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(四)かろうじて英語教師

「工業高校だったしさ、英語は大学に入る前に横田基地でバイトした二年間の聞き覚えなんだ。学問的なバックは何もない。第一、松笠学園大なんて三流は世間じゃ相手にしないからね。僕も学校はアテにしなかった。英検一級を狙ってただけさ」

「ふうん」

「何たって〈実用〉英語検定だからね、細かいことをゴチャゴチャ言ってたら実用にならない。多少怪しくても歩留りで合格だ。詰めの甘い僕向きだったのかもな」

「それはいいけど、何で松笠大? パッとしねえだろ、あそこ」

「国立は無理、私立もイチかバチかじゃ受験料がもったいない。受からなきゃ困るんで松笠大。それが客観的な事実ね」

「主観的には?」

「それを言ったら岳さんは笑うよ」

「笑えるもんなら笑ってやるから、言えよ」

「彼女がね、やれる相手が欲しかったんだ」

「あーっはっはは」

「だって高校三年、基地二年。女ひでりで計五年。大学じゃ女子の身体のふくらみにばっか目が行ってさ、夏なんか弱ったなァ」

「達ちゃんもそっちはハッキリしてるねえ、ははは」

「何でも明け透けってのも芸がないけどさ、男も女も欲望を隠すんだよね。隠しておきながらもどかしい探りっこしてさ。お互いやりたがっているのが分かると〈相性がいい〉なぁんてキレイゴトだ……」

(トウイ)(トウイ)。ザッツライッ!」

「大学はその〈一致点探し〉と英検に明け暮れた。でも、文学部ってほとんど教員免許を取るだろ? 目当ての女の子たちがそうするもんで、僕も追っかけて教職を取った」

「あっはっは、ただのエロ小僧だ」

「良と可が半々じゃとても先生にはなれない。くれるというから貰っといた免許が役に立つなんて思わなかった。もともと勉強はダメだし、英語もおしゃべりなだけだから、教えるための知識なんて量目不足もいいとこさ、先生には向いてないって思うことあるよ」

「大学で勉強しなかったのか?」

「教員は考えてなかったもん。それでも出来ることと出来ないことくらいは区別がついてたのかな」

「何が出来たんだい?」

「僕より英語が苦手なやつを煙に巻く、あははは。それも大人相手じゃ手強いけど、まァガキが相手なら〈ひょっとして〉って。そうすっとやっぱり教職しかないなあって」

「ひでえ話だな、笑えねえ。あははは」

「反論しないよ。資格はともかく、資質の方がどうかなって未だに悩む。器でもないのが〈ハズミ〉でセンセやってんだよ。生徒にゃ気の毒、周囲にゃ迷惑な話だろ? タイミングも悪かった。英検に受かって妙な自信を持っちゃってた」

「自信、けっこうじゃないか」

「よかあないよ、テングだもん。外資系を狙って高望みしてたら、いつの間にか卒業ギリギリでさ、焦った、焦った。そこに樫山学園の〈教員急募〉だよ。カシヤマくんは僕以上に焦ってたんだ。でなきゃ、僕みたいなグズを採る学校じゃないものな。試験が面接だけだったしね」

「面接だけ? カシヤマくんとしては異例だね」

「掲示板を眺めてると、米文学の教授が通りかかってさ、推薦状を書くから受けろって。まさかと思ったけど、こっちも背水の陣だよ。何たってバカがバレる筆記がない──魔がさしたんだ。『樫山学園は教員の給料がいいよ。何よりこの時期になりゃ倍率が低い。チャンスだよ』って言われて、すっかりその気になっちまった。だから、ハズミだよ。ノータリンのペラペラが樫山学園に来ちまった。入ってから皆に迷惑をかけるなんて夢にも思わずにさァ」

「みんな似たようなもんだろ」

「でも、ガキをだますとか、給料に釣られたじゃ志望動機にならないよ」

「たしかに教師らしくはねえな」

「まわりはハナっから教員志望の留学組で、デキがちがう。僕がうんうん唸っても仕上がらない試験問題もササッと作る。素質がなけりゃ仕事場ってのは居づらいもんだよ。英語科で僕一人がボッコンと凹んでる。コンプレックス持つなってほうが無理なんさ」

 岳志は腕組みをして首をひねった。

「え、何かおかしいこと言った?」

「ぜーんぶおかしい。きょう慰められるのは俺じゃねえのかっ」

「あははは、いや、すまん。いや、笑ってもいらんない。コンプレックスが深刻で胃カイヨウが手術の二歩手前なんだ」

「酒が飲める胃カイヨウなんて都合よすぎる。それに何だ、二歩手前ってのは」

「一歩手前だと飲めない、二歩手前なら少しはね、あははは」

「そんなん、ずりいよ」

「男が生きるにはさ、何かこうガァーッと夢中になれるものがないとなぁ」

「ないこともない。達ちゃん、ハウマッチドゥーユーハブ?」

「マニ? 二万五千」

「ここ出ようっ。今晩は俺につき合えっ」

「やだよ、そんな趣味ねえもん」

「ばぁか」

 二人は居酒屋を出た。


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