13th ACTION エクストリーマー
ロック達がステップの町の異変に最初に気付いたのは、RWのレーダーが捉えた大気の異常振動と重低音の響きだった。
「何だこの反応?町の方角から?リープ!」
『ちょっと待て、確認……完了。大変だぜ、ステップの町付近に爆発の高熱源反応が出てる!攻撃されたみたいだぞ!』
「こんなタイミングでか?どこかの盗賊が火事場泥棒しようってのか!?」
「てか、タイミングが良すぎるでしょ!絶対アイツが指示したに決まってるわよ!」
通信機越しに話をするロック達は、とりあえずの情報をまとめるとリュウのツヴァイに向けて通信を送った。
「おいこら、ウサギ!お前の仕業だろう、町に一体なにしやがった!」
『ふふん、俺のもてなしは気に入ってくれたか?お前らが船を持ってて、宇宙港に仲間がいる事も調べがついてんだよ』
スピーカーから流れてくる、動揺の色が見え隠れするロックの声に気持ちを良くしたリュウは、してやったり顔をしてから少し大きな態度を取ると、そのままロック達との会話を続け出した。
「宇宙港への攻撃をやめてほしけりゃどうすればいいか、分かるよな?とりあえずはお前らRUから降りてもらおうか」
突然出てきた取引の言葉に、ロックとリカルはそれぞれコックピット内で身を固くして構えた。
リュウはクククと低く含み笑いをするとツヴァイの両腕を下ろして余裕のある態度を見せてきた。
『全く、何であんなにムキになるんだか知らねえけれど、はた迷惑な奴だな。それでどうするんだよ二人とも。大人しく言う事を聞いておくのか?』
リープが二人に問いかけた質問に対して、二人は間を置く事無く殆ど同時にノー、と答えていた。
「初めに人質を取って、それで交渉だなんて言い出す様な奴が信用できる訳ねえ」
「ああいうやつは初めから約束守る気が無いから平気でこんな事出来るのよ。言われたとおりに機体から降りたら最後何されるか分かんないし、全員無事に済ませる保証だってどこにも無いわよ」
『でも何かしないと攻撃がまた始まっちゃう。でもでも下手に動くとこっちが攻撃されちゃう。一体どうしたらいいんだろう?』
要求を受け付けない姿勢のロックとリカルの後ろでは、彼らの機体のデジタリアン達がこの状況を打破するための方法を考えようとあたふたしている。
その時特殊な通信回線を介しての通信が二人のインカムに届く。
その通信はシャインウェーブ号のブリッジで出航の準備をしており、今はこの状況のため船内で待機をしているコーラルからだった。
突然出てきたコーラルに軽く驚くロックとリカル。よほど緊急の事だと思ってすぐに通信の内容を話してもらう様に促すと、コーラルの口から出てきた内容は二人を更に驚かせる事になった。
「それ本気で言ってるんですかコーラルさん、危険すぎます!」
『でも今出来る事で一番良い方法はこれしかないと思います』
「アタシも反対。チームのリーダーとしては、全員の生命にかかわる事に承認は出せないわ!」
『だがこの状況を打破するための方法も他にはない、一か八かその手に掛けるしかないんじゃねえの?』
コーラルの突然の提案に悩むロックとリカル。
リープ達はコーラルの考えで行こうと言ってくるが、船内の乗組員たちへの危険が大きすぎる内容のため二人は了解出来なかった。
別のスピーカーからはリュウが返答を催促する内容の声が聞こえてくる。それにかぶさる様にコーラルもロック達を説得してきた。
『やらせて下さい。私もオーナー達の仲間です、みんなを助けるためなら命がけで成功させてみせます!』
「コーラルさん……」
決意に満ちたコーラルの声、それに続くブリッジクルー達の声にリカルは答える事がまだ出来ずにいた。
その時ランページの方で動きがあり、リカルがロック達の方を見ると、ロックはランページのコックピットハッチを開いて自分の姿が表に見える様にしていた。
ロックのこの行動にはリカルはおろかリュウも驚きを隠せなかった。無防備な姿をさらすのだから狙われる可能性がとても高い、そのためこの行動を見たリカルとリュウはロックが降伏したと思ってしまった。
「ちょっと何やってるのロック!それダメだって!」
「外野は黙っていな!やっと観念したようだな、さあコックピットから出てきてもらおうか!」
リュウに言われるまま、ロックはコックピットのイスを収納すると、片足を前に出してまるで徒競争のスタートの様な姿勢を取る。ロックはインカムでリープに小さく「やれ」とだけ伝えた。
するとコックピットの床面が淡く光り出したかと思うと、次の瞬間電磁カタパルトとなった床はロックの身体を勢いよくコックピットから外へと弾き飛ばした。
飛ばされたロックはRSボードを取り出して足元に滑らせながら、左腕を突きだしてCAの中に隠れているAPRを構えた。
「こいつがオレ達の答えだ、ありがたくもらっときな!」
インカム越しにリュウに吠えると、ロックはツヴァイ目がけてAPRを撃ち込む。
発射されたプラズマ弾はほとんど無防備状態のツヴァイに直撃、たまらずのけぞり体勢を崩してしまった。
よろけたツヴァイをリュウの仲間のパペットが支え、他のパペット達は生身で飛び出したロックに攻撃を行う。
銃弾が迫る中、狙われたロックは小さくニッと笑うと空中で足に装備したSボードを起動させ、空間の粒子に乗ると飛び交う銃弾の中を縫う様にして避けて行った。
「テメエみたいな卑怯な奴の取引になんざ応じれるかよ!いくぜリープ、リカルもついてこい!」
「ヒヤヒヤさせてくれちゃって、でもそれがロックらしい所よね。コーラルさん、あなたの作戦で行きましょう。アタシの船はまかせますからね!」
二人に号令をかけると同時にボードを駆って飛び出すロック。
それぞれ了解を意味する声を出すと、リカルとリープも彼に続いて行動を開始した。
一方攻撃されたショックから回復したリュウは、ロックのこの行動に当然怒りロックに対して仲間のパペットと共に手に持っているライフルを乱射しだした。
パペットから撃ち出されたレーザー、それをロックはボードを少し動かして最小限の動きだけで次々と攻撃を避けて行くと、お返しとばかりに左腕のAPRでリュウ達のパペットを攻撃していく。
ロックは自分の攻撃で陣形を組んでいたパペットが散らばった所を狙うと、そのうちの一機を集中的に攻撃。APRで何十発も攻撃をしてその一機を撃破した。
「畜生あの野郎め。エクストリーマーだったのかよ」
CAとボードだけで鮮やかにパペットと対等以上に戦っているロックを攻撃しながら、リュウは次々と攻撃を避けて行く彼に忌々しいと言わんばかりの感情を込めて呟いていた。
RUにはスマート、ビーグル、ウェポンの三種類のユニットがあり、そのマシンを直接取り扱う操縦者はそれぞれライダー、ドライバー、パイロットと呼ばれている。
普通は一人で扱える機体は大体一種類なのだが、操縦の修練を積んだ人間の中には稀に数種類のマシンを乗りこなせる者が現れる。そのような人間の中でも特に実戦型の操縦者で、戦場で乗り物を乗り換え、時には生身の身体で相手のマシンと戦う操縦者の事をエクストリーマーと呼ばれていた。
「は、当たらねえなあ。全っ然当たらねえぜ!」
仲間を墜とされた怒りからリュウ達はロックを集中して攻撃してくる。
しかし四方八方から自分に向かって飛んでくる弾丸を、ロックは笑いながら曲芸師の出し物の様な感覚で避け続けると、戦場を大きく移動していった。
リュウの仲間の機体が、撃ち尽くしたマシンガンの弾倉を取り換えている時、横から飛び込んできたランページがシールドで腕ごと武器を切り落とした。
不意をつかれた機体が振り向こうとした時、ランページは相手より高い所に飛んでおり、そしてそのまま足を振り落とすとまるでかかと落としの様な攻撃で相手の機体を撃墜した。
「あいつのパペット、パイロットが外に飛び出してるのに何で動いてるんだ!副座式なのかよ!」
撃墜反応にリュウがその方向を見ると、ロックが乗っていないランページが一人で動いて仲間の機体を撃破している所を目撃して呆気にとられていた。
リュウがそちらに気を取られていると別の方向で、今度はリカルに撃墜された仲間の反応がツヴァイのコンピュータに表示される。
一度体勢を立て直すべきだと判断したリュウだが、彼の目の前には、ボードに乗ったロックがいた。ツヴァイの正面から突撃してくるロックに、リュウはやってくるロックを捕まえるためにツヴァイの左腕を思いきり早く伸ばした。
正面からロックを掴み取ったツヴァイの腕。そのままロックを掴み上げようと腕を操作するリュウ。
しかしツヴァイの指が握られようとした時、キラリと数条の閃光がはしったかと思うとツヴァイの指がバラバラに切り裂かれて大地に向かって落ちて行った。
驚いたリュウが腕をすぐさま引っ込めると、そこにはいつの間に取りだしたのか最大出力の粒子波動刀を構えたロックが不敵な笑みを顔に湛えながらリュウの事を睨んでいた。
ツヴァイの左手を斬られたリュウはすぐさまツヴァイの頭部についているバルカン砲でロックを攻撃する準備を取る。
しかしその攻撃を行う前にレーダーが後ろから複数のレーザー弾が飛んでくる事を警告してきたため、リュウはロックへの攻撃を中断して後ろからの攻撃を回避し始めた。
ツヴァイを攻撃したランページは、ロックに当てない様上手い具合にレーザーライフルでロックとリュウを引き離しながら更に連続攻撃を叩きこむ。
ロックもその攻撃を支援するため、攻撃力と連射力を高めに調整したAPRでツヴァイを撃つ。
リカルはPRSを駆使しながら戦場を大きく駆けまわって、ロックとランページに攻撃を仕掛けてくるリュウのチームの機体から二人を守っていた。
しかし攻撃されているリュウも絶妙のタイミングで二人の攻撃を避けて致命傷を免れており、更に隙があれば攻撃をし返すなどなかなか手ごわかった。
『俺たち二人がかりを相手に、結構戦えるヤツなんて珍しいなロック』
「楽しいけど決めねえとな。一気にたたみかけるぞリープ、合流だ!」
ロックの指示に応えると、リープはライフルの銃身下部に付いているポンプを引き、両手で構えた銃でツヴァイを撃った。
撃たれたレーザー弾は散弾銃の様に複数の弾がばら撒かれるように発射されツヴァイに襲いかかった。
予想していない攻撃を受けて流しきれない事を感じると、リュウは無理をせずに一旦そこから離脱、結果的にロック達からも離れる事になった。
リュウが離れ、周りに他の機体がいない事を確認すると、リープはすばやくロックの元にやって来た。
リープがコックピットのハッチを開けた事を確認すると、APRで他の機体を攻撃していたロックはすかさずコックピットの中に滑り込んだ。
ロックがランページの操縦桿を握り機体との再リンクを開始、完了したロックが目を開けるとランページのカメラアイを通してロックの視界に飛び込んできたのは、数機の敵機体に囲まれた光景だった。
構えられた銃口から火花が散り、マシンガンの弾丸が飛び出したのが一瞬見える。
ロックは急いで脚と腰に意識を集中させると、すぐにその場で地面から飛び跳ねる動作を考えた。
それと同時にランページの脚部と腰部に装備されているPRSから凝縮された粒子が反発反応させながら噴射され、空中に浮いている機体をまるで地面の上で人が飛び跳ねた時の様に、一瞬でその場から真上に垂直ジャンプさせてマシンガンの弾を避けた。
追撃のため敵が動きながらマシンガンを乱射してくる中、ロックは空間の隙間を探してはPRSとBBを使って滑り込んでいき攻撃を避け、縦に伸びている敵の陣形の中を上へ上へと昇っていった。
さすがに全ての攻撃を避けきることは出来なかったが、PRSで圧縮した粒子の波は物理的な力を持つためその波を起こす事で直撃コースの弾丸の軌道を反らしていき、受けるダメージを最小限に抑えてはいた。
そうして敵の陣形をついに突破すると、ロックはランページのメインバーニアを全開にして急上昇、敵パペットを引き離すと操縦桿を一気に倒して急反転、BBも使用してトップスピードに入ると上空から一気に敵パペット達に襲いかかった。
一撃ずつ確実に手にしているライフルで敵を撃ち抜いて行きながら高速で駆け抜けていくその姿は、さながら光線の様にきらめきながら敵の頭上から真下まで一直線に貫き、ロック達が過ぎた先には大小様々な損傷を受けた大量の機体が浮いていた。
敵陣を突破し終わりスピードを緩めたランページの背後に、狙ってついたいたかのように敵機が現れると剣を構えて突進してきた。
何とか振り向いて反撃に転じようと操縦桿を動かした時、横から飛んできた機銃の弾丸が敵パペットの頭部を吹き飛ばし更に胸部に直撃、パペットは胸部から炎を吹き出しながら墜落して行った。
「危ないなもう。ロック大丈夫、ケガしてない?」
外部からの通信波を聴覚として感じたロックは声のした方に頭を動かす。
視界を動かした先にはリカルのファイターがロックの方角に速度を落としながら接近、ランページの目の前に来ると機体底部のPRSを使ってその場にホバリングしてその場に停止した。
「助かったぜ。でもコックピット近くに弾当てて大丈夫かよ?」
「何言ってんのよ、あれ無人機でしょ?ロックなら見破っていたと思ったけど」
「何となくだけど確信が持てなかった。リカルはどうして分かったんだ?」
「頭部のセンサーアンテナをつぶされた機体だけが完全に動かなくなっていたから。墜落した機体をスキャンしたら生体反応が感じられなかったからどこかの指令スペースで機体を遠隔操縦しているって訳よ」
ロックの質問に得意げになって解説をするリカル。
彼女の洞察力を知るとロックは素直に称賛の口笛を長めに吹いていた。
改めて周りを見るとリカルの方の戦闘も終わっていたので、まともに活動している敵パペットはリュウのツヴァイだけになっていた。
「けっ、散々にやってくれやがって。こっちの算段ご破算じゃねえか」
「あんなちゃちな脅しが効いてたまるかよ!」
「何でもかんでも上手く行くとか思っていたら大間違いって事よ。観念するのね、ウサギ君」
さすがに手を出し尽くしたのだろう、投げやりな感じの声でリュウが悔しさをあらわに出していた。
それでも油断がならないのか、ロック達は挟みこむようにリュウの前と後ろに機体を付けると、彼の機体に銃口を向けていた。
「さあどうするか決めな。ここで止めにするなら、パペットの腕一本もぎ取る位で許してやるけど?」
口調は軽くひょうひょうとしたものだが、機体を通して発せられる物は獲物を決して逃がさない狩人の物そのものだった。
しかしロックの一言を聞くと、耳を垂らして悔しがっていたリュウの中に熱くなるものがわき上がり、次の瞬間垂れていた耳をピンと伸ばすと、ロックに負けないくらいの口調で返事を返した。
「悪いけど、宇宙海賊はそう簡単に降参する訳にもいかないんだよな」
「ニャっ!お前が海賊!?うわっ!」
「ロック!!キャッ!?今のどこから!」
リュウの正体を知ったその瞬間、二人の機体は攻撃を受けた。外からの衝撃は激しかったが、二人は何とか耐える事が出来た。
すぐに外を見るとそこにはリュウのチームのパペットが、ボロボロの状態で動くのもやっとな機体達がロック達を取り囲んでいた。
パペットの中には腕部や脚部のもげている物や胴体がつぶれている物があるが、どれも頭部の損傷は軽微な物しか無いことからリカルの言っていた通り遠くからの操作電波を頭部で受信するタイプの無人機らしい。
無人機が配置されたのを確認したリュウはロック達にツヴァイのライフルの銃口を向けると、先程とは逆転した展開に思わず声を漏らして笑いだした。
「ころころ展開が変わっていくなオイラたちは。だからここで終わりにしようぜ、お前ら降伏してくれよ?」
「あーあ、ここまでかな、ロック」
リュウ達に包囲され、リカルが溜息交じりにロックに通信を送ると、ロックも首を横に少しだけ振ってから返信を送った。
「そうだなここまでだな。時間稼ぎは」
オープン回線にしてロック達の会話を聞いていたリュウは、ロックの最後の一言に不穏なものを感じた。
それを問いただそうとしたその時、彼の拠点である船から緊急の通信が入って来た。
自動で通話モードに切り替わった緊急通信に驚きながらも、リュウは船からの応答に返答した。
「なんだオート、こっちの居場所が冒険者たちにばれたのか、ステルスが切れるまでまだ時間あるだろ」
『そんなどころじゃないですお頭!ターゲットの船が、船が出航して行っちまいました!!』
船からの通信を聞いてコックピットのシートから飛び上がりそうになったリュウは、船からの映像をツヴァイの通話用モニターに送ってもらう。
するとすぐに、ステップの大気圏から離脱しようとするシャインウェーブ号の姿を捉えた映像が届いた。ロック達と会話をするため繋いでいたツヴァイのオープン回線からはロック達の喜ぶ声が聞こえてきた。
「マジかよ。オート、そこから攻撃して落とす事は出来ねえのか」
『距離がついたので無理です。今からの離陸では追いかける事も出来ません』
この時になってようやくリュウはロック達に出し抜かれた事に気がついた。
それに気が付くと、今確実に追い詰めていると思っていた目の前の連中に、リュウは急に底の知れない恐怖を感じる事となった。