目が付いており、所々には応急処置を施した跡がハッキリと残っていた。

 そんな船の中、ブリッジでは極度の緊張と、それによる沈黙がその場を支配していた。


「惑星ランクゥーノへの降下完了しました。船体の状況確認を行います」

「高度4000を維持、このまま微速前進を行う」

「了解、各部署担当者はそれぞれのセクションを確認して状況を報告して下さい」


 初めての大気圏突入を無事成功させ、安堵感が船内に生まれた所でコーラルが気を引き締めさせるために船内に作業の通達を行う。

 通信を終え下を見ると、頭を抱えてキャプテンシートに腰をおろしているリカルがおり、右の方を見ると各所の船外モニターから始めてみる惑星の光景を好奇心の塊で見入っているロックの姿があった。

 机に突っ伏してうーうーと唸っている少女と、その後ろで感嘆の声を出す少年。一見すれば対照的なその姿に思わず笑ってしまうかもしれないが、実はこの時かなり大変な状況に陥っていたのだ。


「チーフ」


 声に出すかを迷っていたが、このままではらちが明かないと感じたコーラルは意を決するとロックに声をかける。

 呼ばれた少年が視線を声の主に向けると、コーラルはしきりにリカルの方に目配せを行っていた。初めは何の事だか分からなかったロックだが、自分の下でうなだれているリカルを見つけた時にやっとコーラルの言いたい事に気が付き、少し考えた後彼女に声をかけた。


「リカル、そんなに落ち込むなよ。リカルの考えだって間違ってた訳じゃないんだから。ただちょっと運が悪かっただけだよ」

「そうですよオーナー。撤退する事も重要な戦術の一つです、上手くいかなかったとはいえ間違いではありませんよ」


 落ち込むリカルを励まそうと声をかけるロック。それに続いてすかさずコーラルも相槌を打つ。

 だが二人の言葉をしばらく黙って聞いていたリカルだったが、会話が終わってしばらくすると、またうーうーと声を出しながら頭を左右に振りだした。


 これはどうしようも無いとロックはコーラルに向かってかぶりを振りながらお手上げのジェスチャーをして見せる。コーラルも口では何も言わずに頷くと、正面に向き直って操舵を再開した。

 これほどまでに彼女が落ち込む理由、それはここに来るまでの過程にあった。


 船を襲ってきた海賊を撃退し、増援が船に到着する前に逃げ出す作戦は良かった。その作戦に誤算が生じたのは、ロック達に逃げられた海賊が他の海賊たちに声をかけて彼らを更に襲撃してきた事だった。


 元々海賊にとって他の同業者は獲物を横取りしていく敵なので、よほど仲が良いチームでもせいぜい相手の獲物に手を出さない位の事しかしない。

 ところがあの海賊はあのあたりの中心的存在だったらしく、一声かけただけで近くにいた他の海賊連中を全てロック達に向けさせるという、とんでも無い事をしてのけた。

 そのためそれらの海賊全てを相手にする事になってしまい、戦うにしても逃げるにしても完全にそれに徹する事が出来ない状況が生まれ、結果期日までにウーロンの惑星軌道上にたどり着く事が出来ず、緊急処置として近くの惑星軌道ですぐ近くまで接近をしていたランクゥーノへ降下することになったのだった。


 しかしリカル本人はその案に乗り気では無く、最終的にロックがほぼ強引に決めた事だったため、今の彼女は見て分かる様に落ち込んでいた。これを見て、一度は諦めたロックだったがとりあえずもう一度彼女に声をかけた。


「リカル、いい加減に気持ちを切り替えろよ。リカルがそんな調子じゃ皆に影響が出てくるし」

「そんな事言ったって、ここからウーロンの航路を確保するにはどんなに早くても五日はかかる。たったそれだけでもどこかの町に滞在するにはお金がかかる。そのお金を集めるにもこの惑星は大きな遺跡が多い分長期間での人足募集ばかりで短期での働き口はなかなか見つからないからお金が作れない。もう一度宇宙に上がるためにもこの子をメンテし直さないといけないし、とにかくこれからの事を考えると気が滅入るのよー」


 耳とシッポを下に垂らし、相変わらず机に身体を前のめりにさせながら大きな声を出すリカルを見て、こいつは意外と心配性だなと思いながらロックは船の他の部署から来た報告を受け始めていた。

 報告を聞きながら確認をしていく中で、リープに異常があると言った内容の報告があったためロックがモニターで直接確認すると、彼女は先の戦闘で損傷したランページの姿を見ながら格納庫に座り込んでいじけていた。


『リープどうした?格納庫で全然働いて無いらしいじゃないか』


 さすがに心配になったロックがインカムで彼女に呼びかけると、リープは身動きもしないまま声だけロックに送って来た。


「せっかく整備して綺麗になった俺のボディがぁ、海賊に滅茶苦茶にされてボロボロにぃ、もうほんとに勘弁してくれよ」

「お、お前もかよ……。全くうちの女どもときたら……」


 目の前のリカルとモニターのリープの二人を見比べ思わず口から言葉がこぼれる。小さな声にもかかわらず二人には聞こえていたらしく、それを聞いた二人はものすごい勢いで振り返るとロックを睨みつけた。


『お前にこっちの気持ちが分かってたまるか!』


 二人同時にロックにくってかかると、いきなりの事なのでロックは呆気にとられた。少しして落ち着きを取り戻すと、勢いのついた二人に負けじと声を上げて反論した。


「オレはもう過ぎた事でくよくよするなと言ってるんだ!今更なんだかんだと言ってももうどうにもならないだろ!」

『理屈で人が動くかよ!気持ちがどうにもならない時はすぐに前なんか見てられねえよ!』

「そうよ、こっちはアンタみたいな冒険バカじゃないんだから、勝手な事ばかり言わないでよね。これだからアタシの男は……」


 リープに続いてロックに大声を出したリカルの後半の言葉は、先程ロックが呟いた言葉をそのまま真似た物で、不意をつかれたロックは気勢を削がれ言葉に詰まってしまった。

 しかしそれが逆にいい方に彼を導いたらしく、勢いで反論しようとしたロックは冷静になる事が出来た。そして考え方を変えると、ブリッジクルーに指示を出した。


「リーダーがやる気出ないそうだから、代わって今後の指示を行います。ここから近くの町に船を降ろして総点検、その後惑星ウーロンに近くなる次の公転航路を待って出発。今度は突発的な事態にも備えるため、一度にいけなくても確実に行けるルートを取っていきます。細かい事はこれから決めていくとして、とりあえず地図を出して下さい」


 ロックの指示を聞いたコーラルが、ブリッジ一番前列の席に座っている女性クルーに声をかけると、彼女はコンソールを操作して天面モニターに地図を映しだした。


 元々の地図の機能としては、惑星の衛星軌道上を飛びまわる人工衛星にアクセスする事で、惑星全体の地図を表示する物である。さらにその情報量は半端な量では無く、各地域の現在の天候や時間、そこで今何が起きているかなどがリアルタイムで確認する事も出来るものだ。

 もっとも先史文明が崩壊した後はそのような人工衛星の存在自体がごく一部の人間しか知らない様な物となっているので、地図は本来の使い方をする事が出来ない。今モニターに示されている地図は、長い長い時間をかけて測量された結果生み出された物である。


 広げた地図に、かろうじて残っているわずかな衛星からの情報で自分達の位置を載せると、一番近くにある町が浮かび上がる。

 どういう町か色々確認したい所もあったが、余裕の無い現状ではそれも難しいのでとにかくその町に向かう事になった。


「ちょっと。勝手に何でも決めていかないでよ!」


 町に行くと号令を出したロックに対し、ここまで積極的になっていなかったリカルが初めて抗議の声を上げる。

 それを聞いたロックは憮然とした目で疎ましそうに彼女の顔を見た。正直ロックは、意見もしないで反対の声を上げた事に腹を立てていたので、無意識のうちに冷たい態度になっていた。


「だったらこの先どうするか、何か考えてあるのか?」


 ロックに聞かれてリカルは口を開きかけ、何かを小声でモゴモゴと呟くと、シートに座りなおして声を出した。


「……任せる」

「はい!それでは町に向かって出発!」

「ヨーソロー!」


 リカルの返答を聞くやいなや、ロックは彼女にアピールするかのように、ことさら大きな声と大きな身振りで出発の号令をかける。

 コーラルもそれに答える様にわざとらしく少し大きな声を出すと地図の町に向かって舵を取り直した。

 そしてリカルはそのやり取りを見てから、また机に身体を預けてしまい、ロックはその姿を見てもう何も言わないでおこうと放っておく事に決めた。

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