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(一〇)ママの誤算

 英姫は支払われた給料の額に驚いた。全額ではないが人気者の英姫には指名料が面白いほど入ってきた。それは額に汗して働くのがバカらしくなる金額だった。〈無窮花(むぐんふあ)〉とは一年の契約で、期間内に辞めると法外な違約金を払わせられる。他店からスカウトされて辞めるのなら、新しい店がそれを持つから自分の出費はない。でも、それだと新しい店でまた年次契約になってしまう。

 英姫は一年で当初の目標額に届かなくても契約を更新するつもりはない。大学に戻るのをそうは延ばせない──日本に来る前から彼女はそう考えていたが、英姫の貯金は〈無窮花〉で順調に増えて行った。

 ……お金は欲しいけど、新しい店でそうなると韓国に帰れなくなる。秀哲の学費を考えるともっと稼げる店で働こうという気もなくはないけど、母さんと約束したしね……。

 ママは眼鏡違いだったと思わないわけに行かなかった。

 ……楽して稼げる水商売に二ヵ月も浸かれば、ウブな娘も金の亡者になる。もともと欲の深い子や事情を抱えた子は風俗にまで落ちていく。それが──。稼ぎに来たんだろうに、英姫は淡白というか金にきれいすぎる。カマトトのお嬢さまか? まさか。この商売、稼ごうとすれば客からボラなくてならない。そうするには客をその気にさせなくてはならない、それも指名料という別口を払わせるほど夢中にさせなければならない。夢中にさせるには陰に廻ってサービスしなければならない。客も承知のことだ。ホステスは自分の身も心も客のものだと逆上せあがらせて、一度に数多くの男どもを手玉に取って一人前だ。それが水商売で稼ぐということだ。

 英姫はまだ日が浅いのに指名料ではもうベストファイブに入った。でも、英姫の人気は本物じゃない。どう見てもあの娘は処女だ。男がサービスをしない女にいつまでも指名料を払うものか。──すると、あの落ちそうで落ちない風情は生まれついてのものか? それならそれで長く店にいて男たちを狂わせて欲しいものだ。

 ママはつい先日、英姫が売れっ子になるのを見越して、契約を一年から二年に延ばそうと持ちかけて英姫にピシャリと断わられている。一年過ぎても〈無窮花(ムグンフア)〉で働くようなら、割の悪いパートで構わないと言った。水商売が長いママも英姫のように欲のない娘は初めてだ。


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