5th ACTION 力 (大地が眠る場所)
修理の終わったチェイサーに乗り込んだロックは、そのまま町の外に出ると荒野を南に向かって走っていった。
インカム・メットのバイザー越しに目指す目的地を見ると、彼はアクセルを大きく吹かして速度を上げた。
しばらく走ると岩肌がむき出しになっている岩山が眼前に現れた。
岩山の登山口でロックはチェイサーを停めると、彼は岩山の山道を登っていく。
やや高い岩山をゆっくりと登ってたどり着いた山頂には、大地の精霊を祀っている小さな社がかしこまるように建っていた。
社の前に足を運ぶと、ロックはまず社の前に立ち目を閉じて両手を組み合わせ、精霊への祈りを捧げた。
宗教には興味を持っていないロックだが、かつて大地の精霊とは深い関係を築いていたため、一応ここの精霊には祈りを欠かしたことは無かった。
ロックの村の村長は大地の守護者とも呼ばれており、村長になるためには精霊に認められる必要がある。それがこの大地の精霊だ。
「おや、珍しいお客様だ。ようこそ、先代守護者殿」
どこからか聞こえてきた声に、祈りを中断して顔を上げる。
声の主を探して後ろを振り返ると、そこには大地を表す暗い黄色のローブに身を包んだ、この社に仕える神官の男性が立っていた。
「お久しぶりです。急な旅立ちでこちらに寄る事も出来ず、新しい守護者の任命の時にも出席出来ませんでしたから、遅くなりましたが挨拶に来ました」
「そうですか、それは良い心がけです。そうそう新しい守護者のシリュウ君、しばらく見ないうちに随分と貫禄が出てきましたな。見違えるほどでしたよ」
「本当ですか!そう言っていただけるならこちらも安心できるというものですよ」
ロックが神官に頭を下げると、神官もロックに頭を下げて挨拶を交わす。
そうしてから二言三言、たわいもない話を交えながら守護者の資格の正式な返却やこれからの村の事など、村長だったロックがいなくなった後の村の事についての話を二人はしていた。
話が一通り済んだ所で、ロックは右手を出すと別の用件を話し出した。
「実は今日こちらに来ましたのは、あの時私が預けて行きました物を取りに来ました。あれは今どこにありますか」
先程までの気さくな笑顔も隠し、真剣な表情で問いただすロック。
それを聞いた神官も真剣な面持ちで彼の事を見る。
互いにお互いの目を見ながら少しの間、神官はローブの中から筒状の金属を取り出すと、それをロックに向けて突き出した。
ロックはそれを受け取ろうと、無言で腕を伸ばした。
「君は自分の力の大半を封印して、今まで皆のためにその力を使ってきた。その成果は何か掴めましたか?」
金属筒を渡しながら語りかけてくる神官の言葉に、金属筒を受け取ったロックは、受け取った物にじっと視線を落したまま、記憶の中を探るように目を細くしていた。
「……生きる事は戦う事、戦えなければ人を、何より自分を守れない。だから私は戦います。自分の我儘貫く事が自由だと考えてますから、それを邪魔するモノに武器を向ける事にためらいはありません」
「自分の思いのためなら他者と戦う事もためらわない。それは、他者の命を奪う事を是とすると言う事かな?」
「それは否とします。死闘は、譲れない物のためにお互いが命を張る行為だから。無法だらけのこんな時代だけど、だからこそ無駄に奪う事はしたくないです。第一そういうの嫌いですし、そんな趣味も持っていませんから」
「自分で言っている様に我儘だね。でもそれも間違ってはいない。自分を見失わない、強い心で前を見なさい。月並みな言葉だけど、がんばって」
そう言って最後にロックの肩を両手で叩くと、神官はその場を離れて社の方に歩いて行った。
目的を果たし、ロックもその場を離れようと後ろを振り向き、目に入って来た景色を見て思わず動きを止めた。
彼の目の前に見えたのは、一面に広がる荒野と子供のころから慣れ親しんできたジャンクオーシャン、その奥には深い青色の海がかすかに広がり、水平線の彼方から上にはどこまでも突き抜けて飛んで行けそうな青く明るい空が広がっていた。
ロックはその場に立ったままその広大な景色を見ていると、随分前にもこの景色に目を奪われていた事を思い出した。
もっともその時は感動では無く、恐怖の対象としてこの景色を見ていたが。