表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第一話  DREAMER BOY & RADICAL GIRL
6/123

3rd ACTION 対決!

 オーシャンガレージの村は住民約五十人ほどの小さな村で、ジャンクオーシャンでサルベージをした機械を直して生計を立てている静かな村である。

 ところが今日は、村の広場に人が集まり、まるでお祭りの様な騒ぎになっている。

 この騒ぎの中心には、村の守人であるロックと流れのハンターであるリカルが、互いに距離をとりながら向かい合って立っていた。

 ロックがリカルに対決を挑んだ、このことが村中に伝わるのに対して時間はかからなかった。

 そしてその対決のための準備も同様に時間はかからなかった。

 リカルは村に来た時の恰好に、空弾銃やスティックなどの武器を装備しており、ロックは先程外に出ていた時のジャケットコートにジーンズ、左腕にはAPRを装備している。

 コートの下には腰まで裾の届くTシャツを着て、その上からウエストポーチを腰のあたりに巻いている。

 ポーチのベルトには色々なものが掛けれるように手が加えられており、先ほどフェアーに向けていた杖や、ほかにも様々な道具が掛けられている。


「では、ルールを説明するぞ」


 二人の間に立っていたレインが、ギャラリーにも聞こえる声で話し始めた。


「スタートから日が沈むまでに、守人が持っているプレートを冒険者が奪い取れば彼女の勝ち、反対に時間までプレートを守りきれば守人の勝ち。基本的に何でもありだが、村人を傷つけたらその場で負けになる。このルールでいいか」


 レインの説明に、ロックは無言で頷き、リカルは片手を挙げて、それぞれ答えた。


「では両者、位置へ」

「その前に彼と話をさせてくれない?」


 レインの合図を遮ったリカルの希望に、ロックは頷いてそれに答えた。


「ロック、勝負はいいとしてどうしてアンタはこんなことするの」


 勝負の話が出てからここまでお膳立てがすぐに出来てしまったため、ロックが勝負を持ちかけてきた理由をリカルは知らないままであった。

 ロックは質問をしてきたリカルを正面から見ると、自分の気持ちを正直に話し始めた。


「冒険者になりたくて色々な修行をしてきた、そんな奴の目の前に本物の冒険者が現れた。そいつにとっちゃ自分の力がどれだけ世間に、その冒険者に通じるか試してみたくなった。それだけだ」

「男の子ね、憧れってヤツ?でもそういった考え方で大けがした人間をアタシは何人も知っているよ。憧れだけじゃ勝てない」

「そうだろね、でもやってみねえと分かんないだろ。それに大切にしている物を譲るなら、そいつのことを知っとかないとな」


 話は終わったという風にロックはレインの方を見て、レインもそれに合わせて大きく頷いた。


「では改めて位置について」


 レインの言葉を合図に、二人は互いを見ながら後ろに下がり距離を取る。

 後ずさりをしながらロックは杖を、リカルは拳を構えながらそれぞれ位置についた。

「レディ!」

 二人が位置についた事を確認したレインは大きな声で合図を出す。

 二人の間に張りつめた空気が走り、周りのギャラリーにもそれが伝わったのか静かになる。

 二人は揃って姿勢を低くして、いつでも動けるよう相手の動きをうかがっている。


「ファイト!!」


 鋭く告げられた開始の声で、高めていた気を解放した二人は弾けるように動いた。

 リカルは一気にロックの所まで距離を詰めると、そのスピードを活かして右の突きを繰り出した。

 一方ロックは自然な動作で一歩前に出ると、手にした杖でリカルの拳を受け止めた。

 避けるよりも受けることでリカルの力を測り、さらに力押しに持ち込むことでリカルに体力を使わせるためである。

 その効果はすぐに現れた。

 しっかりとリカルを受け止めたロックはそのまま強く押し込む。

 しかしリカルはロックの押し込みにもびくともせず、態勢を保ったまま拳を突き出していた。

 二人の腕力は拮抗しており、そのため中々次の行動に移れない。

 そこでリカルはロックが力を込めたタイミングに合わせて体を引いて、そのまま後ろに跳び退いた。

 リカルが急に後ろに下がったため、支えをなくしてバランスを崩すロック。

 それを見たリカルは腰から空弾銃を引き抜くと、バックステップで離れながらロックに銃口を向けて三発発砲した。

 すぐに体勢を立て直したロックだが、高速弾に設定された弾はすでにロックの目の前にまで迫っていた。

 対してロックはすぐ左腕を構えると、装備しているAPRで空気弾を撃った。

 ロックの撃ったプラズマ弾はリカルの撃った空気弾に全て命中して、両方の弾はその場で反応を起こして消滅した。

 その時リカルは、フェイントをかけながらロックをかく乱して隙が出来た所でプレートを奪おうと小刻みに動き出した。しかしリカルが動き出すより早くロックが動き出す。

 大きく後ろに跳び退くと、そのまま後ろに向かって走り出し人だかりの中に飛び込んで行った。不意を突かれたリカルはしまいかけた空弾銃を構えなおしたが、人ごみの中を小さくなって駆け抜けていくロックに狙いが付けれず、一瞬の躊躇の後にリカルもロックを追って走り出した。

 人の波をかき分けながら表に出たリカルは、Sボードに乗って走り去っていくロックの姿を見た。

 負けじとリカルも腰に下げていた伸縮式のSスティックを取り出すと、それに跳び乗ってロックを追いかけだす。

 そうして始まった、村の道を全て使ってのRSによる追いかけっこは熾烈なデットヒートを巻き起こしていた。

 ロックの使っているボードタイプは、チューニングによって状況に対応させる汎用型、一方リカルの使っているスティックタイプは最高速度と走行距離の長さに優れた長距離高速型である。

 直線距離を追うならリカルが有利だが、町中の区画を縦横無尽に駆け抜ける今の状況ではロックが有利である。

 互いのライドテクニックも互角のため、勝負の行方は一進一退を続けている。

 このままでは勝てないと考えたリカルはある行動に出た。

 立ち乗りしていたスティックの後ろに体重をかけ、向きを上向きに修正してアクセルを押し込み出力を上げるとスティックの高度を上げていく。

 するとすぐにリカルは周りの家の屋根より高く飛び上った。

 一方逃げていたロックが後ろを振り返ると、後ろから追いかけていたリカルが見えなくなっていた。振り切ったのかと思いながらも速度を落とすことなく、狭い路地に入っていった。

 上空からそのロックの動きを見ていたリカルは、チャンスとばかりに急加速をかけてロックに近づくと、目にも止まらぬ速さでロックの前に回り込むことに成功した。

 急に前を塞がれたロックはすぐに方向を変えて逃げようとしたが、飛び込んできたリカルがそのままロックに向かって突っ込んできた。

 このため向きを変えようとしていたロックは完全に不意を突かれてしまった。

 リカルがロックの首に掛っているプレートを掴み取ろうと手を伸ばしたその時、ロックはボードから後ろ向きに飛び降り、自分に向かってくるリカルの目の前に腰のポーチから取り出した煙幕を投げつけた。


 よけられた上に反撃もされたリカルはとっさに手で目を守ったが、そのせいでバランスを崩してしまい地面に放り出されてしまった。

 もうもうと煙の上がっている所に、ロックはポーチから別の玉をいくつか取り出すと、次々と煙の中にそれを放り込んだ。

 リカルは自分に何かがこびりついているのを感じたが、煙の中で自分がどうなったかが分からない。

 そうしているうちに煙が晴れていきリカルが自分の周りを見渡すと、白いネバネバしたものが体中にこびりついてとれなくなっていた

 驚いたリカルはすぐに立ち上がろうとしたが、体のネバネバのせいで身動きが取れない。


「ちょ、何よこれ、ネバネバしていてとれないー」


 必死になってそれを取ろうとしているリカル。

 しかし体と地面をくっつけているそれはリカルの力では簡単に抜け出す事が出来ないほど絡みついている。

 一人でもがいているリカルがふと前を見ると、自分から二、三歩離れた所でしゃがみながらこちらを見ているロックと目があった。


「わー、がっちりくっついてら。量が多かったかな」

「ロック!あんた一体何したの!」


 冷静な顔で見ているロックが憎らしく見えたリカルは、体が動く限りロックに詰め寄り腕を伸ばした。


「とりもちだよ。獲物の動きを止めるのに使うんだけど、人相手にも結構使えるな」

「とりもちでも何でもいいから、とにかく何とかしてくれない!?ベタベタして気持ち悪いし!」

「何で、冗談じゃない」


 体についたとりもちを早く取りたかったリカルは、ロックの一言が一瞬信じる事が出来なかった。


「こっちは時間までこれを取られなければいいわけだから、時間になるまでそのままでいてよ」

「ちょっと本気!それ卑怯じゃない!」

「ルールは守っているから卑怯じゃない。これも戦術だよ」


 そういうとロックはゆっくりと立ち上がり、体を縮めて力をためると身体中のバネをつかって大きくジャンプをして近くの家の屋根の上に乗った。

 ネコ族の特徴は身体能力の高さで、この程度の芸当はロックにとって朝飯前である。


「じゃ、日が沈むまでゆっくり休んでてね」


 屋根の上からロックは意地の悪い笑みを浮かべてリカルに手を振ると、家の反対側に飛び降りていった。

 とりもちに包まれながら一人取り残されたリカルは、立ち去るロックに向かって罵声を浴びせていたが、そのロックもいなくなったのを確認すると、素早くジャケットの袖から腕を抜き、そのまま両腕で腰のあたりをまさぐる。

 やがて別のスティックを二本取り出すと、それぞれの手に持って起動を行った。

 二本のスティックをそれぞれ臨界点まで起動させると、リカルはそれを腰の近くで構えると同時にエネルギーを放出、強力な推進力が生まれ一気に前に出るが、とりもちに体がとられてしまい前に進めない。


 とりもちが伸びきった所でリカルは更に出力を上げると、体についたとりもちがブチブチと嫌な音とともに少しずつはがれ出してくる。

 それに加えて彼女は、体の奥底から出したような咆哮とともに体を様々な方向にひねり出し、そうしてやっととりもちの呪縛を解いた。

 その時の支えを失った勢いで投げ出される形で空に飛んで行ったが、すぐに手にしたスティックを操って地面に着地した。


「考えは良かったけど、この位でアタシを止めれると思った事が間違いよ」


 激しく動いたため荒くなった呼吸を整えながら小さく呟くと、リカルは乱れた髪を手で整えながら、身体にとりもちが付いていないか確認を始めた。

 腕や脚などにまだ少しとりもちがついていたため、リカルは嫌な顔をしてそれを見ていたが、それよりもショックなのは先ほどとりもちを振り切った時に、リカルの獣毛も一緒に抜け落ちたため、身体中の毛並みのあちこちに小さな抜け毛の痕が出来てしまったことである。

 ロックに対して二言三言、呪いの言葉にも聞こえるような愚痴をつぶやいた後、リカルは先ほど自分がいた所に近づいて、脱ぎ捨てたジャケットに手を伸ばした。

 襟の部分を掴んで引っ張り上げようとするが、とりもちがくっついていてとる事が出来ない。


「あーもう、結構イイ感じに着慣れてきたのに。後で絶対弁償させてやる」


 ジャケットから手を離した彼女は大きく辺りを見渡してから、その場を走り去っていく。

 その足音が完全に消え去りしばらくして、屋根の上から人影が地面に降りてきた。

 ロックである。

 彼は屋根つたいに逃げるふりをしてその場に留まり、リカルに遠くに行ったように思わせたのだ。


「引っかけるのも手、悪く思うなよ」


 そう言ってロックはリカルの動きを止めたとりもちに近づくと、ポーチから今度は粉の入った小さなビンを取り出しその粉をとりもちに振りかけた。

 すると粉が化学反応をおこしてとりもちが徐々に溶けてなくなっていき、最後にはリカルのジャケットだけがその場に残った。


「しかしまさか無理やり引きちぎるなんてね。あの場の判断としてはいいけど乱暴だな」


 女の子の取る様な行動じゃないなと思いながら、ロックはジャケットを拾い上げた。

 服型の軽鎧に分類されているだけに、きつめの作りにかなりの重量感を持っている。

 これを使って別の罠を張ろうかと考えている時、ふと襟の辺りで指が何かに触れた。

 違和感を感じたロックが襟をめくってみると、手のひらサイズのケースがついていた。

 それを見た瞬間ロックは周りにすばやく目を走らせ、何もない事を確認するとすぐにジャケットを投げ捨てようとした。

 しかしロックが手を離すより早く、そのケースが破裂した。

 ポンと小気味の良い音と共に破裂したケースからは大量の粉が飛び散り、ロックの体や周囲を白く染めていく。

 立ち上った粉が薄れてくると、そこには粉まみれになりながら咳き込んでいるロックがいた。

 リカルはジャケットを掴んだときに、えりの部分にこっそりとケースを仕掛けていたのである。

 リカルの仕掛けにはまったロックだが、とりあえずジャケットをその場に捨てると全速力で今いる場所から駈け出した。

 ロックが走り去ってからすぐ、今度は自分の仕掛けが発動したのを確認したリカルがその場に現れた。


 ジャケットを拾い上げ、粉やほこりを払い落しながら地面に目を配らせると、舞い散った粉を踏んだロックの足跡がくっきりと地面についている。


「引っかかったと思わせるのも作戦、このまま追い詰めるわよ」


 言葉とともにリカルはジャケットを羽織るとすぐにその足跡をたどっていった。

 しばらく走っていくと、大量の水が辺り一面にまかれている場所を見つけ、その場所を境にロックの足跡が見えなくなってしまった。


「粉を落としたか、やるわね。……でも」


 そういうとリカルは辺りに注意しながらその付近をゆっくり歩き出した。

 うろうろと歩いていたがある所についた時に周りと違う匂いをリカルは感じ、その匂いがする方向へ走りだした。

 リカルが仕掛けた粉は微弱な香りを放つ物で、たとえ洗い流したとしても一度ついたその香りは簡単には取れない。

 その香りをたどってリカルが走ると一軒の建物の中に匂いは続いていた。

 リカルも躊躇することなくその建物の中に飛び込んで行った。

 そこは、バーとカフェと食道を兼ねたこの村唯一の宿屋だった。

 ここに入ってすぐにリカルは、今まで感じていた匂いが途切れている事に気がついた。

 店内は料理や飲み物といった様々な匂いが入り混じっており、このせいでマーキングの匂いが消えてしまっていた。


「気付かれたかな」


 手がかりをなくし、これからどうするかを考えていると、カウンター側の方から声をかけられた。


「そんな所に立たれると、商売の迷惑になるんだけど」


 その声にリカルがカウンターの方を見ると、自分より少し年上の白い体毛と黄色い瞳のネコ族の女性が、カウンターの中でカップを磨いていた。

 どうやらこの店のママのようである。

 入り口から離れたリカルはゆっくりママの前まで歩くと、カウンターに片手をついて少し身体を乗り出す態勢を作った。


「ちょっと教えてほしい事があるんだけどいい?」


 そう言うとシッポを軽く揺らしながらなるべく人当たりのいい笑顔で、しかし冒険者らしい態度で話をするリカル。

 しかしママはリカルの話を聞くとふいと後ろを向き、そのまま棚の整理を始め出した。

 相手のそっけない態度を見たリカルは、服のポケットから黄色の硬貨(プレート)を数枚出すとカウンターにおいてブラックのコーヒーを注文した。

 ママは棚からマグカップを出すと、ポットに入っているコーヒーをカップに注いでリカルに差し出した。


「アタシと同じ位の歳の男の子見なかった?」


 出されたカップの中身を半分ほど飲んでから、リカルは改めてママに話を始め、今度はママもリカルの話に答え始めた。


「さあね、同じ年頃したのは何人かいるし、今日も何人か店に来ているから特徴が分からないと」


 そう言ってママはリカルの後ろの方を指さしてみる。リカルも顔だけ後ろに向けると、様々な歳の子供達がそれぞれ席について食事や談話をしていた。


「んーと、くすんだ黄色いハネっ髪にオレンジがかった黄色の毛、Tシャツにジャケットコート着て首からペンダントつけてて下はジーンズで、あと左腕に銃を付けていたかな」


「ああ、ロックの事ね。濡れた体で入ってきたかと思ったら勝手口の戸から裏通りに出て行ったよ。素通り禁止だっていつも言っているのにさ」


 話を聞きながらもリカルは今見た食道から店の後ろ側を見渡した。

 食堂の隣には奥に通じる廊下があり、入ってきた入口の脇には二階への階段がある。

 この店だけでも隠れる所はかなりありそうだが、カウンターに向き直した時のママの顔は嘘をついている様には見えなかった。

 コーヒーの残りを飲み干してからリカルは、カウンターの奥隣の勝手口に近づいて戸を開けた。

 戸を開けるとすぐに、ロックにつけた匂いが漂ってきたためこの方向が正しい事がわかったが、すぐにママの方に向きなおった。


「どうして本当の事をすぐに教えてくれたの」

「あの子が大事にしている物をかけての勝負でしょ。だからあなたに勝ってもらいたいのよ」


 分からないという顔をするリカルに、ママはカップにまたコーヒーを注ぐと今度は自分で飲みながら話を続けた。


「宝物だか何だかは知らないけど、未練になる様なものなら手元にない方がいいもの。あいつが目指している物、あいつがその事考える度にやるせない瞳をする所が見てられなくてね。いっそ誰かにあげるか捨てるかした方がいいと私は考えているから」

「あいつそんなに冒険者目指しているんだ。でも何で外に出ないでここにいるんだろ」

「それはこの村の都合だから。よそ者がそこまで気にする所じゃないわよ」


 そう言われて話をやめたリカルはその勝手口から外に出ようとしたが、振り向くとママに薄緑色の硬貨を弾いて渡し、棚に並んでいるコーヒー豆を一袋、後で取りに来ると伝えて外に出て行った。

 代金を受け取ったママは、これが祝杯かやけ飲みどちらかになるのかと考えながら、ボトルキープ用の札に名前を書こうとして名前を聞いていない事に気がついて、少し考えた後に『ライオン娘』と札に書いてコーヒー豆の袋に札をつけた。




 薄暗い地下水道の中をロックは走る。

 時々曲がり角を曲がっては後ろを振り返り追跡がないかを確認する。

 リカルの罠にかかってつけられたマーカーを水で落としたが、かすかに匂いがしたので飲食店に潜りこんで料理の香りでそれを隠す事を思いつき、店に飛び込んでから裏口から飛び出てそのまま地下に潜った。

 何度目かの曲がり角に身を隠すと、ロックは数回大きく呼吸をして息を整えた。

 元々ベテランの冒険者をこの位で振り切れるとは考えていないので、とにかく今はどこかに隠れたかった。

 呼吸が落ち着いたところでまた走りだそうとした時、ロックは周りの空気の流れが変わった事を感じ、次の瞬間彼の顔のあたりを何かが猛スピードでかすめていった。

 不意を突かれて驚いたロックはその場から離れようと走り出す。

 しかしそれより早く、ロックは背中に強烈な衝撃を受け、そのまま前のめりに倒れてしまった。

 すぐに立ち上がろうとしたが受けた痛みのせいで身体が思う様に動かない。

 それでもロッドを支えに立ち上がるが、背中に視線を感じ後ろを振り向くと、リカルが数歩分の距離を取って空弾銃を構えて立っていた。


「よお、思った以上に早く来たな。やっぱりベテランのハンターは違うか」

「素人のくせに手こずらせてくれたのはアンタが始めてよ。さすが鍛えてるだけはあるね」

「褒め言葉と思っておくよ。ついでに言うとまだ負けちゃいない」


 背中にまともに弾を受け体はふらついているが、話す声やその目の光は少しも傷ついていない。

 リカルは感心しながらも厄介な相手だと思った。


「諦めないのはいい事だけど、この状況でどう勝つの。いいえ、どうすれば負けないの」


 リカルは銃を構えながら数歩、ロックに近づく。

 ロックはそれに合わせて後ずさりするが、体の痛みのせいで思う様に動けず彼女との距離を離せず、ついに彼女はロックにあと一歩の所まで来た。


「体がそれじゃアタシの相手は無理よ。」


 表情を変えないまでも勝利の確信で声が心もち高くなるリカル。

 ロックは声を出すことなく彼女を見ている。


「このまま腕を伸ばせばプレートを獲れてアタシの勝ち。どうやって逆転するの」

「……こうやってさ」


 そう言うと同時にロックは杖代わりに使っていたロッドの柄の部分で地面を軽く突いた。

 あわてたリカルは目の前のロックに腕を伸ばしたが、彼女の腕は突然地面からせりあがってきた石の壁に阻まれてしまった。

 逃げ出そうとするも次々と現れる石の壁に囲まれ、ついに彼女は魔法の石壁に閉じ込められてしまった。


杖持ち(マジックユーザー)だから用心していたつもりだったんだけどな」


 そう言いながら苦々しい顔で周りの壁を触るリカル。

 当然壁の向こう側のロックにはリカルの表情まで分からないので、彼はしてやったという結果に調子づいた口調で話しだした。


「駆け引きはオレの方が上だな。魔法の壁は力じゃ壊せない、今度こそ詰みだぜ」


 そんなロックに対して、リカルはなぜか黙り込んでいる。

 彼はそれを疑問に思ったが、悔しさで声が出ないのだろうと決めつけて、ロッドを軽く振ると先端を自分の体に当てた。

 ロックの体に電流が走ると、彼が今受けた傷が瞬時に治っていき、終わった時には動かす事も大変だった身体はすっかり元に戻っていた。

 治癒魔法で身体を治したロックはすぐその場を離れる。

 その足音が遠くなってからすぐ、リカルを囲んでいた石壁が徐々に透き通っていき、最後に小さな音をたてて崩れた。

 崩れた石壁のあった所には、リカルが手に魔力を込め、壁を壊した姿があった。


「詰めが甘いわね。相手も魔法が使えるか、ちゃんと確認しなきゃ足元とられるのに」


 そう言いながら、リカルは空弾銃とスティックを再点検して、右腕に付けているアームガードのはめ込み口に小さな金属の塊を取り付けスイッチを押す。

 するとその塊はみるみるうちに姿を変え、アームガードと一体化して小型のキャノン砲になった。

 この塊はレギオンメタルといわれるナノマシンの集合体金属であり、普段はただの金属の塊だが、特定の電流を流すとプログラムされている物に変形する金属である。


「きっちり追い詰めていかないと、ここじゃ勝てないか」


 思った事を口に出すのは彼女自身自覚している癖である

 全ての準備を整えてからリカルは一番近くにあるハシゴを見る。


「次で決着よ、絶対逃がさない!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ