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F/A フリーダム/アドベンチャー  作者: 流都
第四話 頂点者達
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エピローグ 旅立つと決めたから(送る言葉)

 ブリッジからの緊急連絡を受けて、リカルは早足で部屋からブリッジへと向かう。ついてくるように言われたアリシアも駆け足気味にリカルの後ろをついていく。それでも船長室からブリッジまでは近い距離にあるため、二人は一分とかからずにブリッジの扉をくぐって中に入っていた。


 リカルが扉をくぐってまず目にしたのは、自分の席の正面に設置されているモニターの光子ディスプレイに映し出されているフォロウの姿と、自分の隣の席に座って彼への応対を行っているロックの姿だった。

 声をかけながらリカルがブリッジに入るとすぐに自分の居場所である船長席に着く。その彼女の後ろに立つように、アリシアもやってきた。


「ハーイ、昨日ぶりねフォロウ。わざわざ通信してきたという事は、あまりいい話じゃないわよね。町長が追手でも差し向けてきたのかな?」


 挨拶もそこそこにリカルが話を切りだすと、フォロウも挨拶を省いて首を縦に振るようなしぐさをして見せる。町長からの横槍が入ることを恐れていたアリシアは、二人のこのやり取りを見ていると一抹の不安を感じてしまうのだった。


「自警団から追手を差し向けようとしています。しかし昨日の件が他の団員達の知る所となったので、町長の要請を断る団員の数が多くなり、そちらに向かうのは大した人数ではないようです」

「まあそうなるわよね。それでなくともこれは町長とアリシアとの問題だし、関係ない自警団がそれに駆り出される理由は無いしね」

「そういう訳ですので、戦力としては大したことないので好きにあしらってもらってもいいですけど、どうするかはお任せします」

「お任せします……ね。随分と口が上手くなったわねー」


 感心した口調でフォロウに賛辞を述べると、リカルはシートに腰を落ち着けたまま何かを考え始めた。リカルが思考に入ったのを見ると、ロックが自分の席のコンソールパネルを操作してリカルのデスクにいくつかの情報を転送した。


 無人のカメラユニットを使って撮影した船周辺の映像と、レーダーによる諸々の周辺情報である。情報によると向かってくる数は十数名。武装はしているだろうがマシンなどの反応は確認できず、伏兵の存在も今のところは見当たらない。


 確かにこれなら相手にしても十分返り討ちに出来るだろう。上手くやれば自分かロック、どちらか一人で片を付けられるかもしれない。情報などの照らし合わせながら思考を続け、そうしてリカルはやっとフォロウに口を開いた。


「だったらアタシらはここから出発するわ」

「悩まれた割には結構普通の答えを出しましたね?」

「一応アタシらは真っ当な冒険者ですからね?いさかいがあったからって何でもかんでも力で解決しようなんて思ってませんよ。あくまで最後の手段ですからね?関係のない自警団と戦うつもりなんてありませんから」

「……アリシアもそれでいいの?」


 リカルの答えを聞くと、フォロウは次にアリシアの方に視線を移すと同じ質問をしてきた。突然自分に質問が来たことに戸惑いながら、それでもアリシアはすでに答えるべき事を決めていたらしく、モニターに映るフォロウの顔を正面から見つめていた。


「今のボク達の雇い主はリン姉様だから、姉様が戦わないと言うならそれに従うわ」

「……それでいいのかい?」

「ボクも姉様と同じだよ。力づくじゃ根本的な解決にならないって事は知っているから。町長とは意見とやり方が食い違っていたから争う事になったけど、本当は話し合いできちんと解決させたかった事だし、自分の恨み事で他の人達に迷惑をかけるわけにはいかないもの」


 アリシアが話している間、ディスプレイに映っているフォロウはずっとアリシアを見ていた。彼女が話し終わるのを待つと、フォロウは態度にこそ出さなかったが何か納得したようで、そうなんだと、一言だけ呟いた。


「フォロウ何かあったの?今の言葉はあなたらしくなかったわ」


 問い詰めるつもりで言った言葉ではないのだが、彼女の質問は明らかにフォロウの動揺を誘ったようで、表面上は落ち着いているが雰囲気が先ほどと全く変わってしまった事はアリシアにすぐ気づかれてしまった。


「フォロウ、それ一体誰からのアドバイス?」


 そんな二人のやり取りをアリシアの隣で見ていたリカルは、ようやく気になっていたことが聞けたといった感じで、フォロウに一言だけ言うと軽くドヤ顔して見せていた。

 その一方で、質問されたフォロウはいよいよしどろもどろとなってしまい、明後日の方を見ながら言葉を濁す様な変な声を出していた。


 フォロウが誠実な人物なのはこの数日で分かっている。だからごまかしこそすれど嘘はつかないであろうし、このままこちらの質問に答える事は無いだろう。もう少しつつけば何かボロを出すかもしれないと思った時、彼女たちの席の横で話を聞いていたロックがおもむろに口を開いた。


「話は大体終わったか?フォロウの言う通りにこっちに向かってきている連中がいるし、戦うつもりが無いならすぐにでも出発した方がいいぞ」


 ロックの言葉で今の状況を思い出したリカルはそれもそうだと一つ頷くと、すぐに出発の準備を船の各部署に指示した。幸い出発については全ての機材を積み終わった時点で準備が進んでいるので、自警団達がやってくる前には出発できそうだ。


 にわかに忙しくなったブリッジの中で、アリシアとフォロウは会話を続けていた。出発までの短い時間だけど話を続けてていいとリカル達の計らいによるものである。内容は他愛のない日常会話みたいになっていたが、いつもと違う状況が普段より会話の量を多くさせていた。


 会話をしながらフォロウは、今更ながらこのような状況になってしまった事を悔やんでいた。もっともフォロウがアリシアに何かしたわけでは無いので気に病むという事が違っているのだが、それでももう少しアリシアとちゃんと話が出来ていれば、彼女が求めていたものについてもう少し理解していれば、少なくともこうなる結果を変えることが出来たかもしれない。


 そんなことを考えながらフォロウが話を続けていくと、ついに船の出向準備が整ったようだ。リカルがアリシアに最後の通信になる事を伝えると、そのまま自分の席へと戻っていく。アリシアはフォロウに名残惜しいような表情を一瞬見せたが、すぐにいつもの表情に戻ると、微笑む様な笑顔をフォロウに向けた。


「フォロウ、今までありがとう。また会えるといいわね」


 危険と隣り合わせの冒険者に同行して星から星を渡っていく。そんな生き方を始めていけばもう一度再会できる可能性はどこにもない。それくらいはフォロウでもわかる事だが、アリシアが自分に心配をかけたくないために言葉を選んでいる事も分かっている。だからフォロウも優しくアリシアに笑いかける。


「アリシア、大した力になれなくてゴメン、今度会える時までにもう少し色々勉強しておくよ!!」


 そのフォロウの言葉を聞いたアリシアは少し驚いた様に目を丸く開いたが、変わらず自分の事を見ているフォロウに笑いかけるともう一度ありがとうと言い、通信を切断した。


「アリシア、もうよかったの?」

「はい、縁があればまた会う事もあるでしょうから」


 それが彼女の願望なのか強がりなのかはわからないが、想像以上に表情の無い、本気の顔を見たリカルはそれ以上は何も言わずに最後の離陸準備に取り掛かっていった。

 そして、そんな彼女たちの事を自分の作業の合間に後ろの席からチラ見していたロック。特にアリシアとフォロウの二人が話している事をしきりに気にしていたが、二人の会話が終了したのを見るとリカルの様にアリシアに声をかけることも無く自分の仕事を続け始めた。

 しかし目ざとい人が見ていれば気付いたかもしれないが、彼女たち二人から目を離したロックの顔は何かを言いたげな、不敵な笑いを浮かべていたのだった。



 一方アリシアとの会話を終えたフォロウは、彼女の旅の安全を祈ると共にある人物の事を考えていた。


 町を出ていかなくてはならなくなったアリシアの本心を少しでも確認できないかと思い、その人物にそう漏らした時、わざと意地の悪い事を言ってみてその反応を見てみたらどうかとアドバイスをしてもらった。

 そのアドバイスに従ってあのような態度を取ってみたが、元々フォロウのキャラで無い事をしてみたのでアリシア達には思いっきり不審がられていた。ロックにフォローをしてもらっていなければ誰から聞いたことかを話していたかもしれない。


 そこまで考え、ふとフォロウは自分の考えに間違いがある事に気付いて思わず苦笑いをしてしまった。自分にとって都合の悪い話を本人が遮るのは当然の事なのだから。


 そう、フォロウに入れ知恵を行ったのはロックだったのだ。フォロウから相談を受けた時にロックもアリシアの気持ちを知りたいと思ったので、彼女の考えを聞けるようにフォロウにあのようなアドバイスを、悪く言えば彼をダシに使ってみたのだ。


 ロックのそんな考えまで読む事の出来なかったフォロウはアリシアの気持ちを知ることが出来た事に対してロックに感謝をしていた。

 通信に使っていた端末ユニットを手早く片付けると、フォロウはアリシアと話をするため訪れていた町の郊外にある少し背の高い岩山からシャインウェーブ号が止まっている場所に目を向けた。話す人物と内容の問題で街中では通信する事が出来ないため、はるばる街から離れたこの場所までやって来たのだった。


 フォロウの視線の先に数分後、白く太陽の光を反射しながら空へと浮かび上がる巨大な物体が目に映ると、それはみるみると高度を上げていき、十分な高度まで上がった所で水平に移動、そのまま速度を上げていくとあっという間に見えなくなっていった。フォロウはその光景を、飛行物体が完全に視界から消えるまでただ黙って見守っていた。


 そのころもう一組、地上から轟音と共にこの物体が空へと昇っていく光景を見ていた一団がいた。彼ら、キリカタウンの自警団達が音の聞こえた場所にたどり着くがそこには何もない平野が広がっていた。こうして、ほんの数分前までそこにいたシャインウェーブ号と冒険者たちはすでに自分たちがそこにいたという痕跡も消し去り、やって来た彼らをあざ笑うかのようにはるか遠くの空へと飛び去って行ったのだった。

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