14th ACTION PLANET ESCAPE (宇宙港攻防戦)
「本当にまだこっちの方向に敵がいるのかよ?」
「あれほどの強力な攻撃が出来る物なら、生身で扱うには無理があるからな。移動するとなれば絶対痕跡が出るはずだから、それが無いならまだ砲弾が飛んできたこっちの方向に何かあるはず」
打ち上げ施設の作業用外壁の通路で待機している自警団が仲間の自警団と話をしている。
通路の別の所では組み立て式の固定機銃に手をかけている自警団が遠くの空を凝視している。
ピリピリとしている空気が漂う中、レインに宇宙港に残る様に指示を受けたエトも彼らに混ざって外壁に座り、自分の銃剣を手に取っていた。
彼がレインから指示された事は、自警団と一緒に宇宙港の防衛をする事ともう一つ、町を攻撃しているリュウの仲間がいる場所を探してレインに報告する事だ。
しかし敵もさること、戦力の規模も陣形の大きさも全く把握させてこない見事な隠密行動を行っており、この二番目の指示は今だに達成できていなかった。
厳戒態勢の中、インカムから聞こえる他の団員達の声を聞き流しながら剣の最後の調整を行っていた時、外壁に直に座っていたエトは何か大きなものが動いている振動を感じた。
初めは小さな振動だったが、時間がたつごとにその振動は大きくなっていき、瞬く間にその振動は外壁全体に響く物になっていった。
他の団員達も振動に気が付き宇宙港の方を振り向くと、今まさにトラメイの大地から飛びあがろうとシャインウェーブ号が打ち上げ用カタパルトレーンを走っていく所だった。
「何だあいつら!この非常時に無茶な事しようとしやがって!」
「兄貴達、強制出航する気か?でも今そんな事しようとしたら……!」
自警団員達がその姿に見入っている中、エトの言葉を遮る様に飛んできた大型のビームがカタパルトレーンのバリアに当たり、バチバチとすさまじい轟音を立てて消滅していった。
エトと団員達が後ろを振り返ると、今度はミサイルがカタパルト目がけて飛んできている所だった。
「宇宙港に向けて攻撃が開始されました!」
「当たり前だ、いちいち報告するなバカ!全員、対ビーム攪乱用チャフグレネード投てき散布。投てき後は各個にミサイルの迎撃、急げ!傭兵の坊主は退避用の外壁盾の展開をやってくれ!」
現場のリーダーの指示を聞くと、外壁にいた全員が了解と一斉に返事を返し、全員が装備として支給された手榴弾のピンを抜くと攻撃を受けた側の外壁の外にそれを投げた。
投げられた後に爆発したそれは、キラキラと光る物を周りにばら撒きながら空間に漂う様に留まっていた。
鏡面化処理された特殊な重物質粒子はこの時代に現存するビーム武器の大半に効果を及ぼし、威力の減退や弾丸の消滅などを行う強力な防御手段として存在している。
その証拠として、ミサイルの後から更に数本のビームが飛んできたが、その全てがチャフを散布した空間で停止、消滅していった。
グレネード投てき後、団員達はそれぞれ手に持っている銃火器や固定機銃を使って早速ミサイルの迎撃作業に移っていった。
ビームに対しての防御策は出来たが実体弾であるミサイルについては人力で取り除いて行かなくてはならない。
二十発ほど飛んできたミサイルを団員達が迎撃している間、エトは皆が相手の攻撃から身を守れる場所となる退避口を作るために外壁に設けられたシステムを起動させていた。
システムといっても外壁の一部をせりあげて壁を作るだけのものだが、複合金属素材で作られた厚さ50センチの壁はちょっとやそっとでは破壊されない、正に盾と言うべき代物である。
外壁の端から回ってこの盾を展開し終えたエトは、一人の団員の所に近寄った。
その団員は宇宙港のレーダーと直結しているノートパソコンを持ちながら、周りで巻き起こる轟音や爆風と戦いながら必死にキーボードの操作を行っていた。
「どうですか?相手の位置。捕まりましたか?」
「まだ駄目だ。畜生、よりによって岩山地帯に隠れやがって」
「相手はやっぱり戦闘艦かな?」
「戦力を見る限り、少なく見積もっても戦闘艦一隻だな。もしそうならずっとステルスを使い続けてもデメリットが無いから手ごわいかもしれない」
観測を担当しているウサギ族の団員が操作しているノートパソコンを覗き込むと、攻撃がやってくる大体の距離は確認できているが、相手がいる範囲が全然絞れないため半径1から2キロメートルの範囲と言うバカでかい空間からの予測しか出来なかった。
ウサギの団員は宇宙港に建てられているレーダーの様に自分の耳を動かし、エトは鋭い牙を口から小さく出し、周りに聞こえるか分からない位の低い唸り声を出しながらパソコンの画面を見つめていると、突然インカムから危険を知らせる連絡が入る。
二人が上を見るとミサイルが三発、ほぼ直撃するコースでこちらに向かって飛んできた。
座っていた自警団員は慌てて身体でノートパソコンをかばい、エトは持っていた銃剣を両手で構えると切っ先をミサイルに向けて、柄の部分にあるトリガーを引いた。
トリガーは剣のツバに付けられた中型の銃に繋がっており、小さな起動音が短く鳴ると機銃の弾丸が飛び出し、ミサイルに命中、ミサイルを三発とも撃破した。
エトが小さく息を吐いたのもつかの間、攻撃の第二波が宇宙港にやって来た。
防御された事に対してか、次はミサイルを中心に高い火力を押し出してきており、迎撃しきれない攻撃などがカタパルトのバリアに当たっていった。
そして断続的に続く攻撃に対して敵の隠密性はまるで落ちておらず、それに対する焦りもあってか団員達はかなり苦しい戦いを強いられることになっていった。
「まだ居場所が特定できないのか!?」
「すみません、相手のステルスが強くてまだ分かりません!」
「このままだとヤバいのだな。何とかして相手の位置を掴まないと」
相手に押されてきた事で他の団員達が騒ぎ出してきたため、リーダーから催促する様な声が聞こえてくる。
観測員も一生懸命にキーボードを操作しているが一向に結果が見えてこない。
そんなやり取りをインカムで聞いていたエトは、弾丸をリロードするための作業を行いながらその会話に割り込んで来てリーダーに進言していた。
「オイラが一度攻撃してみていぶりだしてみようと思うけどどうでしょう?」
「坊主が?しかし位置も分かっていない相手をどうやって攻撃する気だ?」
「大まかな位置は今までの攻撃位置で分かります。後はこっちのカンになるけど、このまま嫌がらせを受ける位ならこっちも嫌がらせをしてみようかと思って」
「出来るならやってみてくれ」
エトの提案に即決で許可を出したリーダーに一言了解と言うと、エトは手に持っていた拳大で灰色の機銃用マガジンを腰のポシェットに戻すと、代わりに青色をしたマガジンを取り出し、銃部分に接続した。
弾丸が装填された事を確認すると、エトは剣を正面の何もない空間に向けて構えた。
観測員からの照準補正を聞きながら、岩山の隙間に狙いを定めると、エトは剣の柄に付いているトリガーを引いた。
構えられた銃口からは、青色のレーザー光線が一条伸びて行き、空に一本の光の線を残しながら岩山に飛び込んでいった。
一発目はそのまま飛んでいったが、向きを変えて連続で撃ち続けて行った時、四発目で何もない空間にレーザーが当たり、命中した事を示す青い波紋が広がったのをその場にいた団員数名がエトと一緒に確認した。
「当たった、あそこだ!」
「うぃ。場所さえ分かればそこを集中して探査して……、よし割り出し成功。全員の端末に位置を送ります」
「よっしゃ、坊主お手柄だぜ」
「へへ、それよりこっちにも座標データを!」
エトに急かされ観測員が彼のインカムに座標データを転送すると、それを受けたエトはレインから預かった端末でそのデータを送信した。