2nd ACTION『聞きしに勝るほどのヘタレだな!』
家の外に出てきたロック達が目にしたのは、島民たちが次々と島の南側にある大きな港に向かっている光景だった。
海から帰って来た人々を迎えに行く行列だと二人はチャンジャから説明を受け、その人の流れに後ろからついていって二人も港に向かって歩いた。
人込みが苦手な、ネコ科の二人の習性のせいである。
港は水没している建物の中でひときわ大きい物の周囲に防波堤や接舷施設を備え付け、周りの橋より頑丈な作りの橋で本島とつないでいる。
漁業や海上交易を主な生活の基盤にしている以上、港湾施設の充実は当然のことであり、本島にある居住区と比較しても力の入れようは明らかだった。
その港に停泊している船を、ロック達は橋の中ほどから遠巻きに眺めていた。
人込みに入りたくないというのもあるが、二人が港に着いた時には足の踏み場も無い位に人で埋め尽くされていたため入るに入れなかったからだ。
次々と船から降りてくる人達を見ながら、ロックは目的の人物であるコーラルの姿を探す。
リカルは探す相手の顔を知らないためロックの横で座り込んで、コーラルを探すロックの横顔を見上げる様に見つめていた。
ややあってから見つけたとロックが声を上げ、隣で座っていたリカルに立ちあがるように促した。
「何人かいるけど、一体どの人」
「今階段で下に降りようとしている人、分かる?」
そう言われてリカルが目を向けた先には、オールバックにサングラスの船乗りに見えない格好をした年配の男性と、その一歩後ろについて歩いてくる優男風の青年が、階段から地面に降りようとしていた。
「サングラス掛けている人があの船の船長で、チャンジャさんの子供でコーラルさんの父親。その後ろにいる人がコ-ラルさんだ」
「ふーん、あの人がコーラルさん。美形で身体の線が細くて、まあ確かに女ならだれでも惚れそうないい男ね」
「……そんなもんか。とにかく会いに行こうぜ。ところでリカル、コーラルさんの事どう思う」
「一般的には悪くない方だけど、アタシの好みじゃないわね。でもなんでそんなこと聞くの」
ロックの問いに答えたリカルはそのままロックに質問を返す。
しかし彼はその質問に答える事無く前に歩き出す。
妙な違和感を感じたリカルが、不機嫌そうにシッポを振っているロックとコーラルを見比べた後、不意にリカルは大声でロックに声をかけた。
「ひょっとしてやきもち?やきもちか!?妬いてくれてるんだ!」
突然のリカルの声にロックは足を止めて顔だけ振り返ると、一瞬リカルをジト目で睨んだ後プイと顔を背けて再び歩き出す。
それを見てリカルはパタパタと小走りで彼に近づくと、そのまま後ろから彼の背中に飛びついた。
「うわにゃ!ニャンだよいきなり」
「へっへー、ロックのくせにカワイイ事してくれるじゃない。そんな所も好きだぞ」
「いいから離れろよ、苦しいし恥ずかしいし!ああもうそんなにくっつくな!」
「うはは、そんな事で素直に言う事を聞くアタシじゃないわよ!」
「おめぇら顔も出さずにどこ行ったかと思ったら、昼間っから往来でいちゃついてんじゃねえよ」
のどをゴロゴロ鳴らしながら抱きついてきているリカルを背中からほどこうとロックは必死になるが、しっかりとしがみついている彼女は全く動かない。
そうやってもがいている所に、チャンジャが船から降りてきたコーラル達を連れて、橋の上に立っていたロック達の所までやってきていた。
「……したくてしていた訳では無いですからね」
バツが悪い事を自覚したロックがとりあえずそれだけ言うと、言い訳にしか聞こえなかったのか全員が生温かい目でロック達の事を見ていた。
慌ててほかの事を言おうとしたが、その場の空気に押されてあきらめたロックは、彼らの後についてチャンジャの家に向かっていった。
「申し訳ないですが、お断りさせていただけませんか」
チャンジャの家でリカルは、先程チャンジャにした話と、その時彼から提案された事をコーラルに話したが、彼はその事を拒否してきた。
なぜかと理由を聞いてきたリカルにコーラルはゆっくりと答え出したが、それは話を持ちかけた二人よりも周りの人々の方を驚かせた。
「元々私にはこの島の長になるつもりがない。それに今まで何度か遺跡に挑戦してきましたけど、私にはあの遺跡は攻略出来そうにない。私はもう、遺跡に入るつもりはありませんから」
「入るつもりはないと言って、お前も次の長候補の一人。試練を受けなくてどうする!」
「島の長や守護者なら他の親戚たちがなればいいでしょ、私よりもふさわしい人はたくさんいるんだし。大体父さんが爺さんの長男だからって、私がその跡を継ぐ道理はないでしょ」
「コーラル兄さん頼むよ。いやなら扉を開けてくれるだけでいいからさ」
「君達が欲しがっているプレートまで私がたどり着けない。だから私は……」
「あーっ!もういい!もういいわよ!!」
ロック達の願いを断るコーラルと、渋るコーラルを説得しようとする人達の言い争いを止めたのは、リカルの怒鳴り声だった。
その場の一同はその声で話をやめると、そのままリカルに視線を集めた。
「話に聞いていたほどまでの事は無いだろうと思っていたけど、聞きしに勝るほどのヘタレだな!そんなに嫌ならこっちだってもう頼まないわ。アタシ達はアタシ達で扉を開ける方法を考えますから、失礼します!!」
「リカル、ちょっと待てよ!すいません失礼します」
リカルとロックがその場から出ていくと、部屋に残っている人達はみなコーラルに目を向けた。
「コーラルよぅ、年下の嬢ちゃんにあそこまで言われて、それでもまだ行かないなんてしょぼい事言う気か」
「コーラル、俺はお前をそんな風に育てたつもりは無いんだがな」
自分の父親と祖父の言葉を、コーラルはうつむいたまま聞いていた。
「大体昔からの知り合いがああやって頭下げてお前に頼みに来たのに、それを断るなんて冷たいやつだね」
チャンジャの言及を聞いた時、それまでうつむいていたコーラルはゆっくりと顔を上げてチャンジャの顔を見た。
一方ロックは先に出て行ったリカルを追いかけて外に出て、ほどなく炉端焼きの屋台で魚の串焼きを食べている彼女を見つけた。
「ホント、ロックの言う通りだったわね。アタシもう少しであの人とのことグーで殴っているところだったわ」
「よく我慢してくれたと思うよ。でもリカル、お前また勢いで物言ったな?あの人たちの協力も無しにどうやって遺跡の中に入るんだ?」
彼女の隣に座って店員に注文をしたロックは、腕組みをしながら横目でリカルの方を見る。
リカルは食べ終えた魚の串を皿に戻し焼き貝の串を手にして一口ほおばると、予想していた事だといった感じでロックの方を見た。
「別に考えなしに言ったわけじゃないわよ。年に一度だけしか開かない扉って事はタイマーで開閉してるんだろうし、特定の人間しか開けれない扉なら何らかの認証システムを使ってるわけでしょ。だったら扉のキーをハッキングして開けちゃえばイッパツよ」
「一発ってお前。いくら何でも人様が管理している土地の物を勝手に壊すような真似しちゃダメだろ」
「人から協力取れないんだったら、せめてその位の許可は取れるでしょ。それとも何かいい手があるの?」
焼き貝を全て食べその串を皿に戻したリカルは、自分の考えに否定的なロックに代わりの意見を求めた。
代案を振られたロックは小さく唸りながら、やって来た小魚の姿フライを片手で鷲掴みにして食べだした。
何個目かの魚を口の中に放り込んでから、ロックはとりあえず口を開いた。
「開くまで待つわけにもいかないし、いっそコーラル兄さんを連れてくかなあ、無理やり。とっつぁん達は多分何も言わないだろうから」
「うーん。他に手が無いなら、いっそそれで行く?」
「拉致まがいだけど。ま、これ以上考えるのも面倒だし、首根っこ引っ掴んででも連れてくか」
最後の魚を食べ終えてから、ロックはポーチの中からを屋外作業用のワイヤーロープ束ねたケースを取り出す。
これで彼を縛り取ろうとロックは考え、リカルもそれに同意、そうして二人はコーラルを捕まえに行こうと席を立つ。
しかし歩き出そうとした二人は、突然目の前に現れた人影に道を遮られた。
「あれ、コーラル兄さんととっつぁん。見送りにでも来たの」
「何にしても好都合ね。ロックそっち持って、すいません、ちょっと動かないで下さいね」
「おうロック喜べ。孫がおめえらについてくってよ。て、なーにやってんだ?」
「にゃ?本当ですか兄さん」
チャンジャの言葉にロックは思わずコーラルの眼前まで顔を寄せて尋ねる。彼は近すぎるロックから顔を背けると、そのままいくつか頷きながらロックの質問に答えていった。
「う、うん。どこまでやれるかは分からないけど、とにかくもう一度行ってみようと思って。所で二人で何をしているの」
「あなたの身柄を押さえるために縛らせてもらってます」
チャンジャとコーラルの疑問に答えながらコーラルの両手首を縛っていくリカル。
ロックもコーラルの身体にロープを巻きつけていたが、本人についてくる意思があると分かると、巻いていたロープを離してすぐに彼の呪縛を解いていった。
「私ってそんなに頼りにならないのですかね」
「まあ、いい大人が駄々こねてりゃ信用も無くなるわな」
縛られていたコーラルが悲しそうにポツリと一言こぼしたのは、細めのワイヤーロープと格闘しながら、なんでこんなに強く縛った、なんで変な巻き方したのかと言い争っているロックとリカルが何とかそれを解いていっている最中のことだった。