プロローグ ネコの激流者
「RW・パペットが合計4機、町の500シーク手前の荒野で仁王立ちだって!?」
「はいっス、ロックの坊主を差し出さなきゃ町を攻撃するってすごい剣幕っス!」
壁に埋め込まれているスピーカーから聞こえる通信を聞きながら、オレは舌打ちを打つと応答を取り合っている傭兵と傭兵隊元締めのレインさんを見ながら、このガレージの老主人に声をかける。
「じっちゃん、オレの相棒はもう動かせるのか!?」
「あん?誰に向かって言ってやがる。整備は完全、すぐにでもバトルすること出来るわい」
老いてもなおその目に鋭い眼光を放つイヌ族の老主人が、怒り顔とも笑い顔ともとれる表情でこちらを見ると、彼は工房の奥から新品同様にピカピカに磨かれたパペットを作業員に運ばせてきた。
どうよといった顔をしながら親指でパペットを指さす彼に笑顔を返すと、オレはガレージの隅に止めておいたRB・チェイサーに飛び乗った。
チェイサーの起動キーを回してエンジンをかけると、PRSシステムが粒子を反応させて機体を浮かせる。
そのままグリップ近くにあるボタンを操作すると、機体は更に高度を上げる。
パペットのコクピット部分まで機体が浮き上がると、チェイサーは吸い込まれるようにその中に自動で入っていく。
「ユニットモードチェンジ、アーマー!」
コクピットにチェイサーを収めてから別のボタンを押すと、チェイサーはその本体を液体の様に崩してオレの身体にまとわりついてきた。
一瞬で全身を包みこんだそれは、次の瞬間オレの身体にフィットした、大型のCAになる。
「おい、リープ、起きてるか?起きてたら返事しろ!」
インカムのスイッチを入れて、この町で合流した相棒に連絡をつけると、しばらくしてから声のやや高い女性の、寝起きのせいなのか間延びした話し声がインカムから流れてきた。
「うう、ん。ロックか。全くなんだよ、人が気持ちよく寝てたってのに」
「よーし、起きたな。お前のデッカイ方の身体を動かすから、この通信回線経由してこっち来てくれ」
「なに、朝っぱらから戦闘かよ。俺お前やリンちゃんにつきあってて全然寝てないんだけどよ」
「いいから早く来い!砲弾の雨が降ってきたら、そんな事言ってられねえぞ!」
無理やり起こされて機嫌の悪い彼女にハッパをかけると、この場に来るように伝える。
文句を言いながらも、自律式のAIプログラムである彼女は通信回線から自分の意識を飛ばしてパペットのコンピュータの中に入ってくる。
インカムのスピーカーからノイズが聞こえ、それと同時にオレの周りの計器類に光が灯っていく。
『来たぞー。動かす準備、一緒に手伝えよ』
コクピットのスピーカーから彼女の声が聞こえる。その声に応えながらオレもシートの隣のコンソールを操作しながらパペットの起動を行っていく。
動く様になったパペットの両腕で、壁にかかっている専用の武器を手にしていく。
ガレージのスタッフ達も床を鳴らしながら走りまわり機体の発進準備を手伝ってくれている。
発進の準備が完了したのと、頭上の屋根が開いて、早朝の青空が視界に入って来たのはほぼ同時の事だった。
「ハードウェア、ソフトウェア異常なし。パイロット生体認証完了。PRS展開、バーニアセット、稼働準備完了」
「打ち上げの準備は出来た、いつでも出ていいぞ」
「AllRight!エクストリーマーロック!エントリーRU、バトリングパペット、ランページキャット!ライド・オン!」
スタンバイ完了の合図を受けて、オレは操縦桿を思いきり引き込む。
機体各所のPRSシステムが粒子を反応させ、全身が浮き始める。
そのまま勢いを付けて上空に上がっていき、ガレージの外に出るとスロットを開いてバーニアに火を付ける。
激しい轟音と震動を感じた後、オレの乗り込んだパペットは荒野に向かって飛翔していく。
自分でまいた種を刈り取るために。
Rostの世界で使われている機械類のほぼ大半は、先史文明の遺産を復元させた物や、残されていた設計図を元に今の人間達が作り出した物であり、自分達で一から作り出された機械を使っているのは冒険者やそれに関わる機械屋達位である。
そんな彼らでも自力で作ることが出来ない物がこの世界にはいくつかある。
その中の一つが、戦う事を主眼に置かれた大型の搭乗式機動武器。RWと呼ばれる種類の乗り物である。