第3話
ゆっくりと目をあけたあたしの目の前には、信じられない光景が広がっていた。
「優斗・・・・?」
あたしの上に乗っていたはずの優斗が、床の上に転がっている。
しかも、どう見ても、意識がない。
「優斗!ちょっと!」
揺さぶってみてもなんの反応もない。なに!?も、もしかして、しんでるとか・・・?
そう思って真っ青になったあたしは、優斗の体を更に揺す振ろうとした。
その時。
「殺してねーよ。気絶させただけ。」
背後から、誰かが呆れたようにそう言った。
あたしは、弾かれたように、声とは反対側の壁際まで一気に後ずさった。
「だ、誰!?」
そこにいたのは。
憂いを帯びたような切れ長の黒い瞳の少年だった。
弓道部なのだろうか、紺色の袴姿で、背中には弓らしきものを背負っている。
綺麗に整った大人っぽい顔立ちの中で、唯一少年らしい感じのするやんちゃそうな唇がとても印象的だ。
知らないひとがいきなり部屋に現われて、優斗なんか気絶させられたというのに。
少年のあまりの容貌に、あたしはぼうっとその顔に見惚れていた。
不思議なことに、まったく怖いと思わなかった。
「あんた、馬鹿じゃねーの!?」
呆けるあたしを、少年はその顔に似合わない乱暴な言葉遣いで罵倒し始めた。
あたしは、びっくりして、ハッと我にかえる。
「てか、なに男の部屋に何の警戒心もなくのこのこ来てんだよ!?しかも、なにその短いスカート?隙ありすぎなんだよ!俺が来なかったら、どーゆーことになったかわかってんのか!?」
少年は激しい口調であたしを叱り飛ばす。なぜか、本気で怒っているようだった。
驚きすぎてなんの反応もできないあたしを、馬鹿にしたように見下す。
「それとも、もしかしてこいつにヤラれちゃった方がよかったとか?」
不機嫌そうな視線を優斗に向けながらそう聞く少年に、あたしはぶんぶんと首を横に振った。
あたしのその反応に、少年はようやく怒りを鎮め、ふうっと短いため息をついた。
「じゃあ、謝れよ。」
少し、口をとがらせて、すねたように言う。
その仕草があまりにかわいくて、あたしは思わず『ゴメンナサイ』と言いそうになったけれど、何をどう謝ればいいのかわからず、あたしは少年にたずねた。
「あ、あやまる・・・ってなにを・・・?」
おずおずと尋ねたあたしに、少年は再びイラっとしたような冷たい視線をむけた。
やっぱり、こ、怖い・・・!
怯えるあたしのもとへ、少年はすたすたと歩み寄る。へたり込むあたしに視線を合わせるように、その場に膝をつくと、ぐっと顔を近付けた。
「俺に心配かけたんじゃねーの?」
至近距離にある整った顔立ちが、恐ろしく冷たい目であたしをにらむ。
あたしは蛇に睨まれた蛙のように縮みあがった。
「ご、ご、ごめんなさい・・・!」
あたしは、慌てて謝る。それに、いろいろ疑問はあるものの、とりあえず助けてくれたようなので、お礼も言ってみた。
「あ、あの、あ、アリガトウ・・・」
少し上にある少年の目を見ながら、つぶやくようにそう言うと、少年は一瞬満足げにふわりと笑ったが、次の瞬間にはふいっと顔をそらした。
「ちっ!次からはもう助けねーからな!ったく、こんなどーでもいいヤツのせいで、チカラばらしやがって!あと2年だったのに・・・・」
少年はそうぶつぶつと呟くと、あたしの体をひっぱり起こした。言ってる内容はよくわからなかったけれど、乱暴な態度とはウラハラに、つないだ手はなんだかとても優しい気がした。
「よし、じゃあ行くぞ。」
手をつないだまま、少年にそう言われ、あたしはきょとんとした。
「行くって、どこへ・・・?それより、あなた、誰?優斗の学校のひと・・・・?」




