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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第一話  DREAMER BOY & RADICAL GIRL
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1st ACTION ガラクタの海のボーイミーツガール(墜落船と少年と少女と)

 自分の前を歩くロックの後ろ姿を見ながら、リカルはこの少年について考えていた。

 守人と言うからには戦う事が専門で、先ほども自分と女性が掴み合いを始めようとした時、間に入ってきた時の眼光の鋭さは覚えている。

 しかし彼自身はそういったものとは無関係な性格をしている様にも感じる。

 それは自分の思いすごしかもしれないが、守人としての彼より今の彼の方が自然な感じがするからだ。


 先ほどの連中のようなアウトローに恐れられている一方、今の彼からは周りにいる人を安心させる例えようのない雰囲気が発せられている。

 そのギャップの大きさとそれ以上の存在感。

 それを自分と同じ年頃の少年が出せる事に、リカルは興味を示した。

 包み込むような優しさと大切なものを守り抜く力、時に自分から渦中に飛び込む行動力。

 それは人生を無駄なく長く過ごしてきた人が出せるモノ。

 少なくとも自分達の年齢で出せるものでは無い。

 それを目の前の少年から見出したリカルは、自然とロックに対して関心を持つようになった。

 特に、彼の出す一緒にいて安心できる雰囲気は、常に一人で行動しているリカルにとって心地よいものでもあった。


「悪くない、って言うか結構好きかな」

「ん?何が好きなの」


 リカルの声を聞いて聞き返すロック。

 そのロックの声に気付かないまま続けて話すリカル。


「さっきのロックって男の子」


 その瞬間聞こえてきた、何かを吹き出す音と何かがどこかにぶつかった音で、リカルは我に返り音のした方を見ると、ロックが額をさすりながら立ち上がってきた。

 相当驚いたらしく、シッポが大きく膨らんでいた。

 そこで初めてリカルは、自分が考え事をしているうちに機関室に来ていた事に気がついた。


「さっきから動きが悪いと思っていたら、そんなこと考えてたのかよ!?」


 そう言いながら目の前のエンジンの色々な所を調べているロック。

 それを見てリカルも手伝おうとしたが、もう終わるからとロックに言われて触るのをやめた。

 周りの音がなくなると、不思議と先ほどのやり取りを意識してしまう。

 何とかして空気を変えようとしても、すぐに気の利いた言葉も出てこず考え込むリカル。

 するとロックからまた話しかけられる。


「今の冗談だよね」


 この言葉に、リカルは即答できなかった。

 なぜなら本心から出てしまった言葉であるのでキッパリと否定する事が出来ず、かといって場の気まずさも感じているため肯定も出来ない状況になっているからだ。


「そ、それより船の方はどうなの。飛ばせそう?」


 悩んだ末にリカルは、ロックの質問に答えずに強引に話題を変えようとした。

 ロックも深く追求することはせず、聞かれたことに答えた。


「とりあえず、燃料が空じゃ落ちて当然だよね。エンジン本体や航行用のプログラム自体は墜落のショックでも壊れていないや。今の状態なら星の中は普通に飛べるんじゃないかな」

「燃料が空?そんなこと言ってもアタシは船に燃料入れてないけど、それでもちゃんと飛んでたよ」

「それはね、この船のエンジンが粒子波動エンジンだからだよ。知ってた?」


 始めは話がよく分からなかったリカルだったが、その名前を聞いてようやく納得した。

 粒子波動エンジンとは、Lost以前の先史文明にて一番最新の動力機関だとされているもので、原子や分子も含めた空間中の粒子を取り込み、これらを反応室と呼ばれる場所に集める。

 そこには特殊な力場が展開されていて、そこを粒子が通過する際に生まれる波動を取り込んでエネルギーとするエンジンである。


 最大の特徴は燃料として物質を極力消費しないクリーンさと、空間に流れが存在する限りそれをエネルギーとする事が出来る点で、風や光、宇宙の暗黒物質や、果ては時間の流れもエネルギーにできるため理論上では世界が存在する限り動き続けるエンジンとされている。

 非常に高性能な反面、製造や維持にかなりのコストがかかり、エンジン本体や実装機の発見件数も千に満たないレア物である。

 実はリカルは発掘された船を気に入ったという理由だけで、中を見ず即購入していたのでこの話ですごく得な買い物をしていた事になる。


「掘り出してしばらく置いておいたから、その間にエネルギーが貯まってたのね」

「そういうことだね。よし、ここはこれで出来た。次に行こうか」


 そう話してから二人は船を飛ばす準備のためブリッジに向かった。

 ブリッジに着いてから、ロックは通信機器と電装系、船外の監視カメラのチェックを行いながら、インカム・メットの通信機でどこかと連絡を取り、リカルはエンジンの遠隔操作と航行プログラムの立ち上げを行った。

 二人とも先ほどのやり取りのせいか作業中は全く無口になっていたため、取説を見ながらの作業にも関わらず作業はすぐに終了し、飛ぶための燃料が貯まるのを待つため、リカルは艦長席のイスに座り、ロックは艦長席のデスクの平面な部分に寄り掛かる様にして腰をかけた。

 船外カメラのモニタを見ながら、ロックは自分のシッポを手に取りブラシを取り出すと毛並みを整え始めた。

 さっき驚いた時に毛が逆立ってしまい、落ち着かなかったからである。

 自然に好きと言われた事もそうだが、ロック自身彼女に興味を持っていたので、あの一言でつい動揺してしまった。

 シッポの毛づくろいを終わらせたロックの顔の前に、リカルがひょいと顔を出してきた。

 目が合って一瞬鼓動が跳ね上がったロックだったが、顔には出さずにリカルから目線をはずしてモニタを見直した。


「ねぇロック、使い終わったならそのブラシ貸してよ」

「貸してって、今使ったばかりのだよ。自分のは持っていないの?」

「アタシのブラシは部屋の中だから、さすがに今は探せないわよ」

「女の子ならそういう所はこだわると思うんだけどな」

「そんなこと気にしていたら、ハンターなんかやってられないわよ」


 そう言っているリカルを目だけでみてから、ロックはしぶしぶ自分のブラシをリカルに貸した。

 ありがとうと短く礼を言ってから、リカルは借りたブラシで髪を梳かし始めた。

 砂と埃にまみれていた髪を梳かすと気持ちいいのか、彼女はのどをグルグルと鳴らすと上機嫌になっていく。

 そんな彼女を見ながらロックは、先程まで自分のシッポをとかしていたブラシで女の子が髪を梳かす光景に言いようのない気恥ずかしさや興奮を覚えて、無意識のうちに顔を赤くしていた。

 その後また続く沈黙。

 初対面の二人のため共通する話題もなく会話が続かない。

 しばらくして髪をとかしながらリカルがロックに話しかけてきた


「船、あとどの位で動くようになるの」

「エンジンをアイドリングさせたから、もう少しで飛行用のエネルギーが貯まるよ。十から二十分位かな」

「その後、ロックの村に行くのよね」

「迷惑かもしれないけど、身柄を預かるという事で姐さん達を追い返したからね。形だけでもつけないと後々面倒な事になるから。だから少し時間をとらせてもらうよ」

「構わないわよ。船がこうなら町や村に連れて行ってもらう方がいいから。それにオーシャンガレージは目的地の一つだから、ちょうどいいしね」

「村に用事?機械でも買いにきたの?」


 村が目的地と聞いて、ロックはデスクから降りてリカルの方に向き直った。

 ロックの村はサルベージした機械を直し、それを売って主な収入源としている。

 そのため来る人の大半は機械を買い付けに来る商人か、彼らを通さず直接機械を買いにきたハンター、冒険者達である。


「ううん、村長さんとお話がしたいのよ」

「うちの村長と話?」


 その言葉に頷くリカル。

 彼女と対照的にロックは、険しい顔で腕を組む。


「多分無理じゃないかな。うちの村長、一見の相手には会おうとしないから」

「えー、何で?そういう人たちって大体旅人には会ってくれるもんでしょ?」


 ロックの言葉に荒い口調で詰め寄るリカル。

 それを聞き、ロックは静かに話を続けた。


「ここ最近、村に野盗やアウトローが攻め込んできてさ。村長その対策のために見ず知らずの人を村にすぐ入れない様にしたんだよ。誰かの紹介があれば別だけど」

「そんなもんないわよ、聞いてもないもん!いきなり門前払いだなんてあんまりじゃない!ねぇ何とかならないの!?」


 リカルの剣幕に押されて少し後ずさるロック。

 そのロックをさらに追い詰めるリカル。

 やがて落ち付けというジェスチャーでリカルをなだめたロックは、改まった態度でリカルの顔を見た。


「じゃあ村長に会いにきた理由を教えてよ。そうしたら僕が村長に紹介してもいいよ」

「本当に」

「あなたは悪い人に見えないからね、理由がちゃんとしてれば大丈夫でしょう」


 そう言われてリカルはロックの顔を見ると、軽く頷いてから話を始めた。

 話の始めは一月前、前の仕事を終わらせたリカルが次のターゲットを探すために古文書を開いている時、偶然開いた本に載っていたものが原因だった。

 そのページの挿絵には、幾何学的な紋様とICチップの走査線の様なものが刻まれており、遺産についての文章が書かれていた。

 そしてリカルは、ハンターであった師匠のもとから独立するときに餞別としてもらった物が、この絵の物にそっくりだったことを思い出した。

 リカルはすぐに昔もらった物を引っ張り出してきて、本に書かれている事とそれの特徴を見比べる。

 そして自分の持っている物が本に載っている物と同じことがわかったら、その遺産に関連する資料を集めて詳細な情報をまとめる。

 同時にすぐ旅立てるよう準備も行い、数日後に滞在していた町から出て今に至る。


「で、これがその鍵らしいもの」


 そう言ってリカルが取り出したものは、ガラスのように透明でガラスより硬い物質のプレートに、様々な線が刻まれている物だ。

 ロックは直接それを手にする事はしなかったが、少しの見落としも無いよう注意深くそれを観察した。


「すごく透明だな。アクリルやガラスじゃないし、クリスタル?いや、クリアメタルか……」

「中々の洞察力ね、でも全部ハズレ。このプレート、精霊石の加工品よ」

「精霊石?魔導鉱物資源の?透明なものは滅多にないのに。しかもこんな複雑な加工をしてある物なんて、これだけでも十分価値あるがあるよ」


 話をしているうちにだんだん興奮していき、ロックは思わずプレートに手を伸ばしたが、すぐにリカルが自分の手を引っ込めた。

 アッと顔を上げると、リカルがニヤニヤしながらロックを見ていた。

 恥ずかしい所を見られたロックは、頭をかきながらデスクに顔を乗せる様にしゃがみ込んだ。


「で、その鍵は一つだけなの?」

「まだあるわよ。アタシは今まで三つ集めたの。その内の一つはこの星の空の守護者からもらった物だけど」

「浮遊島群の責任者か。よく持ち主がわかったね」

「この手の物は土地に安置されている物が多いから、この星には陸海空の守護者が代々それぞれの土地を見ているって聞いたからあたってみたら大当たりでさ。次は陸の守護者に会おうと思ってここまで来たの」

「なるほどね、確かにうちの村長は大陸の守護者だから」


「ま、これがアタシが村を訪ねる理由だけど、約束にウソないよね。ちゃんと村長さんに紹介してくれるよね」

「僕はそこまでアコギじゃないし、約束はちゃんと守るから安心してよ」


 そう言ってにっこりと微笑むロックを見て、とりあえず彼を信用しようとしたリカル。

 彼女もつられて微笑んだが、ふいに申し訳なさそうな顔をして、耳を垂らしてうつむいた。


「うにゃ?どうしたの急に」

「こんなに色々してもらっているのに、お礼できるものが何にも無いのよね」


 大した理由じゃないなと思ったが、過ごしてきた環境で物の見方が変わるという事を知っていたので、ロックは気にしなくていいよとだけ言った。

 ロックの言葉を聞いて、リカルは目線を少し下に落として考え事をしていたが、急に顔を上げると自分のウェアのファスナーに手をかけて、そのまま少し下に引き下ろした。

 リカルを見ていたロックは、突然の出来事に驚いてその行動を見入っていたが、彼女が後ろ髪に手をまわしたところで我に返ると立ち上がり、大声で叫び出した。


「ちょっ、お前何やってんだ!」

「え、ああ、現金とかあまりないから代わりにと思って……」

「そんなのいいから、服を着直せ!自分の体はもっと大事にしろ!」

「何言ってんの?あげるのはこっちよ」


 そう言いながらリカルは首から下げていたペンダントを取り出してロックに見せた。

 何が何だかまだよく分からない状態でロックはそれをうけとった。

 それは純金の土台に大粒のブラックオニキスをはめ込んだだけの、飾りっけのない造りのものであった。

 ロックは正直な所宝石の価値は詳しくないが、それでもかなりの値段がする品物だということはわかるつもりだった。


「大切にしていた物だけど、いい額になるはずだから受け取って」

「え?ああ、そう、ありがとう。でもそういう大事な物をもらうのも、なんだかいい気がしないな」


 リカルの言葉にロックは答えながら、手に持ったペンダントを見る。

 それを見ていたリカルは、人の悪い笑みを薄く浮かべてロックに少し近づいた。


「それじゃ何がほしいの?やっぱりアタシが欲しいのかなー?」

「いやだから、本当にそんなんじゃないよ!?さっきのもただ見間違えただけだから!」

「結局男の子ってそういうのが好きなのね。ま、魅力があるって言われるのも悪い気はしないけど」


 リカルの話を聞きながら、ロックは顔を赤くしながら違う違うと言い続けている。

 その反応をみて、リカルはクルルと小さくのどを鳴らす。

 そしてロックとの距離をさらに詰めると、胸元のファスナーをもう少しだけ開けながら、トドメとばかりに質問を投げつけた。


「で、アンタはアタシの事どう思ってるの?」

「バッ、どうって初対面の相手の事どう思ってるかって、んな事本人に向かって言えるかよ!そんな、恥ずいし……」


 そう言いながら火が点いたように顔を真っ赤にして、ロックは混乱している頭でしどろもどろと拙くしゃべる。

 それを見ていたリカルは、ロックの予想以上の慌てぶりをたっぷりと楽しんだ後、大声を出して笑いだした。

 この時初めてロックは、自分が彼女にからかわれている事に気がついた。

 正気に戻った事で落ち着きを取り戻したが、目の前の少女はそれでも笑い続けており、今度はふつふつと怒りが込み上げてきた。

 そして、こちらにお構いなしで笑い続ける姿についにキレたロックは、バンと目の前のデスクを握りこぶしで叩きつけた。


「そんなに笑う事は無いだろ!いくらなんでも初対面の女にそこまで恥をかかされる覚えは無いぞ!?」

「黙っちゃいない?押し倒してみる?」


 ロックの怒声を気にせずにリカルは自分の胸の辺りに手を置くと、今度は含みのある笑みでロックに答える。


「……ッ!!」


 流石にその態度には頭にきたのか、ロックはものすごい速さでリカルの肩に両手をかけていた。

 そして自分が言った通りに押し倒してやろうかとロックは手に力を入れたが、驚いたような怖がっているような、しかしどこかそれを嬉しそうにしている彼女の表情を見たとき、その意味が分からずロックは思わず固まってしまいそのショックで正気に戻った。

 正気に戻ると力を込めてリカルの肩をつかんでいることに気付いたので、ロックは慌てて両手を離した。

 リカルは相変わらず喉を鳴らしながらロックを見ていた。


「やっぱりそっちのしゃべり方が素の方ね。普通に話してって言ったのに」


 その言葉を聞いたロックは、ゆっくりとリカルの方へ顔を向けた。

 目の前の彼女は目を細めながら耳をゆっくり動かし、イタズラが成功した時の子供の様な表情でこちらを見ていた。

 ロックは彼女に完全にしてやられた事を認めたが、それを態度に出さずに彼女を見た。


「初対面の人に素の態度じゃ悪いと思っただけだ。しかし本気にさせるのにあそこまでするとは、なかなか出来ることじゃないな」

「ハンターなら、相手の本音を引き出す位は出来ないとね」


 リカルは自分の腕を組みながらロックを見て、その態度と言葉に半ば呆れを感じていたロックは力の無い曖昧な笑顔をしながら、大したもんだよと言葉を発した。

 それと同時に船の後部から、エンジンが作動を開始した事を告げる大きな音が聞こえてきた。

 ロックはもう一度リカルに自分達の村に来てもらう様に話をした。

 リカルもそのつもりだったので、船を使いロックの案内で彼の村まで行く事になった。

 二人で操作パネルを動かし船を離陸させ、針路をオーシャンガレージに取った。

 ロックは船に初めて乗った事がうれしくて、窓から外を見てはさかんに喜び、それを横目で見ていたリカルは子供ねと呟きながら船の舵を取っていた。

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