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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第二話  DIVING TO THE ADVENTURE
12/123

1st ACTION 海の守護者(モビス島)

 モルコース星系の有人惑星は、それぞれ正式の名前のほかに、冒険者達が好んで使う俗称が存在する。


 『地面の一欠けら(ワンピースグラウンド)』や『一つの大陸の星』などと呼ばれる惑星トラメイは、大昔に発生した異常気象のために海の海抜が上昇し、今現在残っている陸地は惑星表面積の二割程度の、一つの大陸だけとなっている。

 その一方で、残りの八割に当たる海洋部分には、海抜上昇の影響で出来た、

 もとは陸地だった小さな島や陸地に建設されていた先史文明時代の超高層建造物の中で使える部分を利用した、文字どおりの人口の大地しかなく、猫の額ほどの陸地を活かしてこの惑星の海で生活をしている種族も存在する。

 今この海の上を一隻の宇宙船が飛んでいる。

 数日前、大陸の海沿いにある村から飛び立ったこの船には、旅の途中その村に立ち寄った獅子族のハンターの少女リカルと、その少女についてきて村から出てきたネコ族の冒険者の少年ロックの二人が乗っている。

 リカルはロックの村に伝わっていた宝を譲ってもらおうと村を訪ねたが、宝を持っていた彼に見定めと称して勝負を持ちかけられた。

 結果的に勝負はつかなかったが、代わりにロックは自分も一緒に旅に連れて行ってほしいと彼女に頼んだ。そうして冒険に憧れていて、かつて冒険者だったが家の都合でその夢をあきらめていた少年は、ついに念願の冒険者として彼女の旅に同行し始めた。

 その二人は今、次の目的地に向かうため船を進めながら、船内の食堂で朝食をとっていた。

 軽く焼いてからバターを少し塗ったトーストに、細かく刻んだハムを混ぜたスクランブルエッグ。

 そしてレタスとキュウリと豆を、お手製のドレッシングで和えたサラダ。

 ロックはこれらの料理を味わいながらも、手早く口に運びみるみるうちに食べていき、向かいに座っているリカルはロックの食べっぷりを見ながら、食後のコーヒーを飲んでいた。

 やがて食事を食べ終わったロックは、食器をまとめると席を立ち洗い場の食器洗い機の中に入れ、再び席に戻ってきた。


「ごちそうさま、美味しかったよ」

「ありがとう。そう言ってもらえるとアタシも久しぶりに腕をふるった甲斐があったわね」


 そう言うとリカルはポットの中に入っているコーヒーをカップに注ぐと、ロックに差し出しながら話を続けた。


「一人のときって自分の分だけしか作らないから時々面倒になってさ、なんか手抜き料理になっちゃうのよね。だから作ったものを美味しそうに食べてくれると、ホント気持ちがいいわね」


 はにかみながら話すリカルに、ロックはそう言ったものなのかと尋ねる。


 その言葉に、どんなに出来が良くても一人で食べる食事は楽しみが少ないし、自分の分しか作らない分栄養面などもいちいち考えて作るのも大変なので、結果簡単な料理で済ますことになるとリカルはロックに説明した。


「なるほどな、オレはいつも家族の分を作っていたから、そういう自分の分だけって料理はしたこと無かったな。でもコーヒーの淹れ方は随分上手いんじゃないか」

「アタシの師匠がコーヒー党でね。だからいい豆の選び方や淹れ方とか、料理よりみっちり教えてきたから」

「そういう所にこだわる人って結構いるよな。……この濃い味もその人譲りか」

「そうそう、とにかく濃くて苦い味が好きだって言うから。アタシも師匠に淹れてもらった分一緒に飲んでいたから味に慣れちゃったしね。……って、口に合わなかった?」


 置かれたロックのカップの中には半分ほど中身が残っていたためリカルが尋ねると、ロックは少し申し訳無さそうな顔で答えながらテーブルの上に置いてあるミルクのボトルに手を伸ばす。


「実は苦いものがちょっと苦手で。味はいいんだけど、濃すぎるからどうもな」


 そう言いながらロックはカップの中のコーヒーに、手に持っているミルクを注ぐとスプーンで中身を混ぜてから飲みだした。

 そうして食後のコーヒーを飲み終えてから、ロックは今後のことをリカルに尋ねてみた。


「とりあえずは船の運用に必要な人手の確保かしら。どこかの町で船員か冒険者を雇うか、それか各部署に自立型のプログラムを組んで完全な無人管理にするかでもするか」

「うーん、オレ達の旅の目的ってリカルがたてた物だろ。ついて来る奴なんてオレみたいな特に目的を持たない奴以外いないんじゃない?第一雇う金なんかないだろ?」

「じゃプログラム組んでコンピュータ任せにする?お金のほかに作る時間もかかるけど」

「素姓の分からない人間雇うよりは安全だからその方がいいだろうけど」


 そこで言葉を区切ったロックは、空のカップをテーブルに置くとぐるりと食堂の中を見渡した。


「でかい船の中にオレ達二人だけってのは、何かさびしいな」


 元々ネコ族は騒がしいのは好みではないが、若いロックは賑やかさというか、ある種の活気がないのがどうにも物足りない感じがしていたため落ち着かなかった。

 そんなロックを見ながら自分のカップとロックのカップ、その他出ていたコーヒーセット一式を片づけているリカルは、とりあえずトラメイ(この星)から離れるまでに決める事にしようと言ってまとめると、支度をするために自分の部屋に戻って行った。

 今日は次の目的地である、トラメイの海の守護者が住む島に到着する。

 ロックも席から立つと、準備のために食堂を後にした。




 その後外に出る準備を終えた二人は、出入り口のハッチ前で合流した。

 ロックはフリーサイズの灰色のシャツにいたる所に金属片や固めに加工した動物の皮をはりつけたジーンズ、シャツの上からは金属繊維で編んである黒いハーフジャケットを羽織り、腰の辺りには頑丈なベルトのポーチを巻いている。このポーチのベルトは色々な物が引っ掛けられるようになっており、彼が冒険で使うものがひとまとめになっている。

 リカルの方も似たような感じで、暗赤色の金属繊維製のインナータイプのアーマーウェアとアーマースパッツ、その上に胸部までしか丈の無い空色のアーマージャケットとそろいのホットパンツを着て右手には防御用のアームガード、腰に巻いてあるホルダーには空気の弾を撃ち出す銃が入っており、後ろ側には戦闘用のナイフがふた振り入っている、どちらも身のこなしと機動力を重視した軽装備である。

 二人はハッチの前で外を見ていると、やがて目的地の島が見えてきた。

 大きめの島とその周りに浮かんでいる二つの小さな島、その小さな島よりたくさんある太古の建造物の屋上部分、それらを橋でつなげて一つのコロニー状にしている島々。

 そこがトラメイの海を代々守って来た守護者の住む島、モビス島である。


「そう言えば」


 ハッチのタラップ前でロックと並んで立っていたリカルは、思い出したかのようにロックに問いかけてくる。


「海の守護者さんってどんな人」

「にゃ、シャチ族の人でな、あの種族は血の気の多い人が多いんだけど、その人はまあ一言でいえば豪快な人だな。何かにつけてスケールがでかくて冗談が好きで、人情味もあって話もわかる人だけど、時々変な事考え付いてはイタズラと言って人を実験台にするんだよな」

「……ひょっとして、あまりいい思い出無いの」


 話をするうちにその表情がどんどん困った風になっていくロックを見て、思わずリカルは話の流れを切ると、彼はそのままの顔で彼女の方を向くと頭と耳をガシガシと掻いてから一言だけ話した。


「会えば分かるよ」


 話をしているうちに船は海に着水した。

 外周の小島近くに船を停めた二人は、村を出てから数日ぶりに地面に足を着けた。


「ここがその島?なんだか随分とさびしいところね、人がいるのかしら」

「……静かすぎる、どうしたんだ?」


 島に降りた二人の、ほぼ同じような感想。

 確かに島なので喧騒とは無縁の静かで落ち着いた所ではあるが、それでも自分の村より人口が多いこの島はかなりの活気があることを、何度か訪れているロックは知っている。

 リカルも人の気配がまるで感じられない事を不審に思っている。

 音を拾おうとして落ち着きなく耳を動かしながら、島の異変の原因を考えようとしたロック。

 だがそれより先にリカルが歩き出した。

 慌てて引き止めようとしたロックだが、この場にいても何も分からないと考えを改めると彼女について歩き出した。

 そのまま島にかかっている橋を渡って本島に着いた時、辺りから突然殺気に似た、狂気的な感覚がわき出したのを二人は感じた。

 明らかに雰囲気の変わった空気に、耳とシッポを立てて警戒する二人。

 その時カチャリと普通の人間には聞き取れないほどの小さな音を二人は耳に捉えた。次の瞬間別々の方向に二人がその場から飛び退くと同時に、彼らが立っていた地面に無数の銃弾が降って来た。


「ちょっとロック、どうなってるのよこれ!全然歓迎されてないじゃない!」

「いや、ひょっとしたら海賊や空賊と間違えられてるのかな?」

 銃撃が終わったところで、ロックは隠れていた木の陰から少し顔を覗かせる。すると今度はロックの隠れている木に向かって弾が撃ち込まれ、そのまま広い範囲に銃弾が浴びせられてきた。


「あはは、駄目だねこりゃ」

「笑い事じゃないでしょ!向こうの人たちと連絡とれないの!?」

「んん、……駄目だ、通信が繋がらない」


 ロックは頭にかぶっているインカムの周波数を変えて彼らと通信を試みるが繋がらない。

 どうすんのよと大声を張り上げるリカルをよそに、ロックは腰のポーチから小さな鏡を取り出すと木越しにそれをかざして向こう側を覗く。

 リカルもロックにならって鏡を取り出すと、同じように向こう側を確認する。やがて鏡を見ていたロックがそれをしまうと、周りの銃声に負けないようリカルに向かって声を張り上げた。


「連中の、銃が置いてある所、分かるか!?」

「左右の高台、それぞれ大型の機銃ね!どうするの!?」

「とにかく潰して、それから一番大きな家が正面にあるだろ!あそこに目的の人がいるはずだから、とにかくそこまでいくぞ!」


 身振りを交えてリカルと打ち合わせを済ませると、ロックは背中に背負っていたボードを取り出すと片足を乗せてエンジンを起動させる。

 リカルも腰から引き伸ばし型の、箒の様なスティックを取り出すと、片手に持ってエンジンを起動させる。

 二人が出した物はRSライディングスマートと呼ばれるもので、Lost以前の文明に作られた粒子力学を応用した乗り物である。

 空間中の粒子を取り込み圧縮、反応させることで空間を高速で走行することが出来る。

 起動させたエンジンが空間の粒子をエネルギーとしてため込み始める。

 二人はいつでも飛びだせるように構え、それぞれ様子をうかがっている。

 少し経つと相手が弾切れを起こして銃撃の勢いが一瞬弱まる。

 その瞬間、二人は弾ける様に壁から飛び出すと、ロックは左腕に付けているAPR砲で、リカルはスティックと反対の手に握っている空弾銃で、お互いの対角線上にいる敵二人の機銃を打ち抜き、すぐにRSに飛び乗って一気に前に駆けだした。

 前進している最中、不思議とほかの攻撃が二人に対して向かってこなかったが、こちらが前に進んだところを見計らって一気に取り囲む作戦も考えられたので、急いで勝負をつけようとしたリカルはロックに援護してと短く伝えると一人で先に走って行った。


「な、ちょっと待てって」


 慌ててリカルを追いかけようとするロックだが、ロックのボードよりもリカルのスティックの方が速度では優っている。

 そのためロックは必死にリカルを追いかけるが、十秒ほどで彼女は小屋の窓から室内に飛び込んで行った。

 それから少し遅れて小屋に入ったロックの眼の前では、リカルが初老の男性の首根っこをつかみ、さらにその周りを数人の男たちに囲まれている光景が広がっていた。

 床に目をやると数人の人物が倒れていたので、リカルが飛び込んだ時に一緒に倒したことは容易に想像できた。

 リカルに捕まっている男性は物音ひとつ出すことが出来ずにおり、取り囲んでいる男たちもリカルの力を見たためか一歩も動けずに睨みあいを続けている

 その状況を見ていたロックは額に手の平を当てて小さな溜息を一つ吐き出すと、おもむろに数回、両手を叩いた。

 ぱにょ、ぱにょと手のひらの肉球同士が発する肉質のある軽快な音が部屋中に響き、二人を含めた部屋の人間の視線を自分の方に向けさせた。


「はい、もういいだろ。みんな構えを解いてリラックスして」

「ロック!ちょうどいい、どいつが守護者か知ってるんでしょ!ここにいるの!?」


 今まで戦っていたためか鋭い目つきのまま睨む様にロックに視線を移すリカル。

 彼女の表情にロックは少したじろぐが、彼女がつかんでいる人物に目を移すと静かにその人を指さした。


「お前が首根っこ引っ掴んでいる人が、海の守護者でこの村の長のチャンジャさんだ」


 あきれ顔でロックがリカルに守護者を紹介してから数秒後、ようやく理解したリカルは慌てて服をつかんでいた手を離すと、チャンジャは勢いよく床に叩きつけられた。

 慌てて介抱をする周りの村人達とリカル、それを見て思わず目頭を押さえるロック。

 外には今まで隠れていた村人たちがちらほらと現れ始め、太陽も高いところまでのぼっていた。


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