04 大人用、バッドエンド
あることろに、すべての人に、笑いを届ける、笑いの伝道師を目指す、てんとう虫がいました。
てんとう虫は、雨の日も、雪の日も、毎日、毎日、笑いの稽古に励みます。
「なんでやねん!」
今日は、突っ込みの稽古です。
右手と一緒に、右足まで出してしまって、また、失敗です。
仕方がありません。てんとう虫には、手と足は、ぜんぶで6本ありました。
それでも、てんとう虫は、挫けません。
いつかは、立派な『笑いの伝道師』になるんだと、今日も、心に誓っていました。
そんな、てんとう虫の姿を見た、福の神さまは、てんとう虫に、笑いの道具を授けました。
触覚につけられる、ボンボンです。
てんとう虫は、大喜びして、ボンボンを着けます。
そして、「なんでやねん!」をマスターした、てんとう虫は、町に出ようと、仲間のてんとう虫に、相談します。
仲間のてんとう虫は、まだ、早いと止めました。
しかし、ボンボンをつけて、有頂天になっていた、てんとう虫は、仲間の言うことを聞きません。
そして、ついに、てんとう虫は、町に出ることを、決意しました。
◆◇◆◇◆◇
てんとう虫が、町を歩いていると、公園で、ふたりの男の子が、喧嘩をしていました。
「たーくんが、悪いんだろー」
「違うよ! こうくんだよ。えいっ!」
てんとう虫には、喧嘩の理由は、分かりません。
こうくんが、手をだして、たーくんは、転んでしまいました。
てんとう虫は、大変だと思い、すぐにふたりの所へ行き、
「布団がふっとんだ! って、言った、てんとう虫が、ふっとんだ!」
てんとう虫は、自分から、ふっとんで、転びます。
ふたりの男の子は、あまりのバカバカしさに、やがて顔を見合わせて、笑いはじめました。
てんとう虫は、ほっとしました。
これを見ていた、福の神さまは、喧嘩をしていたふたりに、ささやかな喜びをプレゼントします。
ひとりは、夕飯が、大好物のハンバーグになり、もうひとりは、お父さんが、ケーキを買ってきてくれました。
ふたりとも、大喜びで、その夜は、ぐっすりと、眠りました。
さて、てんとう虫は、また、町を、歩きはじめます。
今度は、大人の男の人と女の人が、言い争いをしているのを見つけました。
話を聞いていると、アニメのヒーローについての、言い争いです。
そこで、てんとう虫は、ボンボンを振り回しながら、一発ギャグを、ふたりに見せます。
「宇宙人からの~~、地底人! さらに~~、タイヤ人!」
「そ、そうだね。どっちでもいいか。アハハ」
「そうね。どっちでもいいわね。フフフ」
ふたりは、言い争いを忘れて、笑顔になりました。
てんとう虫は、ほっとしました。一部、噛んで、言い間違えたようですが、ふたりには、気がつかれませんでした。
これを見ていた、福の神さまは、言い争いをしていたふたりに、ささやかな喜びをプレゼントします。
男の人には、宝くじで、1万円が当たり、女の人には、バーゲンセールで、掘出物が、手に入りました。
ふたりとも、小さい幸せを互いに話し合いながら、笑いが溢れる、デートを楽しみました。
次に、てんとう虫が、見つけたのは、お母さんに、怒られている男の子でした。
お母さんは、鬼のような顔で、男の子を、叱りつけています。
てんとう虫が、話を聞いていると、どうやら、お母さんに、内緒で、ゲームに、お母さんのお金を、使ってしまったようです。
てんとう虫は、困りました。笑いへのきっかけが、見つかりません。
本当に困った、てんとう虫は、一か八かで、行動します。
「悪い子はいねがー! 優しいお母さんに内緒で、お金を盗んだ、悪い子はいねがー!」
そう言いながら、てんとう虫は、男の子を捕まえて、首を振って、ボンボンで、男の子を、ポカポカと叩きます。
「怖い、怖い。お母さん。助けて! 助けて!」
男の子は、泣きだしました。
鬼のような顔で、叱っていたお母さんも、驚いて、叫びます。
「やめてください。やめてください」
それでも、てんとう虫は、男の子を離さずに、ポカポカと叩きます。
「もう、しねがー! もう、しねがー!」
「わーーーん。ご、ごめんなさい、もう、しない。もう、しないから。助けて。お母さん」
「もう、もう、やめてください。この子も、反省していますから」
お母さんも、泣きながら、叫びます。
そこで、てんとう虫が、捕まえていた男の子を離すと、男の子は、お母さんに駆け寄り、お母さんは、しっかりと、男の子を、抱きしめました。
男の子は、お母さんの胸に、顔を埋めて、泣きながら、謝っています。お母さんは、男の子を、優しく抱きしめて、頭をなでました。
泣いているふたりを見て、てんとう虫は、下を向きました。
笑いを、届けられなかったことが、悔しかったのです。
すべてを見ていた福の神が、てんとう虫に、言います。
「あなたは、間違っていません。これをご覧なさい」
そこには、さっきのおかさんと男の子の家が見え、窓からは、ふたりの笑い声が、漏れてきました。
てんとう虫は、ほっとしました。そして、自分は、間違っていなかったと、自惚れてしまいました。
そのあと、仲間からの手紙が来ました。内容は、てんとう虫に、いったん戻って、もっと、一緒に笑いの道を極めようという、お誘いでした。
しかし、てんとう虫は、自分は、もうあと少しで『笑いの伝道師』になれると信じていて、仲間の言うことなど聞きません。
自信満々です。
これを見ていた福の神さまは、いつも気にしていた頑張り屋のてんとう虫に、愛想をつかしてしまいました。
それからも、てんとう虫は、仲間の元には戻らずに、町を歩き回り、争いごとをしている人を見つけては、笑いを届け、笑顔にしていました。
しかし、笑顔を取り戻した人に、福の神からのささやかなプレゼントは届きませんでした。
それでも、てんとう虫は、自分の笑いに満足して、新しい笑いのネタを考えることも、覚えることもしませんでした。
それだけでなく、怠惰な生活を送るようになっていました。
そんなとき、てんとう虫が町を歩いていると、男の子と女の子が、喧嘩をしているのを見つけます。
「ぼくが先だよ」
「なに、言ってんの! お姉さんのあたしが先に決まってるじゃん」
男の子と、女の子は、姉弟のようで、今日のお風呂の順番を争っていました。
そこで、てんとう虫は、いつものように自信満々で、出て行って、笑いで喧嘩を止めてやろうと張り切ります。
「これを解決すれば、もうそろそろ、笑いの伝道師になれるかもしれないな」
てんとう虫は、薄ら笑いを浮かべて、姉弟の前に出ていきます。
そして、こう叫んだのです。
「入浴するなら、ニューヨーク!」
「プッ」
「・・・・・」
てんとう虫は、ついに、すべってしまいました。大いにすべってしまいました。
男の子は、少し笑ってくれましたが、女の子は、まったく、笑いません。
それどころか、女の子には、「オヤジギャグ! 寒い、寒い」と、言われてしまったのです。
その様子を見て、てんとう虫は、大慌てです。
必死に挽回しようと、ボンボンを振りましたが、もう間に合いません。
ボンボンを、振り回すだけで、何も出てこなかったのです。
てんとう虫の頭の中は、真っ白になっていました。
すると、どうでしょう。
『ビューーーーーーーー』と、どこからか強烈な寒風が吹き荒れ、てんとう虫は、辺り一帯が氷の世界、南極まで一気に飛ばされてしまいました。
「あのとき、仲間の誘いを受けて、もっと笑いを極めていれば良かった」
てんとう虫は、強烈な寒風に飛ばされているときに、後悔していました。
しかし、もう戻ることはできません。
南極まで運ばれた、てんとう虫は、あまりの寒さで、立ったまま気を失ってしまいます。
そして、そのまま体中が氷はじめ、最後には氷の像になってしまいました。
───まだ、まだ、修行が足りなかった。
てんとう虫は、最後に、そう思ったのでした。
ただ、喧嘩をしたペンギンたちは、ボンボンを振り回す、てんとう虫の氷像を、思い出しては、いつも笑いながら、喧嘩を止めるということです。
12/6 1:40 イベント用に文字数が足りないことが判明し、バッドエンド原稿の分岐後の部分を大幅に追加、改稿させていただきました。読者の皆さまには、ご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません。