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僕として生きる為

 僕は急いで空になったリボルバーに弾を込める。

 金髪の女の子はゴーレムを木槌で弾き飛ばして他のゴーレムに当てなぎ倒す。

 ゴーレムの破壊こそは出来なかったが動きを止めるには十分だった。


 そして金髪の女の子は後退してリボルバーに弾を込め終わった僕に近付いて無表情で言う。


「一部始終を見た限り、あなたは部隊を裏切ったと思うのだけれどどうしてまなの味方をしてくれるの?」


 僕は悩むような振りをして既に出ている答えを誤魔化した。


「うーん……あなたが昔好きだった幼馴染に似ているだとか、生き別れた妹に似ているとか、そんなんじゃあダメですかね」


「ダメに決まってるわ。まあいいけれど。それはそうと裏切りの感想はどう? あの人と知り合いのようだけれど」


 立ち上がってこちらに向かってくるゴーレムの足を撃ちながら答える。


「最低の気分ですよ。あの人の、柏木さんの目の前で裏切ったことについては特に何もありません。一緒に仕事をしたのも一度だけですから」


「あらそう? 私はほんの少しだけ感謝しているわ。完璧を求めて部下にも完璧を強制していた鏡水が部下に完璧を求めなくなった。圧力でリタイアが続出していた部下も出なくなり、自然と完璧な鏡水は尊敬もされるようになり部下の質が上がったわ――そして昔に比べてだけれどよく笑うようになったわ」


 話に耳を傾けていたのか柏木さんが会話に入ってくる。


「そうですか」


 僕はぶっきらぼうに相槌を打つ。


「だからこそ私としてはあなたにはそんな道を選ばないで欲しかったのだけれど……最後にもう一度だけ、友達の大切な存在であるあなたには警告をさせてもらうわ。戻って来なさい」


「さっきと僕の考えは変わりません――僕は、僕として生きる為にこの道を選ぶ」


「分かったわ。でも、その言葉は直接鏡水に伝えるのね。檻の中で……『捕』!」


 足が砕けまともに立つこともできなくなっていたゴーレムは砂のように原型を崩し再構成され両腕が刺又のように広がっているゴーレムになった。

 その姿は長身かつ細身で、二体生まれたゴーレムは鏡に映っているように動きが同調していた。


 二体のゴーレムは斜めに別れながら僕達に向かってくる。


「まなは右の相手をする。あなたは左をお願い」


「分かりました」


 僕達が分担を決め戦闘を始めようとした瞬間、ゴーレムはこっちに向かいながらクロスし位置を入れ替えた。


「え、えと、この場合は?」


「そのまま左をやって」


「はい」


 僕は左に移動したゴーレムに向かって拳銃を撃つ。

 放たれた銃弾は肩をかすめ少し抉っただけだった。

 人間に対してだったら十分な結果ではあるけれど痛みを持たないゴーレムには意味をなさないことだった。

 ゴーレムはあっという間に接近して腕に生えた刺又を僕の体に向かって突き出してくる。


 僕は肉薄しながら避け、回し蹴りをゴーレムのわき腹に食らわせる。

 蹴り飛ばしたゴーレムはコンクリート……まではいかないもののなかなかの硬さで砂袋を蹴ったような感覚だった。

 蹴りによりゴーレムはよろついたものの僕もゴーレムの重量感によってふらついてしまった。


 直ぐに体制を整え僕に向けている背中へ発砲する。

 命中こそしたものの効果は薄く振り向きざまに刺又を振り回してきた。

 僕はバックステップで躱して拳銃じゃ威力が足りないと考え、個人防衛火器を取り寄せる。


 確かこの銃はMP7とかそんな名前だった気がする。

 銃に詳しくない僕としてはこの銃の使い方だけ知っていれば十分なのである。


 拳銃を捨て両手で個人防衛火器を構え、刺又を突き出そうとしているゴーレムの体に連射する。

 ゴーレムは弾が命中するたびにのけ反り五秒ほどで機能を停止した。


 急いで金髪の女の子に目を向けるとナイフを伸ばし刀のようにしてゴーレムと打ち合っていた。


 僕は応戦するべきかと一瞬考えたが柏木さんを止めなければキリがないと思い柏木さんに体を向けた。

 その時、瞬間的にノイズが鳴りすぐにクリアな音声が全フロアに設置されているスピーカーから聞こえてきた。

 聞こえてきた声は若い男の声だった。

 その放送に僕と柏木さんの動きが止まる。


『御機嫌よう諸君。今回はうれしい知らせと悲しい知らせがある。どっちから聞きたい? ……と言っても一方通行だから勝手に僕が決めさせて貰うぜ。まずはうれしい知らせからいこうか。それは現在の戦況さ。現在敵勢力六割方制圧完了した。この流れで行けば我々の勝利だ――そして悲しい知らせだけどこれは我々にとってではなくレジスタンスの皆さんにとってだぜ。それは僕がこの基地にたまたま来たことさ! これによって今! この基地にいるランクSは三人になった! 『絶対服従』、『神速』、そしてこの僕! 『シュレティンガー』! ランクSは一人で一個中隊を相手にできると言われている。この意味分かるよなぁ? ってなわけで僕はこれから殲滅に向かう。覚悟しとけよ』


 通称。

 ランクSには通り名が与えられるが勿論これには意味がある。

 一つは味方の鼓舞。

 そしてもう一つは敵への威圧。

 名前を知っている敵であれば震え上がるほどの効果を発揮する。

 しかし極稀にアビリティに飲まれた戦闘狂のような者も存在する。

 そういった輩はむしろ探しに来るくらいなのだが、それはそれで構わない。

 相手がいくら戦闘慣れしているからと言ってこちらはプロの中のプロ。

 飛んで火にいる夏の虫と言う奴だ。

 今回の放送はその効果を期待してのものだろう。


 実際ランクSが三人というのはかなりやばい。

 柏木さん、 鏡水さん、そして放送のシュレティンガーの男。

 恐らく彼女らが三人揃って何もないところで戦闘するとなると軽く数千人は制圧できるだろう。


 今は建造物によってうまく散り散りに別かれている為被害を抑えられているだけだと思う。

レジスタンスが今回何人送り込んできたのは分からないけれど、考えるに敗北は必至だ。


 僕は柏木さんの足元に向かって個人防衛火器を放つ。

 しかし柏木さんの召喚した盾持ちのゴーレムによって難なく防がれてしまう。

 代わりに金髪の女の子と打ち合っていたゴーレムは消えたものの、このままでは埒が明かない。


「聞いてください。今の放送であったランクSのうちの一人が今戦っている柏木さんです。正直僕達では勝ち目はありません。ここは一旦退きませんか?」


「ダメ。まな達はこの襲撃に全てを賭けている。そこに倒れている人たちもこうなることを覚悟して来ている。ここでまなが逃げる訳にはいかない」


 金髪の女の子は無表情で答える。

 しかし声はどこか焦っているようだった。


「逃げるんじゃないです。戦略的撤退です。体制を整え直すんです。ここで無理して失敗したらそれこそこの戦いで敵の手に落ちた人達が浮かばれない」


「…………」


 無表情。

 無言。

 

 数秒の沈黙の後、金髪の彼女はゆっくりと瞬きをした後決断を下した。


「そうね、そうしましょう。一旦戻って別ルートを探すわ。無理にあの人を突破する必要もないもの」


「そうです。でも柏木さんは簡単に退かせてはもらえませんよ」


「そうでしょうね。そのことについてはあなたに任せるわ。なにか考えがあるのでしょう?」


 全く、なんて雑な振りだ。

 でも、僕にはまだ使っていない策があった。


「凪です」


「え?」


「名前。僕の名前は不和凪です」


「……有栖川愛ありすがわ まなよ。よろしく」


 僕は愛ちゃんにだけ聞こえる声で作戦を伝える。

 そして盾持ちのゴーレムの斜め後ろにいる柏木さんに対峙し宣言する。


「僕の名は不和凪。ランクはB。一世一代の逃走劇見せてあげます」


 僕は宣言後ナイフを構え突撃する。

 後ろに愛ちゃんも続いて。


 僕の作戦は作戦なんてものじゃない。

 盾持ちのゴーレムと打ち合い、隙を突いて柏木さんを攻撃する。

 それだけのことだ。



 ――というのは当然見破られているだろう。

 だからこそ接近戦に僕達が持ち込もうとしているにも関わらずゴーレムを突撃させまいとしているのだ。


 柏木さん自体に影響を及ぼされないように。


 勿論、それはフェイントだが。

 僕は煙幕弾を二つ取り寄せてゴーレムの足元の左右に転がす。

 いくらゴーレムが鉄壁の防御を有していたってサッカー選手じゃあない。

 その鎧姿では足元に転がった煙幕弾を除去することはできない。

 煙幕弾が発動する。

 柏木さんとゴーレムは煙に包まれた。


「すいませんね。あんな宣言しておいて。逃げると思わせておいて戦うと思ったでしょうけれど、僕はそんなガチガチのゴーレムと打ち合いたくありませんからね。正直に撤退させてもらいます。それでは」


 煙の中から舌打ちが聞こえたような気がしたが僕達は追撃をすることなく柏木さんに向かって突撃していた体を翻し外へと脱出した。

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