15th ACTION 成るべくして『お姉様!」
『アリシア、ついてくつもりなの!?』
リカルに雇ってほしいと話を持ち掛けてきたアリシアに対して、リカルとフォロウは同時に同じセリフを声に出していた。リカルは確認のため、フォロウは驚きで叫び声になったりと、両者の間でかなり捉え方が違っていたが。
一方、当のアリシアはと言うと二人の反応にも動じることは無く軽く頷くだけだった。
「実は町長に粗相をしてしまいましてね、町に居れなくなってしまいました。元々この町自体には義理も未練もないですし、時期を見てみんなで出ていこうとしていたのですが中々それが出来なくて。ボク、ちょうどリンさんが人を雇うって内容の掲示板出していたのを知っていたので、それで……」
「ははーん、てことはアタシ達について町を出ようとしたのね。あなた達の事情はさっき聞いたばかりだけどちょうどいいわね。船の護衛が出来る人を見繕いたかったからあなた達みたいな傭兵のチームは歓迎するわよ。で、何人来るの?チームの人達全員来るの?アリシアたちのチームの人数って、アタシ詳しく知らないからさ」
リカルの質問を聞いた途端、アリシアは少し顔をこわばらせて次の言葉を言い淀みだした。
なぜそうなったのかが分からないリカルは、表情こそ変えることは無かったが彼女の変化に小首をかしげた。そしてアリシアの態度が変わった理由は以外にもフォロウが教えてくれた。
「チームの直系のメンバーと、手伝いしてくれているサブメンバー全部を含めると70人位だったよね?」
フォロウの言葉を聞きながらふむふむと頷いていたリカルだったが、ふと何か気になる言葉が出てきたので動きを止めて少し考えだした。
「えーっと、フォロウさん、人数今何人っておっしゃったのかしら?」
「……70人ほどですね」
「ななな、70人?!」
確認を求めてきたリカルにフォロウが少しの沈黙を持ってから答える。聞き間違いであることを望んでいる彼女の気持ちは分かっているが、それとこれとは違う事と言い聞かせながら答えるフォロウ。その数字を聞いて大仰に驚いていたのはコーラルの方だった。
先にオーバ-リアクションでコーラルが驚いてくれたおかげでリカルはとっさに心を構えることが出来たので、彼の様に驚きを顔に出すような事をしなくて済んだが、それでもその数字にはだた閉口するだけだった。
「……やっぱり無理ですか?」
おそるおそるといった声が聞こえてきて、思考の停止していたリカルの意識を引き戻す。彼女が視線を戻すとアリシアが不安そうな顔でこちらを見ていた。
バツの悪さを感じながらもリカルはロックの方に視線を向けて助言なり助けを求めた。彼女と目の合ったロックは、少し目を逸らして考えてから彼女を見ると、アゴを少し動かして彼女に促すようなサインを送った。
それを見るとリカルは少し恨みがましく目を細めてロックを見やってからアリシアに視線を戻した。
「ええとねぇ……、とりあえず正確な人数知りたいからアリシア、何人来る予定?」
「ボク達兄弟を入れて83人になります。フォロウが言っているのは少し前の人数です」
改めてアリシアから人数を聞くとリカルはアゴの下に右手を置いて、少し渋い顔をさせながら空を仰いで考え出す。
「オレもちょっと確認しときたかったんだけど、リカルは何人くらい雇うつもりでいたんだ?」
考え事を始めだしたリカルを見ると、ロックは助け船の意味も含めて自分の中で気になっていたことを彼女に聞いてみた。人手を増やしたい、出来れば傭兵を仲間に入れたいとは聞いていたがその人数まで彼女は話していなかったからだ。
「船の護衛をメインに雑務を手伝ってもらおうと思っていて、二十人位雇おうと思っていたわ。アタシの稼ぎでもそのくらいしか給金渡せないしね」
アリシアたちをどうするか考えながらも、リカルはロックの質問に答える。リカルの返答を聞いたアリシアは脈が無い事を自覚しながらもその場から動くことをしなかった。
正直に言えば動くことが出来なかった。町を出ていく切っ掛けを探していた彼女だったが膨れ上がったチームの人数を考えれば彼女たちにとって都合のいい話がそこらにゴロゴロ転がっているわけではない。
そんな中で目の前にいる年長者の少女は自分たちの境遇に理解を示してくれた。だから彼女に賭けてみようとしたのだ。
今の所アリシアはリカルの所以外に身を寄せる場所は考えていない、断られれば一から出直しである。そういった事情もあって、アリシアは無意識のうちにリカルから目を離すことが出来なかった。
一方のリカルはアリシアから体の向きを変えて目を逸らしながら、アリシアの申し入れを考え続けていた。
行き場所を無くした彼女たちを放ってはおけないし、そもそも彼女には借りがあるのだからその頼みを無下にすることもしたくない。しかし彼女たちの仲間全員を受け入れる事は金銭的に無理と言ってもいい。
細目になって、アリシアに視線を悟られない様にしながら彼女を見てみると微動だにせずじっと自分を見ている彼女がそこにいた。
顔を少しだけ動かしてまた彼女から目を逸らすと今度はロックの方に目を向ける。そのまま彼の事を見ていると、ロックは小さく縦に二、三回、首を動かした。
『自分に全部任せる』という内容のサインを受けたリカルは、小さく息を吐いてから目を開いてアリシアを正面から見つめて口を開いた。
「食事は三食、部屋の割り振りはあなた達で決めていいけど全員一人部屋は無理。それと給料は出せないから自分で使うお金はそれぞれで作ってもらうのと、船の運営費は共同で作る。この条件で良いなら全員乗せてあげる。どうする?」
リカルの出した条件。決して好条件ではないけれど、ともすれば結構リスクを負うようになるような条件だけど、その代わりチーム全員を一人も欠ける事無く受け入れてくれるというもの。
それを聞いたアリシアは、ぱあっと満面の笑みを浮かべると嬉しさで飛び跳ね、そのままの勢いでリカルに抱きついてきた。
突然の出来事に困惑しながらも、嬉しさからしているのだろうとアリシアの気持ちを察したリカルは表情を崩すと彼女の肩に左手を置いて、右手で頭を優しく撫でてあげた。
「無理を聞いてくれて嬉しいです!ありがとうございます、お姉様!」
その瞬間、リカルはまるで時間停止や瞬間凍結の魔法にかかったかのようにアリシアの頭を撫でていた手の動きを止めてしまった。表情も先ほどから変えていないが、明らかに動揺しているさまがロック達の目には映っていた。
そのロックはフォロウの方に目を向けると彼女たちを指さして何か知っているかを聞こうとしたが、フォロウも初めて目にした光景らしく、ハトが豆鉄砲を食らったように落ち着きなく二人の少女たちを見ていた。
そのフォロウの姿を見たロックは指さしていた手をゆっくりと下ろし、しばらくそのままの状態で彼女達二人を放っておいてみた。
なんだかんだといつもリカルにやり込められているロックにとっては面白い光景が見れた事に内心かなり満足していた。その状態はそれから五分後、ようやく我に返ったリカルがアリシアを引き剥がすまで続いたとの事だった。