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代理のエルフ


「そう固くならなくてもいい」


中性的な顔に似合わぬ低めの男性らしい声だ。


「私は神様ではない。ただの使者だ」


神様の声を聞いて、それを伝える役目なのだという。


私が驚いていると、銀青のエルフは苦笑いを浮かべた。


「獣人には理解できないらしくてな。何度否定しても私を神だと思い込んでいるのだ」 


「そ、そうだったんですか」


「ああ」とため息を吐く姿も様になっている。さすがイケメン。




「それで、お前は何を望むのだ。健康か、安泰な将来か」


エルフの神様代理は無表情でそう言った。


「ただし、一つだけだぞ」


しかも望みを伝えてもそれが叶うかどうかは、本人の生き方次第らしい。


「祝福というのは、本人に与えられる力だ。でも、それを使うのは本人だからな」


どんなに長生きの祝福をもらっても、本人が無茶ばかりすればその命を長らえるのは難しい。


そういうことで、結局は自分次第ということなのだろう。




 そうかー、んー。


「で、お前は何をしに来たのだ。祝福が欲しいのではないのか」


「それはー」


その時、頭の隅にサナリさんの姿が浮かんだ。


すっかり忘れていた。やばい。


「あー、あのですねー」


どうしよう。何を話していいのか、わからなくなってきた。


そんなしどろもどろな私を見て、銀青のエルフは呆れたようにため息を吐いた。




 手近にあったベルを手に取り、エルフの男性がチリンと振る。


「お呼びでしょうか」


すぐに扉が開いて、入って来た白狼先輩が頭を下げたまま声をかけてきた。


「客間へ移動する。この者を案内して、連れて来るように」


そう言うと代理エルフは神様の彫刻が飾られた神前の間を出て行った。


平身低頭でそれを見送った私と先輩は、扉が閉まると同時に顔を上げる。


「お前、何やった?」


「え、何もしてませんよ」


不機嫌そうな白狼先輩の後に着いて部屋を出る。


「いいか、絶対逆らうなよ」


「してませんから」


むぅと顔を膨らませて私がそう言うと、急に先輩が立ち止まって振り返った。


「神様っていうのは不思議な力がある」


たとえお前が何もしなくても、気分次第でその力を使うかも知れないんだと先輩が顔を曇らせていた。


「はあ」


神様っていうよりイケメンエルフだったけど。


 不思議な力って魔法とかのことかな。


「とにかく、余計なことは言うな」


そうして先輩はまた歩き出す。さっきより少し早歩きになっていた。




 控えの間だった部屋よりもやや狭い部屋に案内された。


ここは床や壁が木で出来ていて、暖かい印象を与える。椅子やテーブルも高級そうだ。


すでに代理エルフは座ってお茶を飲んでいた。


「毎年のことなんだが、早朝からずっと緊張し続けて疲れててな」


彼は先に頂いているよと笑った。機嫌は悪くなさそうで安心した。


「ありがとう、下がってくれ」


エルフがそう言うと、先輩や他の世話係の獣人たちが頭を下げ出て行った。


先輩がチラリとこちらを見てきたので、大丈夫ですと頷いておいた。なんか余計に顔をしかめられた気がするけど、まあいいや。




 とりあえず座っていいと言われたので、イケメンエルフの正面の椅子に座る。 


「さて何も無いなら、こちらから質問させてもらうがいいかな」


「え、まあ」


じっとこちらを見ている。


イケメンってさ、自分が鑑賞するのはいいけど、向こうから見られると何か迫力があって嫌だなと思う。


ややあって、エルフが口を開く。


「お前、何を探っている?」


「はい?」


思いがけない言葉に顔が引きつる。


このエルフは私がこの町で何かをしようとしていると思ってるの?。




「あのー、私は以前の記憶が全くなくてですね」


「それは嘘だな。普通に生活しているじゃないか」


「そりゃ、生きていかなきゃいけませんから必死で覚えました!」


言葉だけじゃない、食べることや寝ることなど最低限の生命の維持はできても、生活費は何とかしなければならなかった。


「たくさんの人に助けていただいて、そのご恩は感じていますし、いつかお返ししたいと思っています」


このエルフが言うような『何かを探っている』とはどういうことなのか。


探られる何かがこの町にあるのか。


「あ」


まさか、それがサナリさんの言っていたことなのか。




「心当たりはありそうだな」


ニヤリと口を歪めるイケメンエルフはなんだか怖い。


「いえ、神様って不思議な力があるから、気をつけろって言われてたので」


私はふんっと鼻から息を吐いて、精一杯の虚勢を張る。


心の中では焦りまくりのビビりまくりだけど。


「不思議な力か」


カチャリとカップを置いたエルフは、私に向かって質問を続ける。


「ハート。お前は神様を何だと思っている?」


「えっと、人々を守ったり、願いを叶えたり?」


「ふうん。じゃその見返りは何だ?」


「ええっと、信仰、ですかね」


「ふ、ふふふ、あははは」


それを聞いたエルフが、突然、笑い出した。




「信仰?、そんなものが何の役に立つんだ」


銀青の髪の間からこちらを見ている目には呆れが含まれている感じがする。


なんでだろう。私、またなんか変なこと言ったかな。


 彼の言う神様というのは『この世界を最初に作った意思のある魔力の塊』だという。


自身の魔力で存在しているので、誰かの信仰など腹の足しにもならないらしい。


「で、でも感謝されたら神様だってうれしいはずでしょう」


その気持ちに応えようとするのが力の元でもおかしくないと思うんだけど。


「あの、ちょっと質問してもいいですか」


正面にいるエルフが頷いた。




「魔力の塊が神様で、魔法を使って私に祝福をくださるんですよね?」


「そうだ」


エルフが鷹揚おうように頷く。


「それ以外には何をされているのですか?」


エルフは少し考えた後、答えた。


「この町の住人が生活できるように最低限のことはしているな」


あまり大っぴらに力を貸すと堕落するので出来ないが、自分が作った町だから責任があると言う。


私はその答えに頷いた。





「それって、例えば」


そして手にじんわりと汗を掻きながら、


「魔法で雨を降らせたり、畑の作物を豊作にしたり」


なるべく優しい声を出し、エルフの顔色を見ながら話す。


「他所の船が近づかないように嵐で沈めたり、町の獣人の数を流行り病で調整したり?」


突然、ぶわりと風が巻き起こった。


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