エピローグ シャチの旅立ち (最後の企み)
翌朝、目的を果たしたロック達は次のプレートを探すためにモビス島を立つ準備をしようとしていた。
艦内の大まかな整備を済ませた後、食糧などの物資を買いに行くため船外に出た二人は、そこでチャンジャに出会った。
「にゃ、とっつぁん。わざわざ見送りに来てくれたんか?」
「まあそれもあるが、今日は折り入って頼みてえことがあってな」
「頼み事?まさかまた何かとんでもない事させようってんじゃないでしょうね」
改まった態度のチャンジャを見た二人は訳が分からず不思議そうに顔を見合わせる。
その二人を見ながらコホンと一つ咳払いをするとチャンジャは自分の用件を話し出した。
「実はコーラルの奴が武者修行の旅に出たいって言いだしてな」
「へえ、兄さんが旅にね、それはまた思い切った事しようとしているな。で、それがどうかしたの?」
「旅に出る事を島の連中に知らせたら、奴と仲のいい友達の何人かが一緒についていくって言い出してきやがった」
「随分人気があるのね。まあ、人気があるのはいいことだと思うけど」
「しかしあての無え旅に大人数でぞろぞろ動くってのも都合が悪い。そこでここからが本題なんだけどよ、孫達をおめえらの船に乗せてやっちゃくれねえか?」
「船に乗せてくれって、それはつまりオレらの旅につき合わせろって事ですか?でもオレ達の旅はいつ終わるか分からない旅だけど?」
「いつ帰ってこれるか分からないし、情報も全部持っているわけじゃないから当ての無い旅はこっちも同じになるけど、それでもいいの?」
チャンジャの突然の申し出に、二人はそれぞれ思った事を彼に伝える。
しかしそれらの言葉を全然気にしていないチャンジャは、身体を低く構えながら二人に近づいてきて、彼らの目の前で自分の考えてきた必殺の文句を囁いてきた。
「コーラルが旅に出たいって言いだしたのは、お前さん達と行動して自分の未熟さを知ったから、つまりお前さん達二人が事の発端なんだよ。だからこの位の頼みは聞いてくれよ」
そこまで言うとチャンジャは自分より二回り以上年下の二人に向かって深々と頭を下げる。
腰の低い態度をとりながら随分無茶苦茶な事を言っている老人を見ながら、二人の若者は渋い表情をしながら溜息をついた。
「とっつぁん、とりあえず頭上げてくれないか」
しばらくの沈黙の後、最初にそれを破ったのはロックだった。
二人に頭を下げていたチャンジャはその言葉を聞くとゆっくり姿勢を元に戻した。
「オレは別にかまわないぜ。知らない仲でも無いし、来る者は拒まずだ。本人にその気があるなら面倒みるよ」
「人手不足の貧乏旅だから、旅先でも働いてもらう事になるけど、それでもいいなら預かるぐらいはしてあげるわよ」
「え?お前さん達本当にそれでも構わないんかい」
二人の答えを聞いた時、チャンジャは少し目を丸くしたかと思うと思わず聞き返していた。
「別に断る理由が無いからな。それより自分で言ってきてトンチンカンな事聞いてくるなよ」
「そうよ、直接話に来れば普通に請け合うのに、変な理由付けて断りづらい状況を作ろうとしたんでしょうけど、そんなの逆効果よ」
チャンジャに対するリカルの言葉にロックも頷く。
彼らの懐の深さを知ったチャンジャは、軽く頭の上を掻くと頭を下げて自分の非を認めた。
「確かにおめえらの言うとおりだ、すまんかったな。それで孫の件なんだが……」
「さっきも言いましたけど、アタシらは構いませんから。後はこっちの言うとおりに働いてくれるのと、自分で乗る意思があれば来させてください」
「そうか、済まねえな。そんじゃ早速、おーい、おめえら。許可はもらったぞー」
二人から了解を得たチャンジャは、後ろを振り向くと待っているであろう人物に合図を送る。
少し時間を置いてからその人物、コーラルがこちらに歩いてくるのが見え、その後ろからも人が歩いてくるのが見えた。
一人、二人と歩いてくる人影をロック達は黙って見ていたが、その数も十人を超えると二人の表情も少しこわばった物になってきた。
更に彼らの数が増えるとロック達二人は顔を見合わせて小声でひそひそと話をし始め、そうこうしている内に全員やって来たコーラルとその友達は、ちょっとした一集団並みの人数となっていた。
「あの、とっつぁん?兄さんについて行きたいって人、一体何人いるんだ?」
「大体三十人ぐらいだな。みんな孫の事少なからず気にしている連中ばっかでよ」
「で、この人数をまとめて面倒見ろって訳なの?」
「そう言う事だ。つうわけで約束通り船に乗せてやってくれや。ほれおめえらも挨拶しねえか」
「本当はここまで大きくしたくなかったんだけど、皆引き下がってくれなくて。迷惑かもしれないけど、今後もよろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
チャンジャに促され、当事者であるコーラルが一歩前に歩み出でロック達に挨拶をする。
彼の後ろにいた一団も一糸乱れぬ姿勢で整列を行うと敬礼をしてコーラルに倣って挨拶をしてきた。
「うわーい、礼儀正しく挨拶してきて、これじゃ断りにくいじゃねえか」
「て言うか、もう乗せるって言った後だから今更無かった事にもできないのよねえ」
挨拶をされた方は、またはめられたと言いたげな表情で話を持ちかけてきた老人を睨んだが、当の本人はまるで自分は関係ないと言った感じでその視線を無視してきた。
向こうに何を訴えても無駄だと言う事が分かったロック達は改めて前を向くと、自分達を見ている人達の視線を見ながら覚悟を決めたかのように、「しょうが無いか」と呟いた。