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神様はイケメン?

 

「そういう先輩はなんでここにいるんですか」


先輩と並んで湯に浸かりながら聞いてみる。


今日の湯屋は神殿へ行く人しか入れないはずだ。神殿へ行く人たちが身を清めるために開放されているらしい。


「俺は神殿の手伝いだ」


一応これでも領主一族だからな、と嫌そうな顔をしていた。


先輩も神殿へ行くとは思っていなかった。


「よかった。神殿には先輩もいるんですね」


本気で安心した。知り合いがいてくれるのはうれしい。


「ああ、お前みたいのがいるからな。毎年、雑用に呼ばれるんだ」


神殿に慣れない下町の人たちもいるので、中でウロウロしないよう注意したり、案内をしたりしているそうだ。




「作法は覚えたか?」


「は、はい。大丈夫です、たぶん」


私の声はだんだん小さくなった。先輩が仕方ない奴だとため息を吐く。


「あのな、神様の前では男性は片膝を着いて片手を胸に、女性は両膝を着いて両手を胸に。簡単だろう」


あとはただ神様から声がかかるまで下を向いて、決して顔を上げない。それだけだ。


そんな難しい作法ではないけど、とにかく神殿でしか見られない作法なので今まで見たことがない。うまくできるか心配だ。


「俺はもう行く。お前はちゃんと作法を頭に入れてから来いよ」


白狼先輩はそう言って風呂場を出て行った。


 先輩の後ろ姿は昨日の夢の中に出てきた、あの白い髪の人族の男性に見えた。


あの腕に抱きしめられた女性がうらやましかった。


ただの願望だってわかってる。でももし先輩が『人型』だったら。


私なんかでも、モモンちゃんみたいに想ってもらえたのかな。




 え、私、今なにを考えた?。


先輩に想ってもらえるなんて、どういうこと。


私は自分でも知らないうちに先輩が気になっていたんだろうか。


湯屋の若旦那のユールさんにモモンちゃんという相手がいることがわかって落ち込んだばかりだっていうのに。


なんて惚れっぽいの。自分で自分が嫌になった。


あ、でもきっと気のせいだ。うん、そうだ。そういうことにしよう。


白狼先輩はモテるのだ。私なんか、見向きもされないのはわかっている。




 午後になり、軽く食事をして外に出る。


賑やかな大通りには獣人たちが溢れていた。私は港近くの広場に向かう流れに逆らうように、山の神殿へと向かって行く。


既に神輿は早朝、町に降りて一周した後、神殿に戻ったそうだ。見送った住人たちはそれぞれ家族で祭りの屋台や出店を冷やかしたり、仲間たちと夜中まで騒いだりする。


石畳の路上は撒き散らかされた花びらで覆われていて、掃除が大変そうだなあと思った。


 そして神殿では、今頃は赤ちゃんたちが祝福を受ける儀式に入っている。


精一杯のおしゃれをした子供連れが神殿の門を出入りしているのが見えた。


暗黙の了解で山手の親子が先に済ませ、今はもう下町の親子連れで賑わっているようだ。


私の番まではまだ少し時間がありそう。




「あ、白狼先輩だ」


獣人の子供たちは皆、とても可愛いくてテンションが上がってしまっていた。つい大声を出してしまい、他の親子連れの対応をしていた先輩にギロリと睨まれてしまった。


「すみません」


先輩と虎のような獣人の親子に謝る。


「まあいい。控えの間はこっちだ」


先輩はいつもと違う神職用の白っぽい服だ。店での華やかな衣装も似合うけど、こっちもなかなかいいな。


なんて思ってぽーっとしていたら、見失いそうになって慌てて後を追う。


「順番が来たら呼びに来る。それまでここにいろ」


「はい」


そこは店のホールよりも少し狭いくらいの大きさの、何脚かの椅子しかない部屋だった。


入った時には家族連れが何組かいたが、やがて順番に呼ばれて行き、一緒の部屋にいた最後の一組の獣人の家族が呼ばれて出て行った。


私は一人になりポツンと椅子に座っている。




 他の家族がいる間は可愛い子供たちを見ているだけで時間を忘れたが、今は何もすることがない。

 

自分の部屋なら寝ていてもいいけど、ここはそうもいかないし。


ふわあっと欠伸あくびをしたとたんに扉が開いて、先輩が入って来た。


「余裕だな」


目が合って笑われてしまった。うう、恥ずかしい。


「こちらへどうぞ」


丁寧に先輩が開けた扉を通って神前へと向かう。いつもと違う先輩の雰囲気に身体が強張こわばる。


「き、緊張しますね」


私がそう言うと先輩は笑って、「大丈夫だよ」と肩にポンと手を置いた。


先輩の何気ない仕草にドキリとする。


肩が暖かい。白狼先輩の笑顔を見るだけで、私の緊張が少しほぐれた気がした。


 そして先輩は白い扉を開いた。




 目の前が光で真っ白になり、頭の中まで真っ白になる。 


祭壇を背に、ひとりの男性の姿が影になって浮かんでいた。


「早く行け」


耳元で先輩がささやく。


「あ、はいっ」


慌てて早足で前に出る。後ろで扉が閉まる音がした。


途端に心細くなった。




 もう先へ進むしか道がない。私は恐る恐る前へと歩き出す。


その部屋は白い石の壁に、木の椅子が整然と並んでいた。椅子の列が二列あり、その真ん中が開けて、真っ直ぐに細長い絨毯が敷かれている。


作法を思い出してその絨毯の上を指示された場所まで歩いて行き、なんとか片膝を着いた。


「ハート、というのか」


若い男性の声だった。


「はいっ」


私は思いっきり返事をして顔を上げた。


光に目が慣れると、神様の姿を模したと思われる白い彫刻が立っていた。人の背丈の倍以上あるそれを背にした男性がじっとこちらを見ている。

 

そして、私はしまった!と思った。まだ神様から顔を上げていいという許可をもらっていなかったのだ。


 しかし、そんなことより私はその男性を見て固まっていた。


その男性は、神様というよりも


「エルフ……」


だった。




 薄い銀青色の髪の毛を肩の下まで真っ直ぐに伸ばし、その髪から細く長い耳が飛び出している。白く透き通る肌に緑色の瞳。白い生地に豪華な金糸の刺繍がされた装束を着たエルフは、スラリとした長身で、男性というよりも中性的な顔立ちだった。


「神様って、エルフのことだったの?」


呆然としている私を見て、イケメンエルフが眉をひそめた。


「ほお、お前はエルフを知っているのか」


「あ、すみません!」


私は慌てて下を向いた。もう遅いけど。



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