2nd ACTION 交易都市 (騒がしい再会)
「ここを曲がって少し行けばギルドのオフィスだ」
そう言うとロックは大通りから一本道を曲がって町の奥に入っていき、リカル達二人もそれについて行った。
曲がった所で待っていたロックが、爪の少し飛び出している指をさした先にある建物が目的地のオフィスであった。
オフィスまでもう少しという所で、急にリカルは足を止めると、壁にかかっていたポスターを見ていた。
それに気付いたロック達が彼女に近づいて一緒にそれを見てみると、それにはステップの近くで遺跡の大規模な発掘を行っているという内容のものだった。
自分の後ろからポスターの内容を見ている二人に気付くと、リカルはポスターから目を離さずに話し出した。
「アタシ、あのポスターの発掘現場であの船見つけたんだ。まだ発掘していたんだ」
「えーっ、あの船あそこで見つかったのかよ。しまったな、そんなんだったらオレももう少し粘って掘ってみりゃよかった」
「そう言えばだれでも発掘できると書いてありますね」
「ええ。でも発掘権を得るには権利代として毎月金を払わないといけないから長く続けられないんですよ。そんなに金無いですし、仕事もあるからいつでも堀りに来れるわけでもないのでちょっとだけ掘って止めました。見つけた物も金にはなったけど使える物はなかったから微妙でしたし」
「何だか良くない結果ね。アタシも船を見つけて買ったまでは良かったけどさ、その後変なオバサンに絡まれて船を落とされるわ、縛りつけられて持ち物盗まれそうになるわ散々で、ロックが通りかからなきゃどうなってたか分からなかったし。……あーっ、もう!あのオバサンの顔思い出しただけでムカついてきた。あいつめ、今度会ったらズタズタのボロボロのバリバリに引き裂いて、牛のタタキにしてやる!」
ポスターから離れて、今度はリカルが先頭を切って歩き出す。
彼女はこの間のシャインウェーブ号墜落事故の事を思い出し、直接の原因を起こしたウシ族の運び屋、フェアーの事を思い出しては怒りをあらわにしていた。
あまりに過激なリカルの言葉にコーラルがそれを制しようとしたが、頭に血の上っている彼女にはその言葉すら耳に届いていなかった。
状況の分からないコーラルが何事かとロックに尋ねると、彼はコーラル達と会う少し前に起きた出来事と、その時のフェアーとのいきさつをコーラルに話した。
「彼女ヤバいんじゃないですか?もし今ここで話の人物に出会ったら何しでかすか分かりませんよ」
「大丈夫でしょ、そんな人に偶然出会う確立なんて高くないし」
心配性のコーラルをよそにロックはまるで気にしていないといった態度で彼女の後ろをついて行く。
そんな一行の目の前を横切る一人の女性。
ギルドオフィスの隣の建物から出てきたのは薄いグレーのツナギに身を包んだ黒い毛並みのウシ族の女性だった。
彼女に気付いたリカルが「あ」と声を出すと、その声に気付いたロックも前にいる女性に目が行って「あ」と声を出す。
店から出てきた女性もその場から離れるために身体を翻す時にロック達一行を確認して「あ」と声を出した。
『ああーー!!』
次の瞬間、リカルとウシ族の女性のフェアーは互いに相手を指さしながら大声を出すと、次は相手に近づき、それぞれ相手の服の胸倉を掴みあった。
「アタシの目の前にまた出てくるたぁオバサン、いい度胸してんじゃないか!?」
「うるせえ小娘が!その言葉そっくりそのままお前に返してやって、ついでにお前をもう一ぺんぶっ潰してやる!」
リカルより頭一つ分大きいフェアーが、リカルの頭の上から彼女を鋭い眼で睨んできている。
リカルもそれに負けず下から見上げる様にフェアーを見つめると、ライオンらしく捕食者の目でフェアーを睨む。
互いに相手の迫力に一歩も引く事無く掴みあったまま吠えまくる女二人。
出会う確立なんて低いと言い放ったロックは、世の中何でも起こりうるものなんだなと思いながら、二人を大人しくさせるための方法を考え出した。
「ちょ、ちょっと二人とも。何があったか分かりませんけどこんな所で争うのは止めて下さいよ」
目の前でいきなり繰り広げられた光景に唖然としていたが、すぐに我に返ったコーラルは二人に近づき間に入って止めようと試みた。
『黙れ魚野郎!ジャマすっと宇宙までぶっ飛ばすぞ!!』
しかし二人が同時に放った怒声を正面からまともに受け、コーラルは次の言葉を出す事が出来なくなり、何かを言おうとしどろもどろになった後、すごすごとロックのいる所まで戻って来た。
「ごめんなさい」と謝って来たコーラルにロックは何も言わずに肩に手を置くと、腰の後ろにマウントさせていたロッドを取り出して両手でそれを持った。
ぎゃんぎゃん言い争っていた少女と女性がついに勝負を始めようと拳を握って腕を振りかざした瞬間、頭の中で魔法をイメージしていたロックは、ロッドを振り上げて起動呪文を唱えた。
「サンダーストーム」
するとにわかに上空に小さな雲が現れたかと思うと、稲妻が数本地上に向かって降り注ぎ、二人に直撃した。
『ピギャース!!』
最弱レベルではあったが、魔法の雷をまともに受けた二人はなす術無く地面に突っ伏してしまった。
呪文を唱え終わったロックはロッドを元の位置に戻すと倒れた二人に吐き捨てるように呟いた。
「馬鹿二人が。喧嘩するならもっと場所を選べよな」
「……容赦ないね、ロック」
「正直穏便に止める方法が思いつかなかったので、面倒だから軽くしびれさせた方が良いと思っただけです」
そうコーラルに言ってから、ロックはリカルとフェアーの首根っこを掴むと、そのまま二人を一度に引きずってギルドオフィスの中に入っていった。
それを見ていたコーラルも、目の前で起きた出来事が信じられないといった顔のまま、とりあえず黙って全員の後をついて行った。