プロローグ 集う古代人達
モルコース太陽系。二つの太陽を恒星とし、それを中心としてその周囲の軌道には大小さまざまな惑星が公転活動を行っている。
その公転軌道の中に、ほぼ近い公転軌道を持ち密集する様な形で公転している六つの惑星がある。この六つの惑星にこの太陽系の生命が、人類が息づいている。
惑星内部に巨大な空洞があり、惑星地表部と空洞内に多数の古代遺跡が存在している空洞惑星ランクゥーノ。
様々な機械工学と魔導学の研究成果が古代文明の遺産となり、人無き都市として無音と共に佇んでいる学術惑星デュオース。
気象の異常変動のため海抜が上昇しかつての文明遺産が海の底に沈み、ただ一つの大陸と飛び石の様な島々で人々が生活をしている大陸惑星トラメイ。
極地に存在する巨大氷河と惑星を縦断する強烈な熱風のため、荒涼とした大地がどこまでも広がる極地惑星フォルード。
古代遺産を覆い隠す様に生えている多彩な樹木が入る者全てを拒絶する冒険者達が最も苦労する大樹惑星ウーロン。
人類の発祥の地とされ、巨大な宇宙船や機械、武器が発掘された、最もヒトが住んでおり、最も冒険者が旅立っていった出会いと旅立ちの惑星リックロード。
気候も特性も全く違う惑星の中で、人々は土地を切り開き、町を作り、生活のためのインフラを整備する事で、その大地に足をおろして生活をする基盤を作り上げて行った。
モルコースに多数ある星の中で、ほんの少ししか無い有人惑星。しかし普通の人は知らないが、実はこの星以外にも人が住める場所が存在している。
それは冒険者しか知らない特殊な場所、宇宙空間に浮かんでいる先史文明の時代に作られた人工物体。人が生きていくために必要な物を完備しており、自然の惑星の様に内部を循環させる事で人工的に自然の環境を作り出せる。
スペースコロニーと呼ばれる物である。
大昔の物体であるため完全に動く事無く、修理も出来ないものがほとんどであるが、まれに昔の状態のままで稼働しており人が中で暮らす事が出来るコロニーと言う物も存在している。そういった物の中の一つに彼らは潜んでいた。
巨大なクリスタルをそのまま使って作られたモニターにはモルコース有人惑星のいたる場所の映像が小さな分割画面でリアルタイムにて映されている。
そしてそのモニターの前に一人の少年、口元から覗く大きな牙、フサフサとした太くて長めなシッポ、少し癖のある収まりの悪いプラチナシルバーの髪に頭頂部から生えている尖った大きな耳。白狼族の少年が、虚ろな目をしながら黙って見据えていた。
「相変わらずしけた面してるな。最後にあった時とちぃっとも変わっていない」
横から聞こえてきた少し高い声に反応すると、少年は寝かせていた耳をピコンと立て、声の主を探した。
声のした方向を向き、モニターの光にさらしていた目を暗闇に慣らしていく事十数秒。部屋の暗さに目が慣れてくると、暗闇の中から白狼族の少年とこの部屋で暮らしている白狼族の少女と、どう見てもこのような雰囲気の部屋には似合わないリス族の小さな子供が、どう見ても自分より年上な少年達を目の前にしながらふてぶてしい表情をしながら腕を組んで立っていた。
子供に知り合いのいない少年は初めは注意深くその子供の事を見ていたが、トゲの様にツンツンと尖った青い髪と背中に背負っている身体に不釣り合いな槍を見た時、少年は弾けるように席を立って彼に近づき、深々と一礼を施した。
「師匠。お久しぶりです」
「十年ぶりだな、お前は相変わらずって感じだけど」
知り合いに会えてうれしいのか、少年はシッポを大きく振りながらその子を迎え入れる。
一方の子供は久しぶりに入った部屋の中をぐるりと見渡すと、部屋の中が大して変わっていない事に気付いて、ここの時間が変わっていない事が嬉しくもあり寂しくもある微妙な気持ちになっていた。
もう数える事も出来ない位の昔。記憶と力を転生させる能力で自分は長い時間を生きてきた。
目の前の二人は世界を救うために時の流れからその存在が弾き飛ばされ、以来歳をとる事も死ぬ事も無く永遠の今日を彷徨い続ける様になってしまった。そして……。
「あいつはどうしたんだ?」
「ここの所見ていないですね。何か面白いものでも見つけたんじゃないですか?」
自分の問いかけに対して少女が答えると、その子は声を出さずに応えてクリスタルのモニターに目を移した。
もう一人のあいつは冒険者。昔から風の様に流れ星の様に気ままな宇宙の旅をしてきた。その冒険者としての素質のためか、彼は持ち主に永遠の命と力を与える奇跡の宝石を昔とある賢者から託されたと言う。
生まれも生き方も別々、ただ昔出会った仲間達は、運命のいたずらと言うには余りにもだいそれた宿命を背負い、はるか昔、先史文明の時からずっとこの世界に存在していた。
Lostの時代の誰の目にも触れる事のない彼ら、彼らは自分達の事を古代人と呼んでいた。ただ一人を除いて……。
「古代人?」
「そ、そういうふうに呼ばれている連中がいるって話知らない?」
とあるギルドオフィスの一角。オフィスにいた様々な種族のハンターや冒険者達に片っぱしから同じ内容について声をかけている一人の男がいた。
トリ族の男は冒険者の様な格好をしていたが、オフィスにいる冒険者達と比べるといささか薄汚れた、レトロチックな格好だった。
しかし身に付けている物の中には昔から貴重品として多数の冒険者達が探し求めていた品物が数点確認出来るため、男が只者ではない事を声をかけられた冒険者たちはすぐに読み取っていた。
「聞いた事無いな」
「うん、知らないわね」
「長い事この仕事しているが、そんな人種がいるとか初めて知ったな」
「そもそもその話がガセネタって事もあるんじゃないんか?」
しかし男が聞いて回っている古代人に対して、冒険者達からの回答は全員知らないとの事だった。
それでも男は何人かに聞いて回っていたが、聞いた全員からも知らないと言われると諦めた様な顔をして、一言挨拶をしてからオフィスを出て行った。
「誰も知らないか……。どうやらしっかり守られている様だな」
そう呟いた声は風に乗って溶けて行き、冒険者たちは誰も男の言葉に気が付かなかった。
オフィスの外は先程まで降っていた雨もやんでおり、雲の切れ間の所々から太陽の光が差し込んできている。
男は暑くなってきた外に出ると手で日の光を遮りながら空を見上げた。
「一通りは見て回ったし、俺もそろそろ一度戻ろうかね。宇宙に」