第5話
あたしは少年をにらみ続けた。
少年も何も言わず、ただ少し困ったような表情で、あたしの顔をじっと見つめていた。
「・・・怜真。諏訪怜真。」
少年が、ゆっくりと口を開いた。
「え?」
「俺の、名前。誰、って聞いたじゃん。じゃあ、名乗ったから。」
傷ついたようなさっきまでの表情はすっかり消え、また怒ったような顔に戻った少年、諏訪は、今度は強引にあたしを抱き上げた。
「な、なにすんの!?降ろしてよ!!」
じたばたと暴れたが、諏訪はぐっと力を入れて抱き上げているため、びくともしない。
「やべーんだよ、このままじゃ!黙ってろ!!!」
凍りつきそうなほど、恐ろしい顔で怒鳴られ、あたしはきゅっと目を閉じた。
「あとで、ちゃんと説明するから。傷つけるようなことは、絶対にしない。だから、俺を信じてよ。」
耳元で、諏訪がささやく。今度は、悲しいほど優しい声。
その声につられるように、あたしは小さくうなずいてしまった。
うなずいたあたしを見て、諏訪はあたしを抱きかかえたまま、走りはじめた。
優斗の家を飛び出し、駅とも反対の方向に向かって走る。
すれ違う人たちは、整った顔立ちの弓道少年が、あたしを抱えて走るのを驚くような顔で見ている。
中には、かっこいー、あの男の子俳優?撮影かなー?などと若い女の子ののんきな声も聞こえてくる。
でも、抱えられてるあたしはそれどころじゃない。
ど、どこいくの!?てか、尋常じゃなく、走るの速いんですけど!
あまりのスピードに恐ろしくなって、あたしは声も出ない。
オリンピックに、誰か抱きかかえてマラソン、って競技があったら、間違いなく優勝する・・・・。
どれくらい走ったのだろう、諏訪は、いきなり走るのをやめた。
抱えていた、あたしを下ろす。
「つ、ついたの・・・・?」
よろよろと尋ねるあたしを、諏訪は一喝した。
「黙ってろ!!!俺の、後ろから離れんなよ!絶対だ!!」
諏訪の緊張した様子に、あたしは言われたとおり諏訪の背中にぴたりとくっついた。
あんなに走ったあとなのに、息ひとつ乱れていない。
少し前方に、神社が見えた。昼間だというのに、この暗い路地は人っ子一人通らない。
耳鳴りがしそうなほど、静まり返っている。
「な、なにが・・・・」
「黙ってろ!」
またあたしを怒鳴りつけた諏訪は、ぴりぴりとあたりに注意を払いながら、背中の弓を手にした。
矢を手にした諏訪は目を閉じて、何事かぶつぶつと呟いたかと思うと、弓をかまえた。
「伏せろ!」
諏訪がそう言った次の瞬間、あたしは信じられないものを見た。




