14th ACTION PLANET ESCAPE 『船が飛んでいく……』
「敵船がいると思われる方角から爆発エネルギーを確認、傭兵達による攻撃が始まりました」
船の位置を割り出してから少しした後、その船が停泊してると思われる方向から聞こえた轟音と、パソコンの熱源レーダーに映し出された熱量の異常反応より、ウサギの観測員はターゲットへの攻撃が成功した事を他の団員に連絡した。
「攻撃が始まったのはいいけど、こっちへの攻撃が止まらないのはどういう事だよ!」
通信を聞いた団員達が喜んだのもつかの間、攻撃を受け続けながらなおも宇宙港を攻撃し続ける敵船に、エトは悪態をつきながら敵のミサイルを次々と落とし、施設の防衛を行って行った。
新たに飛んできた三発のミサイルに銃剣を構えて引き金を引く。
発射された弾丸でミサイルを二発撃破したが、最後の一発を壊そうとした時機銃の弾が切れてしまった。
目前にまで迫ったミサイルを迎撃する術が無くなったエトはその場から飛び跳ねて物陰に隠れた。
その直後、通路に当たったミサイルが爆発し、すさまじい熱風と轟音が物陰のエトを襲った。
エトが物陰から自分のいた所を覗き込んで見ると、ミサイルの落ちた所はまっ黒に焦げていた。
「レインさん、早くあいつらを黙らせてくれよ、こっちも長く持たないぜ。マシンガンの弾もこれが最後か」
隠れている壁にシッポをびたびたと叩きつけながら、エトは牙をむき出しにして小声で呟き、銃剣に最後のマガジンをセットしていた。
そしてまた飛びだそうとした時、ふとレーンの方に目をやると、カタパルトを走るシャインウェーブ号が打ち上げ速度にまで加速され先端部まで到達、そしてついにシャインウェーブ号は大空へと飛び出していった。
『こちら管制室。ただいま宇宙船が打ち上がった、安全圏まで出れるよう援護を行ってください!』
「兄貴達の船が飛んでいく……」
インカムから聞こえてくる管制室からの声。
カタパルトから飛び出し空へとどんどん昇っていくシャインウェーブ号を、エトは座ったまま見つめていた。
遠くへと飛んでいく船、それを追いかけて、ミサイルとビームはまだしつこく船めがけて飛んでいく。
大気圏を抜けようとしているシャインウェーブ号は気密を高めるため装備している武装を使う事が出来ず、PRSの干渉波のみでそれらに対応する事しか出来ない。
ミサイルの何発かが船体をかすめ、そのうちの一、二発が命中する。
それを見たエトはすぐに立ち上がり船を追って駆けだした。
目の前でミサイルを迎撃していた自警団員の足元に置かれていたアサルトライフルが目に留まると、腕を伸ばしてそれを掴み取り肩掛けのバンドをかけるとライフルを身体の後ろに固定して走り出し、更に団員の腰に下げられているマガジンを二つすれ違いざまにくすねて行った。
「こいつ借りてくよ」
「あ、ちょ、待て。一人でなんて無茶だ!」
静止の声を振り切ってエトは走る。まだ出来あがっていない少年の身体に、大の大人でも持ち運びが大変なアサルトライフルを担いで走る事は無理に等しい行為だが、先程からの戦闘で気分が興奮している状態と、船を守りたい一心がその無茶をやってのけるための力になっていた。
進行方向に飛んでくるミサイルは銃剣で破壊していき、作業通路の端までやってくると、エトは弾の切れた銃剣を横に放り出し、背中のライフルを手に取って片膝をついてその場にしゃがみ姿勢を固定させると、上空の船を狙うミサイルに向けて狙いをつける。
「誰だか知らないけどその船はやらせねえ!落ちろよー!!」
牙をむき出して吠えると、エトはミサイルに攻撃を開始した。狙いを上手く付け順調にミサイルを破壊していくエトだったが、敵の攻撃は宇宙港の広い範囲を攻撃してくる。
そしてその中のミサイルが数発、エトに直撃するコースを取って通路の端に向かって飛んできた。
正面にばかり集中していたエトはそれに気付かずにおり、ミサイルの餌食になるかと思われた時、横から飛んできた銃弾がミサイルに命中、エトに命中する前にミサイルは粉々に破壊された。
ミサイルの爆発でようやく横を見たエトは、自分に危険が迫っていた事に今更ながら気がついた。
その彼のもとに駆けよってくる二つの影、その中には先程エトに銃と弾を取られた団員の姿があった。
「てめえ、一人で突っ走るんじゃねえよ!もう少しこっちが来るのが遅かったらヤバかっただろ!」
「ま、そっちは後で話せばいいとして、後はこっちに任せておきな」
そう言うとやって来たもう一人の団員は、肩に掛けていた狙撃銃を構えると船に迫ってくるミサイルを一つずつ撃墜して行った。
すでに普通の銃では届かない距離まで離れたシャインウェーブ号を追いかける十数発のミサイルを、彼は慌てる事無くゆっくりと、しかし的確に破壊していく。
そうして最後のミサイルを撃ち落とした時、岩山の向こう側から何かが爆発する轟音が響き渡った。
自警団員達とエトが音のした方を見ると、一筋の太くて黒い煙を吐き出しながら一隻の船が、傷ついた身体を浮かべてその場から離れようとしている所だった。
「傭兵隊から連絡!敵対戦力の戦闘艦を撤退させる事に成功しました!」
観測担当の団員からの朗報を聞くと、その場の団員達は全員歓声をあげた。
シャインウェーブ号への攻撃も止まったため、エトも安堵の表情を浮かべて岩山から浮かんでくる戦闘艦を見ていた。
しかし観測担当者のパソコンには、遠くに浮かんでいる船からはいまだ高い戦闘可能レベルのエネルギー反応が出ている事を表している。
パソコンのデータを確認した観測団員が双眼鏡で敵船を確認すると、船からは最後の抵抗とばかりにありったけのミサイルとビームが発射されてきた。
「船から再度の攻撃来た。全員退避ー!」
団員の声が全員のインカムに流れる。
彼らが空を見ると大量のミサイルが群れをなし、数十条のビームが空を切り裂きながら宇宙港に向かって殺到してくる。
事態に慌てた団員達は急いで退避スペースの中に飛び込んで攻撃を避けようとする。
エト達も身を隠そうとしたが、彼らが今いる一番端には退避スペースが無く、そのため彼らは一番近くの場所まで全力疾走をしていた。
着弾するビームはまだいくらか効果の残っているチャフのおかげで作業通路に直撃することは無いが、ミサイルは外壁盾や通路に当たっては膨大な熱と音をまきちらし、その場にいる団員達に生きた心地を与える事は無かった。
それはエトに取っても同じで、少し前を走っている他の二人に何とか追いつこうと必死になって走っていた。
乱舞してくるミサイルにはせめてもの抵抗と言わんばかりに手に持っている拳銃で撃ち落としているが、足元の通路壁や後ろのバリアに当たって爆発するミサイルからは逃げるしかなかった。
退避口までもう少しの所でエトの真後ろに落ちたミサイルが爆発。
爆風で吹き飛ばされそうになった身体を何とかこらえて踏みとどまったが、その時エトが首に掛けていたリングのチェーンが切れて、彼の目の前の床に落ちて行くのを、エトは自分の周りの時間がスローになった感覚を感じながらその場に立ち止まって見ていた。
リングが床に落ちた時、はっと我に返ったエトはそれに飛び付きしっかりと手に持った。
その瞬間、ミサイルがエトの周りに降ってきて、大爆発を起こした。
打ち上げ台にばら撒かれたミサイルは容赦なく降り注がれ、それらが作り出した大量の熱風と爆煙が晴れてきた頃には、岩山に浮かんでいた戦闘艦は影も形も見当たらなくなっていた。
「ふはぁ、すげえ攻撃だったな。フラッグから各員へ、無事か?」
「こっちは大丈夫です」
「全身あちこち傷だらけだけど何とか生きてる」
「自前の装備が吹っ飛んだー!これって業務保証が効くのか!?」
リーダーが各団員にインカムで呼び掛けると、各員それぞれ自分の無事をインカムを使って報告し始めた。報告の入った団員の人数を確認していき最後の一人の確認が完了した時、不意に別の団員が口を挟んできた。
「リーダー、ギルドから預かって来た傭兵の子供の姿が見えないよ?」
その報告を聞くとリーダーは思わず声を出して団員に聞き返していた。そのやり取りをインカムを通じて聞いていた他の団員達にもざわめきが広がると、全員が口々に騒ぎ始めた。
「お前らさっきまで一緒だったろ、どうしたんだ!」
「逃げる時は俺達の後ろを走っていたけど、隠れていた時一緒にいたっけ?」
「よく覚えてねえけど、一緒に隠れていたんじゃないのか!」
「おいおいシャレになれねえぞ!今の爆発に巻き込まれたんじゃないだろうな!?」
「不味いんだな、無事じゃなかったら傭兵隊のレインがどうおとしまえ付けさせてくるか分からないんだな」
団員の一人が口にしたレインの名前が引き金となり、その場にいる全員が一斉にエトを探し始めた。
通路の端から端まで駆け廻り、通路の外に放り出されていないかを確認するため高さ百メートルはある打ち上げ台の外の地面を見下ろす者もいた。
探し始めて数分、全員に焦りが見え始めた頃、突然どこからか声変わりのしていない少年の甲高い声が聞こえてきた。
団員の数名が声のした方にやってくると、作業通路と打ち上げレーンの間にある排水用の溝の中に、熱で身体の毛並みがチリチリに縮れ、煤であちこち真っ黒になりながら仰向けの状態ではまっているエトがいた。
「無事だったかお前、良かったー。一体どうやって助かったんだ!?」
「こっちに排水溝があるのを思い出して、中に入れば助かるかなと思ってこっちまで転がって来たんだ。でも入った後で気絶しちゃって、いまやっと目が覚めたんだ」
団員の問いかけにバツが悪そうに笑いながら答えるエト。
少年の無事を確認出来た彼らは溝の中からエトを助け出す。
助けられたエトが空を見上げると、ロックが乗っていった船も、それを襲ってきた船も両方ともいなくなっているのを確認して少し安心していた。
エトを助け出した自警団員達が戦闘の後片づけをしている中、エトは自分の身を呈して拾い上げたリングをギュッと握りしめたまま、ロック達の船が飛んでいった方向の空をじっと見つめていた。