(十九)空港の別れ
英姫は金浦空港に達也を見送った。三日前、成田からの飛行機がここに着いたときには新婚気分でいた英姫も、出発便のアナウンスを聞いた途端にボロボロと涙をこぼした。
「何だよ、永の別れみたいにさ。ゴールデンウィークにも、その後も、夏休み前に何度も来るんだから。これっきりみたいな泣かれ方されたら僕だって帰れないよ」
「達也さん、帰らないで、お願いっ」
意外な英姫のことばだった。彼女は達也の両肩に手をかけまま下を向いて嗚咽をこらえていた。達也は英姫のアゴを持ち上げて自分の顔を見上げさせた。
「君らしくない無理を言うんだな。僕が帰るのは君を迎えに来るためだから」
「ごめんなさい。こんなに甘ったれで涙もろいなんて自分でも思わなかった……」
「じゃ、だいじょうぶだね、英姫」
英姫はやっとうなずいた。
……離れるだけで幸せまで逃がしてしまうような気持ちにさせられるのだろうか。新婚の妻の心細さだけのことであってくれればいいが。結婚式の写真といい今回といい、英姫は僕の感じないものを何か感じとっているんだろうか……。
売店で〈雷おこし〉のような菓子の詰め合わせを土産に買い、達也は英姫を振り返らずにゲートを通った。駆け戻って彼女を抱きすくめたい衝動があって、振り返って手を振る自信がなかった。
……あんなことを言う娘じゃないのにな……。
水色にわずか黄が混じったようなKAL機は搭乗口をぽっかりと開けて達也を迎え入れた。シートベルトを締めて窓からのぞいた空港ビルのどこかに英姫はいる。しかし、どこにいるのかはもう分からない。エンジンがギィーンと重く唸ってタクシングのスピードが上がると達也の目にジワッと涙が滲んで来た。
……不安になるのは愛し合っているからじゃないか。僕らの愛がほんの少し試されるだけだよ……。
樫山学園高等部の職員休憩室のテーブルに達也は韓国菓子をひろげた。ちょっとした旅行などに出た教職員たちがいつもそうするように「お召し上がりください」とメモを添えた。
昼休みに達也は休憩室に行ってみた。だれも手をつけない菓子折りは開けたままの形で残っていた。こうした菓子は授業の合間々々に少しずつ着実に減って昼までには空になるのが通例だった。しかし〈雷おこし〉は一つも食べられなかった。……毒入りだとでも言うのかよっ……。達也は菓子折りごと部屋の隅のゴミ箱に投げ込んだ。




