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(七)口入れ屋の甘言

 英姫も〈無窮花(ムグンフア)〉に来るについては迷ったのだった。韓国クラブのホステス補給ルートには口の達者な日本人がいる。彼らは娘たちの現状を見抜いて、話(釣り方)を変える。娘たちに共通しているのは経済的に困っているということだけだ。利口そうな娘にはプライドを傷つけないように話をすすめる。

『そりゃあ(貴女は良家のお嬢さんですから)韓国では出来ないでしょうね。気が退けるところがないわけじゃないですから。じゃ、少し日本の事を話させてください。男性に(しやく)をするのは日本では当り前なんですね、尊卑の別なく女性はだれでもやります。日本の女性が嫌々やることなら、私だって韓国人の女性あなたに勧めたりしません。

 日本の男性は、女性に酌をしてもらっても、それが普通ですから感動がないのですよ。人間は珍しいものに感動するんでしょ。クラブに来る客たちはそれなりの客層ですから、教養もありますよ。韓国女性が男に酌をしないことも知ってます。それが良家の躾けで韓国女性のたしなみだと承知してます。そうです、日本では失われて久しい女性らしさですね。男たちはそれに郷愁のようなものを持ってますが、男のように酒を飲む女性から酌をされてもありがたくないですね。奥床(おくゆか)しさをとどめているのは日本の女性じゃなくて、韓国人の女性です。ええ、フィリピン・パブも沢山ありますよ。あちらの女性が安く働いていますが、彼女たちも韓国人女性の代わりはつとまりません。なぜだかお分かりですか。はい、彼女たちは日本人男性が懐かしく想う文化を提供できませんからね。そこを貴女にご理解いただきたいのです。フィリピン、タイ、ロシア……単に珍しければいいというエキゾチズムとは違います。韓国の女性でないといけません。日本の男が求めるのは昔の日本にあって今は無くなったものです。そうでなければ、いくら日本人の男でも金まで払って女性に奥床しさを求めますか。おわかりでしょう? このお話は貴女のように聡明な方でないと申し上げにくいお話です。

 韓国の女性が多く日本へ行くのも、韓国に残る儒教的な抵抗感がないからですね。はい、自由に自分で計画した生活ができます。人生設計は人それぞれありましょうが、みな日本に行くのはそのためです。貴女には、ぜひ日本でご自分の人生を広げていただきたいと思いますよ。先程の文化的な違いも分からず、自立心もない女性なら(私はこのお話を)勧めませんよ。仕事は、貴女が普通に振舞うことです。それが日本の男性の郷愁を誘うのですからね、普通になさればいい。客は貴女の教養にふさわしい会話と雰囲気を楽しむ紳士たちで、貴女は、言わば民間外交官のようなものですね。ですから教養は必要です。いや、貴女ならじゅうぶんできます。同じことが韓国では出来ませんし、何より金になりません。日本なら稼げます。お金はだれにも必要です。恥ずかしく思うことではありません。

 (日本に)一年もいれば生きた日本語が身につきますよ、わざわざ(大学の)日本語学科に行く必要はないですよ……』


 話がうますぎる、英姫もそう思った。しかし、KBSの教養番組も同じことを言ったし、比較文化の教授からも同じことを聞かされた。

『日本人女性は男性に酌をするのを我が国の女性のように恥ずかしいことだとは思っていません。彼女たちはまるで酒宴の潤滑油でもあるかのようにかいがいしく働きます。酌もむしろ進んでします。男性たちも酌をするからといって、女性を軽蔑することはありません。日本を、我々に伝統的な儒教道徳の徹底しない国だと考えるより、百年以上も前に西欧を取入れ、それを根付かせて来た異文化の国と考えたほうがよいでしょう……』

 話を聞いただけで理解したと思い、自分を利口だと信じている娘ほど、こうした口車に乗せられる。経験よりも理屈が先行する、経済的に切実な女子大生たちは、次のような結論に至る。

 ……(ごう)(日本という疑似西欧国)に入って郷にしたがうだけのことだ。文化的バリアを乗り越えるだけだ。自立するために儒教道徳の古い上着を一枚脱ぐだけじゃないか。(賢く進歩的な私に)出来ないことはない。しかも、だれも私を知らない日本なら恥ずかしく思うことはない。日本の女たちがやる酌をして、私の経済的ピンチを脱することが出来るなら、日本に役に立ってもらおう……。

 韓国クラブのホステスに高学歴で進取の気性に富んだ、ときに自分勝手な女性が多いように思えるのもあながち気のせいではない。


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