6th ACTION 第三の試練
ガーディアン・パニードとの壮絶な長期戦を繰り広げた小部屋を後にした五人は今、部屋を出てすぐの通路で腰をおろしてそれぞれ休憩を取っていた。
ロックは先程の戦闘で使えなくなった粒子波動刀を分解して一から修理を行い、リカルは少し距離を置いて彼と背中合わせになるとあぐらをかいて座り、手製のフルーツバーをかじりながら進行方向側の通路を見張っていた。
ミリーはリカルの隣で膝を抱える様に座ると、疲れのためか抱えた膝に顔を埋めるとそのまま黙りこくってしまい、ジャナンも通路の壁に背中をもたれさせると腕を胸の前で組み、ボーっとしたまま通路の先を見つめていた。
そして初めに休憩する事を提案してきたコーラルはロックの隣に腰を下ろすと、機械を修理している彼の手をじっと見ていた。
「コーラル兄さん。こっちばっか見てないで少し休んだら?」
「うん。でも、いざ休もうとしたら何だか休めなくて。そういう君は休まなくて平気なの?」
「こう言っちゃ何ですけど鍛えてますし若いから、素人さんな皆とは比べようが無いですよ。それより無理にでも休んでおいたほうがいいですよ。いきなり動けなくなったら大変ですから」
話をしながらも機械を触る手を止めないロック。
休んだ方がいいと言う彼の言葉を聞いて、とりあえずコーラルは仰向けに寝転がると、顔だけロックの方に向けて話を続けてきた。
「そういえば、先程の彼女との件ですけど、よくあっさりと終わらせる事が出来ましたね」
「ああ……。本当はまだ言いたい事があったんスけどね、こんな所で言い争って精神状態を悪くするのは探索の面でもマイナスになりますからね。だから一歩引いてこっちから黙って、そんで気持ちを切り替えて終わらせましたよ」
コーラルの質問に答えるロックは、口調こそは平静を装って淡々と話をしていたが、彼のシッポはちぎれそうなほど激しく左右に振られていて、彼がまだ先程の事で怒っている事を表していた。
「随分と彼女の事を気にかけているんだね。何か特別な人?」
「いやそんな、うわついた話じゃないですよ。ただ彼女、女だてらに無茶しまくって、それがもとで色んなトラブル引き起こしているそうで。だからそんな危なっかしい女、どうしても目が離せない。ただそれだけですよ」
ロックの、リカルに対する印象を聞いてからコーラルは少し目線を動かすと、今度はリカルの方に目を向けた。
フルーツバーを食べ終えた彼女は、視線は変わらず前を向けながら、先程壁に張り付いた時に少し割れてしまった爪をヤスリできれいに研ぎ直していた。
「でもあなたも随分と無謀なことばっかりするわよね、初めの部屋の時でも二番目の部屋の時でも。ロック君だったっけ、あの子随分怒っていたわよ」
隣に座っていたミリーは少しは体力が回復したのか、顔を少しリカルの方に向けると小さな声で話しかけてきた。
リカルはミリーの方に耳を傾けると、顔の向きを変えずに彼女に返事を返した。
「いいのよ、あんな世話になった人の手伝いしないで見ているだけだなんて男らしくない奴。もっと働けっての。アタシがハッパ掛けなきゃ何もしないんだから」
全く駄目な奴よねと呟きながらリカルは肩越しに振り返って、自分の真後ろに座っているロックの後ろ姿を見た。
それに気がついたコーラルはリカルの顔を見ていたが、彼女はそれに気付かずにロックの背中にずっと視線を向けていた。
「ふーん。でも文句ばっかり言っている割には、それが本心みたいには全然聞こえないわね。ずっと見ていたいほど気になるの」
「そりゃ気になるわよ」
「あらあら、ハッキリと言っちゃってまあ、若い子達はホントに色々早いわね」
「べ、別に気になる男の子だからとか、そんな事ばかりじゃないわよ。アイツ冒険に夢持ちすぎて、現実とかキチンと見ていないんだもの。腕と心意気だけで暮らしていけるほど冒険者やハンターは単純な仕事じゃないのに。アタシが見てなきゃあんな冒険バカ、いっぱしの冒険者になる前に立派な行き倒れになるのがオチよ」
そう言うとリカルは一通り研いだツメに目を通して研ぎ残しが無い事を確認してから、手に持っていたヤスリを小物入れに戻すと両手を組んで、大きく背伸びを行った。
「ふふふ、似た者同士ってやつですかね」
二人の、それぞれの話を聞いていたコーラルは、横になったままで二人の顔を交互に見た後に、ゆっくりと呟いた。
「ニャ?まあ確かにネコとライオンですから似てはいますけど」
「うん、そう言う事じゃないけどね、まあいいか。さてそれじゃ、一段落ついた事だし、そろそろ出発しようか」
起き上がってからコーラルが皆に声をかける。
それぞれに休んでいたメンバーも、立ち上がったり身体をほぐすための簡単な運動を行うなど、先に進むための準備を始めた。
コーラルの隣に座っていたロックも、調整をしていた粒子波動刀を組み立て直すと、ベルトのホルスターに入れて片づけをしてから勢いよく立ちあがった。
全員の準備が出来た事を確認してから、コーラルを先頭に遺跡の更に奥を目指して一行は歩き出した。
元々の遺跡の特徴なのか、例によってこの通路もガーディアンがいなかったので一行は難なく先に進む事が出来た。
通路の角になっている部分を曲がると、その先には今までの扉とは違う、少し豪華な装飾のされた扉が道を塞いでいた。
「ふむ。普通と違う扉って事は、遺跡の最深部はここって事でいいのかな?」
「そう、だと思いますよ」
「ハッキリしないなあ。でもまあ試練とかもったいぶった物ってのは、大体受ける人は中の事とかは聞かされないものだから、こんなもんかしら」
そう、一人で文句を言ってから一人で勝手に納得しているリカルを放っておいて、ロックもコーラルに質問をする。
「よく分からないと言う事は、この先の試練の内容も知らない訳ですよね」
「そう。ごめんなさい役に立てなくて」
「いや、オレはそんな事でいちいちケチつけるような事はしませんから、気にしないでください。しかし、初めの試練も次の試練も、やった事はゴリ押しのバトル。せめて最後ぐらいは戦い以外の物で試しを出してもらいたいなあ。流石にちょっと疲れて来たぜ」
この遺跡に入ってからの事を思い出し、ロックを少し疲れ気味に呟く。
その二人の言葉を聞き流しながら、コーラルは扉の隣についている機械に手を触れる。
機械がコーラルの生体情報を読み取りコンピュータにあるデータと一致した事を確認すると扉が小さく震え、次の瞬間その口を大きく開いた。
開いたその入り口に、コーラル達を先頭にして一行は扉の中に入っていった。
部屋の中には様々な道具が透明なケースに収められて陳列されており、さながら展示室のようになっていた。
「あれ、試練の部屋かと思ったけど、ここってオレらの目的地じゃね?」
「本当、どうなってんの。でもまあとりあえず、プレート探してみようか?」
部屋の中に入るとロックとリカルは目的のプレートを探して陳列棚を物色してまわった。早足で部屋の中を駆けていく事数分、突然ロックが大声でリカルを呼んだ。
「あったこれだ。リカルこっち、こっち来てくれ」
ロックに呼ばれたリカルが、彼の立っているケースの前にやってくると、二人でケースの中を確認した。
そこにあったのは、手のひら大で珍しい模様が彫られた長方形の透明なプレートだった。
ロックは自分のジャケットの中に手を入れると、中に入っていたものを手に掴んで取り出す。
その手に握られていたものは彼が大事に持っていたプレートであり、模様に違いはあるがまさしく二人が探していたプレートだった。
目的の物を見つけ出し、二人とも互いの顔を見合わせると満面の笑みで喜んだ。
「探し物、ありましたか?」
二人とは別の所から聞こえてくるコーラルの声に、あったと二人で同時に返事をすると、ロックは続けてコーラルに話しかけた。
「これ、約束通りもらっていってもいいですね?」
「ええどうぞ」
許可を得た二人は早速ケースに手をかけて外そうとする。しかしケースは土台にしっかりとくっついていて、持ち上げる事が出来なかった。
ロックは土台を調べてみたが、土台にはケースを止めておくような仕掛けは施されてはいなかった。
リカルがケースを指で軽く弾いてみると、見た目の作りとは裏腹にとてつもない硬度を持っており、単に力で壊そうとしてもまるで歯が立たない事がわかった。
「ダメだ、上も下もグルッと見てみたけど、どこにも仕掛けらしいものが見つからねえ」
「うーん、これも扉みたいに特定の人にしか開ける事が出来ないのかしら」
「いちいち全部にそんな仕掛けしてられないと思うけど、コーラルさんに頼んで試してみっか」
どうしてもケースを開ける事が出来ない二人は、ケースを見て回っているコーラルを呼ぶとケースを開けてもらえるように頼んだ。
しかし彼がケースに手をかけても何の反応も示さず、持ち上げようと力を入れてもケースはびくともしなかった。
「あらら、コーラルさんでも開けれませんか。これじゃ完全にお手上げね、どうしよう?」
「うん。ところで兄さんが探しに来たものはここにあるの」
「それがどこを探しても無いんだ。ここには無いのかな?」
「若、どうやらそのようらしいですよ」
悩むように話し合っていたロック達の会話に割って入るようにジャナンがコーラルに声をかけてきたので、三人は彼の方に身体を向けた。
「ジャナン、ミリー、何か分かりましたか」
「入り口と反対側の方に別の扉がありました。まだ奥があるようです」
「扉には何か言葉が刻まれていて封印もかかっています。言葉の内容までは読めないのですが……」
彼らの言葉を聞いたコーラル達は、陳列品の間を通って見つけられた扉にたどり着いた。
一見すると壁と見間違えるほど簡素なつくりの扉には、封印を表す紋章が押されており、その紋章の下には古代文字による文章が書かれていた。
三人は扉の前に立つとその扉を調べ始めた。
「確かにこれは封印を意味するマークね。この言葉は何の言葉だっけ?」
「これは古代のトラメイ語だな。海に住んでいた人達の公用語に使われていた言葉だ。えっとなになに?資格を」
「『資格を求めし選ばれし者、閉ざされし扉を目覚めさせ、最後の試練に望め』」
「あら、コーラルさん読めたの」
「この古文、読み方とか家で教わってきたから。まさかこんな所で使うものとは思わなかったけど」
「自分達のご先祖が使っていた言葉ですから、残していたのでしょうね。それより扉、早くあけましょう」
ロックに促されて、コーラルは封印の紋章に手を乗せると、小さく言葉を呟いた。
言葉を注がれた紋章は、淡く輝き次の瞬間強く光り出し、その光が消えると目の前の扉はその姿を一行の前から消していた。
コーラルを先頭に封印の解かれた部屋の中に入ると、消えていた扉が現れ来た道を塞いでしまう。それに身構える一行に、どこからか重い声が聞こえてきた。
『ここは、この施設の機能制御を行うユーザーを登録する部屋。登録を求めるものはどこに?』
「私です。私に、守護者としての資格を」
部屋に響く声に、コーラルは一歩前に出て答える。
部屋に響くコーラルの声を残して部屋に静寂が訪れたが、それもすぐに新しい声の響きによってかき消されていった。
『照合完了。ユーザー登録を行う資格を持つものと確認。それでは規約にのっとり実戦テストを行う』
「実戦!何故そのような事をしなくてはならないのですか?」
『この施設はその重要性から自己の身を守れる者にしか登録を認めていない。これを止める事が出来た時に登録を行う』
声が消えると同時に部屋全体に振動が走り、壁の一部が大きく開き始める。
壁が開ききると、中から一体のガーディアンが現れた。
そのガーディアンは、十メートルを少し超えた巨大なカニの姿をモチーフにしたもので、背中に担いでいる二門の大きな大砲と脚の代わりにつけられたキャタピラが、まるで戦車をイメージさせる。
「すごいのが出てきたわね。ちょっとしたパペット並みの大きさじゃない」
「全く冗談じゃねえよこの大きさは。こんなのと戦えってちょっときついぜ」
ロック達五人は、戦車の様なガーディアンを見上げると思い思いに感想を呟いた。
ハサミ状の腕をガシャガシャと動かしながら、頭の上に飛び出た緑色の両目でこちらを見ていたガーディアンの目の色が深紅に変わったかと思うと、キャタピラを高速回転させ、ロック達に向かって突撃してきた。
「来たよみんな!」
「ニャンだよ結局バトるんかい。も少しゲストの都合も考えてほしいもんだぜ。とりあえずこれで」
巨体を揺らして突進してくるカニ型ガーディアンを、左右に飛んで避ける一行。
その時ロックは飛びざまに粒子波動刀の発振機を掴むとキャタピラにギリギリの所に着地、刀身を閃かせるとすれ違いざまにキャタピラを斬り裂いた。
片側のキャタピラを壊されたカニは体のバランスを崩してスピンしそうになったが、間一髪のところで体勢を立て直すと、残ったキャタピラを上手く使って体の向きを変えようとしていた。
しかしロックの攻撃もそれで終わりではなかった。
キャタピラを斬ったロックは踏み切り足を軸にカニの方に身体の向きを変えると、刀を構えながらカニに向かって走り込んでいった。
そして彼が身体の向きを変えた時、残っていたキャタピラの脇を走り抜けたロックは勢いをつけて小さく跳ねると、全身を使って刀を振り、反対側のキャタピラも先程と同じように横一文字に切り裂き、一旦カニと距離を取るためそのまま走っていった。
「よっし、ガーディアンも足が無くなりゃただのカニってね。コーラル兄さん、後任せます!」
「うん、分かった。さあ、倒させてもらう、よ?」
ロックのアシストを受け、カニに攻撃を仕掛けようとした時、コーラルはカニが何かをしているのに気がついた。突き出た目を小刻みに震わせると目の間から泡を吹き出し、それを空中に飛ばし始めた。
頭上に浮かぶ泡を見つめているコーラル達。ロックもみんなから離れた場所でその光景を見ていた。
泡の数が空中に増えるごとに、ロックはシッポが落ち着かなくなってきている事に気付き、嫌な予感を感じていた。
間近で泡を見ようとロックが少し近づいた時、ロックの近くに流れてきていた泡が弾けた。
弾けた泡の飛沫が地面に着くと、それはジュウジュウという音と薄い煙を上げながら何かが焦げるようなニオイを出しながら蒸発していった。
それを見たロックは驚いた顔のまますばやく後ろに下がると、上を見て泡の位置を確認してから、泡の発生源であるカニから離れていった。走りながらリカルやコーラルのいた方を見ると、彼らも異変を感じてカニから離れていく所が見えた。
充分に離れてからロックはカニの方を振り向くと、カニが吐き出した泡が次々と割れていく所が目に入ってきた。
割れた泡の滴が地面に降り注ぐと、部屋中に焼けつくような音と焦げたニオイが充満し、立ち上る煙でカニの姿がかすんでしまった。
「まさか酸を使ってくるとはな。リカル、兄さん達は無事か?」
「アタシの心配はなしかよ。とりあえず全員無事よ、あのカニはどうだかわからないけど」
「まあ、酸性度は高くないみたいですからあのガーディアンには耐えられるのでしょうけど。しかしあぶなかったですね、もう少し気付くのが遅れていたらどうなっていたか」
「何はともあれ助かった……、若、煙が晴れてきました。……ん?なんだありゃ」
立ち上る煙が晴れてきた時ジャナンが見た物は、煙の中で何かがうごめいている姿だった。
煙が完全に消えた時一行の目の前にいたのは、カニガーディアンそっくりの小型のカニ型ガーディアンが地面いっぱいにひしめいていた。
大型のカニには小型のガーディアンを産み出す能力がついていたらしく、酸の雨を降らせてロック達を自分達から遠ざけた隙にたくさんの小型ガーディアンを作り出していた。
小型のカニが緑色の目を光らせながらガシャガシャと動いていたが、不意に目の色を赤く光らせたかと思うと一斉にコーラル達の方を見て、早足で襲いかかってきた。
コーラルの前に立つジャナンとミリー、その前にリカルが立つと彼女は拳闘のスタイルで構えた。
しかし、小型のカニがリカルに飛びかかろうとした時、横から飛んできた別の子ガニがリカルに向かってきていたカニにぶつかり吹き飛ばしていった。
いきなり飛んできたカニを見て驚いたコーラルがカニの飛んできた方向を見ると、Sボードに乗ったロックが横から子ガニを蹴散らしながらその群れの中に飛び込んでいく姿が見えた。
コーラル達とは別の位置でカニを見ていたロックは、カニが煙の中で何かをしているのを見たため、空中の泡が全て無くなって地面に降り注いだのを確認してからSボードに乗ってカニに急接近した。
そしてカニが、小型の分身を産み出していた事を知ると、粒子刀の発振機を両手で持ちそれを思いきり引き延ばした。
すると片手で収まる長さだった発振機は倍以上の長さになった。
それを両手で持つと、ロックは発振機のスイッチを押して粒子刀を起動させた。
現れた刀身は二本の剣をそれぞれの柄で固定させた様な、前と後ろにそれぞれ刀身がついた形となった。
これがロックの粒子波動刀一番の特徴である双剣一刃型で、スピードを生かして斬り込んでいくロックの戦闘スタイルを最大限に生かせる刀だった。
子ガニ達の真横から突っ込むと、ロックは粒子刀でカニ達を次々と斬り伏せていく。
カニを相手にしながら仲間達の方を見ると何匹かの集団がそちらの方に向かっていたので、彼は手近にいた子ガニを一匹掴み取ると、ボードを使って数回その場で回転してから集団めがけて投げつけ、そのまますぐにボードから降りると足を使って器用に拾い上げ、背中のケースカバーにボードを戻すと更に子ガニの群れの中に飛び込んでいった。
ロックの投げつけた子ガニがコーラル達を狙っていた子ガニの集団を吹き飛ばしていったが、それでも何匹かは巻き込まれる事も無く襲いかかってきた。
しかし前衛に立っていたリカルは元から目の前の急な事態に動じてはいなかったので、彼女は上から下からやってくる子ガニ達を拳や脚で一匹ずつ確実に倒していった。リカルが子ガニの集団を押さえている間に、コーラル達はその間をぬけてロックが入り込んでいるカニの群れの中に入っていった。
一方群れの中に飛び込んだ事で子ガニ達の目を自分に向ける事に成功したロックは、八方全てをカニに囲まれた状態で戦っていた。
粒子刀をふるっては目の前のカニを一刀両断にしていき、腰の後ろに粒子刀を持ち大きく回転しては周囲のカニを巻き込みながら攻撃、更に後ろから襲いかかってきたカニには後ろ側の刀身を突き刺して撃破する等、一人で多数を相手にしているにも関わらず冷静な対応で戦っており、その力の片鱗を表していた。
「ロック!」
自分に掛けられた声を聞いて、とがったネコ耳をピクリと動かすと、ロックは周りの子ガニを片づけてから身体をひねって声のした方向に振り向いた。
その方向からはコーラル達が子ガニを乗り越えながらこちらに向かってくるのが見えた。
自分と彼らの間にたむろしているカニ達を斬り伏せると、ロックはコーラル達と合流した。
「ロック、大丈夫ですか?」
「一匹自体は大したことないしこの位なら何とでも出来る。子ガニはこっちで食い止めておきますから、兄さん達は大ガニを早く倒して」
そう言うとロックは粒子刀を身体の後ろで真横に構える。
そのまま全身を使って大きく横に振りかぶると片方の刀身のエネルギーを大ガニめがけて解き放った。
飛んでいった刀身は子ガニを粉々に吹き飛ばしていくと一本の細い道を作り出した。
「早く」と促すロックの声に頷くと、コーラル達はロックが作り出した道を走って大ガニのもとへと進んでいった。
コーラル達を送り出したロックは、失った粒子刀の刀身をもう一度生み出し右手に構え、左腕に装備しているAPRの安全装置を外すとコーラル達が走っていった方向に銃口を向ける。
そして自分を襲ってくる子ガニ達を粒子刀で追い払いながら、コーラル達三人に飛びかかろうとしている子ガニをAPRで一匹ずつ正確に倒していった。
背後から数匹のカニがロックめがけてやってきた。
すぐに振り向いたロックが粒子刀を振るおうとしたその時、横から飛んできた水晶のつぶてがカニに突き刺さった。突然横からの攻撃を受けたカニはなす術もなくその機能を停止させると、そのまま地面に落下していった。
水晶の飛んできた方向から、カニの頭を踏みつけながらリカルがやってくると、彼女はそのままロックと合流した。
「ハーイロック、元気?」
「元気って、どう見えるよ?」
「楽しそうに見える」
リカルにそう言われると、ロックは否定をする事無く不敵な笑みを彼女に向けると、カニ達に向かって構え直した。
「所でどうしてロックがこっちにいるの?」
「どうしてって、誰かがチビガニを引きつけておかないと、デカイのと戦っている時に挟み撃ちにされるだろ」
リカルの質問に対してロックは簡単に答える。
しかし彼女はその答えに対して更に質問を続けてくる。
「そうじゃなくて、ロックがあの人についていけばよかったでしょ」
「それはダメ。コーラルさんの試練だから、締めの部分はきっちりとあの人にやってもらう」
「またそれ?無理して出来ない事をさせて、大けがなんかさせたりしたらどうするの。もう少し手伝ってあげてもいいじゃない」
飛びかかってきたり足元を走ってくる子ガニ達を、魔道銃と空弾銃の二丁拳銃で倒しながら、リカルは背後のロックに意見をするが、彼は一言大丈夫とだけ言うと粒子刀で子ガニを更に斬っていった。
「なんだかんだでここ一番には何とかしてくれる人だからね。絶対クリアしてくれるさ」