行間二
『――光一が海賊船の船長だとしたら、さしずめ俺は航海士ってところだな』
ある日、斜め後ろを歩く幼馴染にそんな事を言われた事があった。
『はぁ? なんだそれ。海賊ごっこなんて今はしてないぞ、翔』
『ねえ、じゃあ私は何だと思う? こーくん』
『なにって……しらねーよ。小夜も翔に考えて貰えばいいじゃんか』
『むー、なによ。こーくんのケチ。バカ。ちょっとくらい考えてよね……』
『はぁ? な、なんで俺に怒ってんだよ』
『ふん、知らなーい。翔くんに考えてもらったらー?』
『あはは、小夜はアン・ボニーとメアリー・リードだな。それも一人二役いけるぜコレは』
『……むぅ、なんか、ぜんぜん褒められてる気がしないんだけど』
あの頃は毎日が満天の星空の如く輝いて見えた。
宇宙に一番近いこの島で生まれ育った俺達は、きっといつか宇宙に行くのだろう。わざわざ口に出さずとも、誰もがそんな確信を胸に秘めていたのだと思う。
『別に、ただのモノの例えだよ。光一は俺達をいつも散々引っ張り回してくれるだろ? 昨日だって、池の主を釣り上げるんだって言って聞かなくてさ。最終的に釣り上げる事になったのは主じゃなくて池に落ちた光一だったけど』
『お、おい。あれは……!』
『ふふふ、「助けてくれー!」って言いながら手足をバタバタさせるこーくん、可愛くて面白かったわよね。あの池、私たちでも全然足付くのにね』
『さ、小夜まで……』
『光一は馬鹿っぽいからな、前に進むのだけは得意なんだ。けどま、池に落ちちゃうくらいには考えなしって事だ。だから、仕方がないから俺が道案内してやろうって事だよ、船長さん』
変わらないものなんてない。
永久不変なんてあり得ない。
それでも、あの頃の俺達は。輝かしい未来を夢見ながら、こんな毎日が永遠に続くのだと疑いもなく信じ切っていた――
『……そっか。じゃあ、いつか私も考えなしの船長さんに引っ張り上げて貰えるのかな……』
『小夜? 引っ張り上げるって、何がだよ?』
『――ううん。何でもないわ。それより、ほら。行こ? こーくん。翔くん』
『うん』
『ああ』
――信じて、いたのだ。
その矛盾した願いが、致命的に破綻している事に気付かないまま。