15th ACTION ここから飛び出そう!
「ご苦労さまロック」
リュウとの戦いを終えて指定されたポイント近くまでやってくると、先に到着していたリカルがロックに声をかけてきた。
モニター越しの彼女に軽く手を振ると、操縦桿を握り直して彼女の隣を飛んでいく。
「リーダー機の相手してくれてありがと。ファイターでパペットの相手をするには距離が近すぎだったからね」
「なに、その分リカルが取り巻きのパペットを相手にしてくれていたから集中して戦えたんだ、おあいこだよ」
「まあ満身創痍でつぶれかけの連中ばっかだったからPSで簡単になぎ払えたけどね。ジャンクが回収できないのが残念だけど」
そうこう話をしていると、二人はポイント空域にやって来た。
目で見える周囲に何もいない事を確認するとリカルはコンピュータと一緒に準備を始める。
それを見ながらロックは周囲を監視しながらリカルに声をかける。
「リカル、何やるんだか知らねえけど早くしろよ。ぐずぐずしてると今度は何が来るか分かったもんじゃねえ」
「大丈夫よ準備も出来たし、何とかなるって。じゃ、ロックはアタシの上に乗って」
「上?ああ上な、そのままホバリングしててくれよ。リープは周りの警戒を引き継いでくれ」
『アイサー。レーダー高感度モードにチェンジ、半径200シークに機影は無いぜ』
レーダーにメインシステムを直結したリープからの報告を聞くと、ロックも目視で周囲の確認を行い安全を確認してから、ロックは言われた通りランページの機体をリープのコメットランナーの主翼の上に着陸させた。
ランページの脚部がしっかり接地した事を確認すると、リカルはスロットルを思いきり吹かせてロック達を乗せたまま前進を始めた。
『ロック、リンに上に乗れって言われた時になんか考えたんじゃないか?』
「テメエ後でしばくかんな」
「ロック、これからする事分かってるよね」
言われたとおりにしたらいきなり発進したリカルの行動だけでも充分混乱するのに更に突然のこの言葉、リープとのやり取りのせいもあって、さすがのロックもすぐに返事をする事が出来なかったが、今の状況とこれからの行動をつなぎ合わせて行った時、彼の頭の中には一つの答えが導きだされた。
「まさか、このまま宇宙に上がるのか!?」
「ご明察!気密はしっかりしているからロックのパペットでも宇宙に出るだけなら大丈夫でしょ。大気圏を抜けちゃえばあいつらだってすぐには追って来れないし、みんなとはそっちで合流すればいいだけだもんね」
そう言うとリカルは操縦桿を思いきり自分の方へ引き出す。
機体は角度をつけてだんだんと上昇を初め、急角度をつけるとスロットルのリミッターを解除、大気圏離脱用のロケットブースターを点火させると更に速度を上げて、トラメイの空へ吸い込まれるかのように飛んでいった。
二機分の機体が生み出す速度と大気による抵抗でブレそうになる操縦桿を必死に押さえつけ、鋭い目で空のその先を見ながら飛行するリカル。何もすることの無いロックは下に垂らしたシッポをパタパタと小さく動かしながら操縦桿に手を置き、目まぐるしく働いている高度計に見入っていた。
しかしこの高度計、ある数字を出した後急にカウントが小さくなってしまった。
もう大気圏を抜けてしまったのかとロックは思ったが、リンクシステムを通して機体外部にはまだ空気が存在している事を確認している。
おまけに高度計の数字は上がったり下がったりをくりかえしており、何か異変が起きているという事を表していた。
「リカルどうした、高度が全く上がって無いぞ。これ弾道軌道に入っているんじゃないのか!?」
心配になったロックがリカルに呼びかけると、彼女も機体に起きている異常を調べようとコンピュータにアクセスを行っていた。そうして出てきた結論は、『機体の損傷による推力不足』と言うものだった。
「おいこら、ベタすぎるミスしてんじゃねえよ。何でちゃんと飛んでいけるか確認していなかったんだ!?」
「確かにダメージは少し受けたけど、それでも大気圏突破の可能領域だったわよ。ちょっとどうなってるの?」
『ごめんなさい。データを洗い直したら先程の狙撃のダメージで重量剛性が落ちてた。機体の損傷が推力低下している原因のため現段階では修復不可能!』
「現状で大気圏を離脱するための方法は?」
『全体重量を約12トン減らすか推力を30パーセント増加すればいけるよ!』
「12トン軽くするか……」
「推力30パーセントアップ?」
コンピュータからの解決策を聞いて、ロックとリカルはすぐに自分達の機体の状態をチェックし直した。
一分とかからないうちに確認を終わらせると、二人はそれぞれの機体情報を交換し始める。
「武器の弾を捨てても2トンも軽くならない。ロックの方は?」
「そもそも捨てれる物がねえよ!リカル、PSのエネルギーを推力に回せないか?」
「もうとっくにやってる。それでもスズメの涙程度よ、ほとんど変わらない」
状況を打破するために二人は出来る事を試してみたが、その全てが大きな効果を表さない事を知ると、二人は操縦桿を握りしめながら黙りこんでしまった。
先にトラメイを飛び出した仲間たちと合流できないと旅の工程にも支障が発生するし、地上に逆戻りとなればまたリュウがちょっかいを出してくる可能性もある。
唸りながら何かを考えていたが他に手が無い、と何かを決めたロックは操縦桿から手を離して何かを手に取った。
「こっちの推力を合わせてみよう。上手く行くか分からないけど30パーセント以上は確保できるはずだ」
「ちょっと本気で言ってるの?パペットの推力じゃ大気圏へ離脱することだって出来ないのよ。いくらこっちがメインの推力を担当しているからってサブ推力にもならないわよ!?」
「それが何とか出来るんだ、まあ見ててくれや。リープ、補助エンジンを使うぞ準備してくれ」
『アイサー。でもこれやると後始末が大変だから本当はしたくないんだけどな』
愚痴をこぼしながらリープはランページの各所に装備されているPRSと十六基のBBの調整を始めた。
ロックはコックピットコンソールの一番右側にある開閉マークの付いている辺りを触り、マークが付いているフタを上に押し上げた。
ふたの中には穴が一つだけぽっかりと開いており、ロックはふたを開けた右手で自分の腰に留めていた粒子波動刀を掴むと、アイドリング状態でその穴の中に突っ込んだ。
「補助の粒子波動エンジンの接続完了。起動と同時に粒子波動エネルギーを機体全体に急速チャージ開始」
『補助エンジン起動開始確認、メインエンジンに回路接続。生成されたエネルギーを機体に供給開始、三十秒後にチャージ完了』
穴の中に入れられた粒子波動刀は高い回転音を出しながら周囲の粒子を取り込みエネルギーを作り出す。
ロックの粒子波動刀は元々小型の粒子波動エンジンにエネルギーソードの発振機を組み込んだものでエンジンを殆どそのまま流用して作った物だった。元がエンジンなので、ロックはこれを補助エンジンとして使えるように自分がよく使う道具に組み込んで使えるよう改造をしていたのだ。
『コメットランナー、現状の推力維持はあと数分が限界だよ』
「ロック、早くして!」
『おまたせ、エネルギーチャージ完了を確認したぜ』
「BB開け!粒子波動エンジン点火、フルブーストだ!」
号令と共にロックが操縦桿を動かすと、十六基のBBから炎が噴き上がる。
オレンジ色の炎が数秒噴射されると、次の瞬間ロックの粒子波動刀と同じ、空の色に良く似た青い粒子を噴き上げ、ランページとコメットランナーの二機を加速させる事に成功した。
「PRSを展開して前方からの空気抵抗を軽減する」
『ランページキャットのPRS展開を確認、これで推力が先程と比較して40パーセント増えました!いけるよ』
コンピュータの声を聞くと同時にリカルはもう一度スロットルを全開にするとオートで固定し、両手を使って操縦桿を力いっぱい引きこんだ。
上がった加速力のため操縦桿は更に硬くなり、リカルは顔に似合わない大きくて鋭い牙をむき出しにしながら歯を食いしばり、懸命に操縦を行っていた。
ロックもランページのバックファイアと粒子波動エンジンの出力調整とバーニアの推進方向操作に入って、リカルのサポートを始めた。
推力を得たコメットランナーはゆっくりとだがその機体を上にあげて行き、再加速を初めて数十秒で再び宇宙へ向かって高度を上げる事に成功。
更に角度をつけて上昇していったが、その時ランページの機体がゆっくりと輝き出し、緑色の機体カラーがバーニアから噴き出ている粒子と同じ空色へと徐々に変わっていった。
『サブエンジンの出力が機体の限界値に突入。第一装甲板の融解開始を確認、134秒後にフレームに影響が出る!』
「聞こえたかリカル!こっちは後2分ほどが限界だ、それまでに何とか重力圏から離脱してくれ!」
『頼むぜリン、骨まで見えちゃうオールヌードなんてぞっとしねえからな!』
「だったらしっかり援護してよね!PRS調整、機体の姿勢安定から高度上昇を重視!」
スイッチを操作しPRSの張り方を変えると更に機体に角度が付いて速度も上がる。
明るい空の青が紺碧の海の様な深い青に変わっていき、更に飛び続けると空の色は失われ目の前は段々と黒く暗くなっていく。
『時間限界、もうもたねえ!』
「もう少しキバれリープ!何とかして抜けるんだ!」
「ここまで来たんだ、落ちれるか!エンジンが焼けついても突破する!」
『うおーーーーりゃ!!!』
空へ昇る青い一条の光。視界に広がる漆黒の宇宙。
二人と二機の咆哮が性能の限界に達しているマシンを後押しして、ついにロック達はトラメイの重力を振りほどいて大気圏を突破し、広大な世界、宇宙へたどり着いたのだった。