12th ACTION ランページ・キャット (B・B)
「おい、おいクリア!任せるって、それが出来りゃわざわざお前に救援なんか頼むかよ!」
一方的に切られた通信機に怒鳴り声を上げると、クリムゾンはマイクをシートの後ろに放り投げ、空中戦をしているリュウとロックを見ながら舌打ちをした。
実はクリムゾンの機体の武器には弾がほとんど残っていなかった。先程のリカルとの戦闘の際にミサイルを八割撃ち尽くしてしまい、キャノン砲の弾も二発しか残って無い。
主攻撃用の手持ちレールガンをロックに向けて撃っているが、すばやく飛んでいる相手を地面から狙ってもなかなか当たるものじゃ無かった。
一方空中でロックと撃ちあいをしていたリュウも、知らないうちに冷や汗をかきながら操縦桿を握っていた。
不意打ちとはいえ初めは押していた戦いで、リュウはクリムゾンと二人がかりで攻撃をしていたが、ロックは瞬間の反応能力がとにかく高く、リュウの挙動に合わせて攻撃、回避をするどころか彼の行動を先読みしているとしか思えない攻撃もしてきている。
更には普通のパペットが出来無いアクロバティックな動きでリュウ達二人の攻撃を難なくと避けるというレベルの高い操縦で対応すると言う、ロックの操縦スキルとランページの機体性能の高さを物語っていた。
「何であんな避け方が出来るんだ?PRS使われてる上にあんなんじゃ全然当たんねえよ。どんなOS積
めばパペットにあんな動き(モーション)させられるんだよ」
リュウがロックにてこずっている時、ロックもまたリュウの操縦スキルの高さに舌を巻いていた。
指揮官やエースパイロット用の強化カスタム機であるツヴァイの性能を充分以上に引きだせるのは並みの乗り手には出来る事では無く、ロック自身もツヴァイをあそこまで扱いこなす自信が無かったからだ。
「上手い奴ってのは、探せばいくらでもいるもんだ。リープ、接近して切り込むからブレードの準備を頼むぜ」
レーザー攻撃を行いながらリープに指示を出すロック。
リープも戦術支援用の自律式AIである自分の本来の役割を果たすべく、ロックの指示に従いながら彼が操縦する機体の運動制御を行っている。
戦術支援AIの役割は、パイロットがマシンの操作を行う際に得る様々な情報を分析、整理を行い、パイロット達にストレスを与えずマシン操作をサポートする事である。
自律型AIのリープは学習能力も持っており、ロックの操縦のクセや考え方なども長い付き合いの中で吸収している。
そのためロックの要求する操作を時間差無しに行う事が出来る。
更に彼女はランページのマスターOSを兼任しているので、今までの操縦データを元に運動プログラムを変えていくため、戦闘中にアドリブで作ったモーションをすぐ使う事が出来るなど、他のパペットが真似できない様な変則的な動きをする事が出来る。
PRSを併用しながら大きく動いてリュウを攻撃し、その一方で少しずつ間合いを詰めていく。
眼前のロックに気を取られているリュウはその事に気付いておらず、下から援護射撃をしているクリムゾンがそれに気付いてリュウに通信を入れた時、ロックが一気に動き出した。
構えている盾にエネルギーを纏わせると、それは一瞬でビームブレードに変わる。足止めに二・三発レーザーを撃つと更にスピードを上げていって右腕を大きく横に振って盾の側面をツヴァイに当てにいった。
ランページに急接近されたリュウは自分に向かってくる波状攻撃を見ると、斬られるよりはましだと判断して、下に向かって高速で移動していった。
その際レーザーがツヴァイのボディを貫いて行ったが、急所に直撃を受けなかったため構う事無く逃げ出した。
『間合いの詰まった状況でああして逃げるか。なかなか面白い奴が乗ってるな』
「でも逃がしゃしねえよ。追うぞリープ!」
そう言ってロックが操縦桿を傾ける。リンクされているロックの思考が操縦桿を通じてリープに届くと、彼女はロックの考えている機体操縦に最適な方法を算出して機体のプログラムを動かす。
一連の行動は瞬間にとり行われ、ロックのランページキャットはまるで弾丸の様な速さでリュウのツヴァイを追いかけ出した。
上空から地面向けての加速落下、リュウは地面寸前でバーニアの逆噴射をかけ機体の姿勢を整えるとリフターユニットのエンジンを全開にして地表すれすれを飛んでいく。
ロックは機体の各所に装備されているPRSを展開させると粒子の膜で全身を包み込み、そのまま力場を反転させて頭部から下に落ちていた機体を元に戻す。
脚部以外のPRSを止めてから脚部の展開出力を強くして空間の粒子に足から乗ると、地面を蹴って走り出すようにして空中を駆け出し、ほとんどノンストップで方向転換を行ってツヴァイを追い直した。
自分を必死に追ってくるロック。
それをモニターで確認すると、リュウは口の端を持ち上げ、肩を震わせて笑っていた。
そして追いつかれそうになり、ロックが盾を振りかざしたその時、早技のごとくパッとリュウの姿がロックの前から消え、代わりに目の前には深紅の機体がどっしりと待ち構えていた。
「今だクリムゾン!叩け!」
「うおりゃああ!たらふく食いやがれ!」
一瞬で上空に逃げたリュウの指示でクリムゾンが残っていたミサイルをロックに全弾撃ちこんできた。
リュウの誘いに乗って追いかけていたロックは、ミサイルに正面から突っ込む形になってしまった。
「やべっ、リープ!」
『ロックオンされた、回避不能!』
「だったら切り抜ける!ミサイルをロックオンしろ!」
『もうやってある!迎撃するぜ!』
飛び込んだロックが指示をするより早くリープが反応していて、左手のライフルと頭部に装備されている小型のパルスレーザー砲でミサイルを次々と撃破していく。
爆発していくミサイルの爆風が視界を遮る中、最後のミサイルを破壊して爆風の中から飛び出したロックとリープの目の前には、肩に担いだキャノン砲を構えているCフレームの姿があった。
「終わりだ!吹き飛べやぁー!」
『ロック、向こうの方が早やいぞ!どうする!』
「ちょっと荒くいく!しっかり機体を動かせよ!オラァ!タイマンじゃ負け無しだぜ!かかってきやがれ!!」
ロックが吠えると同時にCフレームのキャノン砲から弾丸が発射される。
両手の武器をすばやく機体に収納すると、ロックは空いた両腕の手の平を前に突き出した。
目の前に弾丸が迫っている時に行われたその行動にその場にいた全員、リープでさえもロックのしようとしている事が理解できなかった。
その全員が当たる!と思ったその瞬間、キャノン弾が命中した時の轟音は聞こえる事が無かった。
そしてクリムゾンの目の前には、先程までこちらに向かってやって来ていたランページの姿がどこにも映っていなかった。
慌てて探すクリムゾンにリュウが「上だ!」と声をかけクリムゾンがその方向を見ると、新体操競技をしている所を真下から見上げた時の様な回転をしながら自分の頭上を越えていくランページの姿があった。
ロックは腕にPRSの粒子を展開させると、砲弾が当たる直前にそれを凝縮、砲弾を爆発させる事無く掴み取り、砲弾の勢いを活かしたまま機体を上にあげると跳び箱を飛ぶかのようにしてCフレームの上部を飛び越えていったのだ。
「……ウソだろ?」
このとんでもない避けられ方を見て、呆気にとられたクリムゾンは何もできずに立ち尽くしていた。
その一瞬が、ロックに行動を起こさせるのに充分な時間となった。
受け止めた砲弾を持ち直すと、ロックはその弾をクリムゾンの肩、ミサイルの発射ユニットに合わせて上から落とした。
「ごめんな」
ロックの声と共に落ちた砲弾はCフレームの肩に装備されているミサイルユニットに当たって炸裂、まだ少し残っていた砲弾が連鎖爆発を起こしていき、機体を誘爆させて最後に大爆発を起こした。
その爆発した機体からは、クリアと同じ姿の量産型のメタルパーソンが身体をあらぬ方向に曲げながら彼方へ吹き飛ばされていった。
「かしらー、すまねえー!ここまでだぁーー!」
「クリムゾンまでやられたか、畜生が」
ロックに撃墜されたCフレームの残骸を見ながら、リュウはコックピットのコンソールを叩くと苦々しげに言葉を吐き出した。
「でっかくケンカを売っておきながら、もう出し物は終わりか?だったらとっとと決着付けさせてもらうぜ。これから宇宙に上がるんだからよ!」
そう言うとロックはランページの左腕を動かしてリュウにライフルの銃口を向ける。
しかしリュウの方は追い込まれた状況であるにもかかわらず、その態度には少しも変化が見られなかった。
「随分余裕を持ってるな、何をたくらんでいるんだ?」
通信を切っているロックが呟いた時、唐突にリュウはツヴァイの腕を空に高く突き上げた。
何事かとロックが上空を見ると、いつの間に現れたのか、たくさんのパペットがツヴァイの上に陣取って武器を構えていた。
『今度は団体さんだ!全く次から次へと大盤振る舞いだな、うんざりするぜ。どうするロック、あの数はさすがにきついぞ!』
やって来たおよそ数十機のパペットを見ながらリープがロックに聞いてくる。ロックは少しだけ考えた後、操縦桿を握り直した。
「仕掛けを使う、リープ、操縦系統をお前に預ける」
『アイサー!しばらくシフトを変更する。ロックは攻撃に専念してくれ』
二人で打ち合わせを終わらせると、ロックは操縦桿を握りながら意識をモニターごしにこの周囲一体の空間に向けて集中し始めた。
動きの止まったランページを見たリュウは、自分達の戦力を見てロックが諦めたのだとほくそ笑んでいた。
その笑いが狼狽に変わったのは、ロックに向かってリュウが仲間達に号令を下そうとしたその時だった。
『ロック、やっこさん達攻撃態勢に入って動きが止まったぞ』
「狙い通りだな、それじゃ早速……、ファイヤ!」
意識を別々の方向に飛ばしていたロックが目を細めて気合を込めると、突然何もない空間からプラズマを収束させたビームがリュウの一団目がけて飛んできた。
直前にそれに気付いたリュウとその仲間たちは、ロックへの攻撃を中断してその場から離れたが、反応の遅れた機体が三機、腕や頭部などに攻撃を受け落とされていった。
『お頭、今のは!』
「ビット兵器か!ふざけやがって、全機を散らばらせろ!固まってると的になるぞ!」
リュウの号令で残りのパペット達は一斉にその場からバラバラになって動き出し、ランページ目がけて手に持っている武器で攻撃を行う。
『来たな、狙いは良いけど、そんな狙いじゃ俺の装甲をかすることすら出来ねえよ』
飛んでくる弾にリープが一言感想を述べると、彼女はすぐさまパペットのボディを動かして回避運動を取る。
ロックのサポートをしているだけあってその操縦は彼の物に似ているが、その一方でロックの操縦よりも挙動が鋭く、まさしくコンピュータの様な動かし方になっていた。
それを見て、先程と若干の動きの変化にリュウは当惑を覚えた。
その隙をついてロックは、サイバーリンクシステムで自分の思考と繋げている小型の無人攻撃ビットでリュウ達に攻撃を加えていく。
違和感を感じながらもリュウはしっかりと攻撃を避けるため、ツヴァイにダメージを与える事は出来なかったが、その分他の機体を攻撃しては着実に相手の戦闘力を削いで行く。
機動、防御、攻撃。それぞれをその状況に応じて二人で分担しながら戦っていく、それがロックのRWのライディングスタイルだった。
高速で空を飛び交う複数のRW。攻撃をする者、避ける者、弾に撃ち抜かれて大地に落ちて行く者。様々な戦う操り人形達の織りなす閃光と轟音の舞台がその空間いっぱいに開幕されていた。
『BB、最後の一発だ』
「もうか?全機落とさせなかったとは、なかなかやるじゃねえか面白い。リープ、撃ったらすぐ戻すから機体を上昇させてくれ」
そう言うとロックはもう一度意識を集中させると、目の前のパペット達を牽制するように広い範囲にビームを撃ち込んだ。
リュウ達が脚を止めたその瞬間をねらってリープは機体を急上昇させ、ロックは弾を撃ち尽くしたビットをランページに呼びもどした。
十二基の球状ビットを機体に接続すると、ビットはそのまま背中と肩の部分にむき出しのまま固定される。
動きを止められたリュウ達がロックに向かって再度攻撃を仕掛ける。
機体に向かって弾丸が飛んでくる事を感知したセンサーが警告音を発するのを聞くと、ロックは握っていた操縦桿をすばやく引いてスロットルを吹かした。
すると機体に収納されたスフィア・ビットが収納されたままそれぞれの向きを向くと、ビームの発射口から推進剤のバックファイアが吹き上がり、次の瞬間、ランページは先程と比べて段違いの瞬発力でリュウ達の攻撃を避けて行った。
突然の加速力の変化に一瞬全員が追い付けなくなったその隙を突いてパペットの集団に突撃をしてきたロックは、シールドブレードを構えると一番近いパペットを縦から切り裂いた。
頭部から首あたりまで斬られたパペットは、動く力を無くした人形の様に姿勢を崩しながら落ちて行く。
パペットを一体倒すと、そのまま左手に構えているライフルを乱射しながらその場を離れた。
致命傷を与える事は無かったが、それでも確実にダメージを与える事はできた。
そのまま距離をとるため離れて行くランページにパペット部隊が攻撃を仕掛ける。
ロックが操縦しながら意識を再度集中させると、ランページの背部に装着されたラウンドバーニアの数基が機能を止め、噴射口にプラズマエネルギーが収束されると、先程のビームが後ろに向かって飛び出した。
完全な不意打ちとなったこの攻撃は、かなりの数のパペットに被害を与え、数機の機体を撃墜する事になった。
「何だあの武器?ラウンドバーニア型のビット?それともスフィアビット型のバーニアか?コンピュータ、あの武器について検索開始しろ!」
リュウはツヴァイのコンピュータを使ってランページの使っていた武器を調べ始める。
膨大なデータの海の中から検索内容の武器を探し当てると、ツヴァイのモニターの一角に武器のデータが表示された。
『検索結果:ブーストビット。支援砲撃デバイスであるビット・サテライトに機動面での補助性能を持たせる事をコンセプトに開発された武装。スフィアビットにラウンドバーニアの機能を持たせたもので、サテライト展開時は多角面の攻撃を行い、機体収納時にはラウンドバーニアのアクティブノズルによる柔軟な機動力を引き出す』
「高速移動、回避、死角からの攻撃、要は厄介な武器か。フォーメーション、連携で追い込むぞ!」
リュウからの指揮を受けると、パペット達は次々と陣形を整え始める。
距離を取ったランページが振りかえると、恐るべき速さで陣形を組んだリュウ達が、武器を構えてロックの方を見ていた。しかし彼らが動き始めようとしたその瞬間、突然背後から機銃の弾丸が飛んできて、パペットの一機に直撃。飛行用のブースターが火を吹きながら機体が落ちて行き、突然の事に対応をするため、リュウは一度陣形を崩す事を余儀なくされた。
「そっちだけで盛り上がっちゃって。こっちも忘れてもらっちゃ困るわよ」
広域通信波に声をのせながら後ろからやってきたのは、クリアを狙撃ポイントから撤退させたリカルだった。
自分の戦闘機に乗って再び戦闘空域に戻ってきた彼女は、増援で現れたリュウの部隊に不意打ちを仕掛け、更に浮足立った彼らに追撃をかけながらロックとの合流を果たした。
「良かった、まだ無事だったみたいね」
「ニャンだ、心配してくれてたんか。優しいところがあるんだね」
『あのくらいの数とレベルの相手で、俺達がそう簡単にやられるかよってんだ』
「何だかね。心配するだけ無駄だったかな」
「そんな事ねえよ。ありがとな」
モニター通信で、ロックは親指を立てると笑顔でリカルに礼を言う。
モニターに映る彼を見て、リカルは少し顔を赤くすると、首をぶるぶると軽く振るとそんな顔反則だろと軽くこぼしながらモニターをカットした。
「ケッ。おうお前ら、出てくるなりいちゃついてんじゃねえぞ」
「だれもいちゃついてなんかいねえよ。何をみてるんだ?」
「そうよそうよ。羨ましかったらアンタも誰かといちゃついてみなさいよ」
「うるせえ!こんな時にみせつけやがって緊張感の欠片もねえ奴らにぐだぐだ言われたくねえよ。やっぱり思い知らせてやらねえとな!」
「ははっ。今のお前にそんな事出来るのか?」
リュウが吠え、ツヴァイが武器を構えるが、今度はロックが小馬鹿にした様な口調でリュウに声をかける。
それを聞いた彼が反論してくる前に、ロックは次の言葉を口に出して彼の言葉を制した。
「お前のチームのパペットはオレ達が大半落としてやった。この状況で勝とうとしてもきついんじゃないか?」
「大人しく負けを認めて捕まりな。それがアンタらのためになるわよ」
ロックとリカルの二人に諭されるリュウ。彼らのチームのパペット達の動きが止まり、リュウがついに観念したのかと二人はモニターで互いの顔を見た。
しかしリュウは、他の機体には受信できないほどの圧縮された暗号通信を光である場所に送るために機体の動きを止めていただけだった。暗号の内容は『最終作戦実行』。
その暗号通信が発信されてから、ステップの町の方角から轟音が聞こえ煙が見えたのはすぐの事だった。