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物体取り寄せ(アポーツ)

「へぇ、それはどうしてかしら? ここも意外に居心地がいいものよ。塞翁が馬って言うでしょ」


「住めば都って知ってる? そっちの暮らしに慣れただけじゃない。まな達が戦う理由、それは正しさの為よ」


「それは私たちが執行している正義とは違う物なのかしら」


「ええ、もちろんよ。正義と正しさは違う。だからまな達はあなたたちと戦っている」


「よく分からないわね。私たちは安全の為に戦っているわ。銃を持った人間が危ないのは誰でも分かること。その銃が体にくっついているのならその人間を殺すか保護するしかないじゃない。それと同じよ。その行動のどこが間違いだと言うの」


「間違いだとは言ってないわ。それは正義。平和の為、その他の幸せの為仕方のない措置よ。でもまな達が言うのは共存。銃を持ってしまった人たちの幸せ。まな達はそれを望んでる」


「つまり、理想と現実ってわけね。本当はそうした方がいい理想ってのはなんにでもあるわ。だけれどできない時がある。それが現実――理想ってのはね、手が届かないから理想なのよ」


「でも、届かないとしても、それでもまな達は手を伸ばすわ。伸ばさなければ掴むこともできないもの」


「そう――それじゃあ超能力法がなかった時代は平和だったと言うの? いいえ違うわ。あなたは幼いから知らないでしょうけれど超能力法ができる前とできてからは原因不明ってことになっている事件、または公表すらされていない事件。これらはアビリティが関係していることが多いのだけれどこれらは目に見えて減っているわ。それでもアビリティによる事件は一向に減らない。マスコミが騒ぎ立てる謎の事件なんてのは全体のほんの一部でしかないわ。だからアビリティホルダーと普通の人間が共存する未来なんてものはないの。分かったかしら?」


「それこそ一部を見て全体を語るってやつだわ。犯罪者だけを見たらそれはアビリティホルダーは犯罪者予備軍ってことになるんでしょうけれどそんな人たちこそ一握りで大体は普通の人間と変わらない感情を持った人間だわ。あなたもアビリティホルダーなら分かるでしょ?」


「ふふ、テロリストがそれを言うとは説得力の欠片もないわね。でもその考えは分かるわ。アビリティホルダーだって普通の人間。そんな事言われなくても分かっているわ。分かってはいるけれど脅威であることに変わりはないの。残念ながらね。アビリティによる被害の甚大さは被害が出てから裁くには大きすぎる。だからこそ疑わしきは罰する。ってね」


「そう――アビリティホルダーの待遇。この問いに関する答えは一つじゃない。あなた達の答えは合っている。でもその答えに納得できない。だから答えを変えることを要求する」


「あら? 意外に控えめなテロリストさんね。その要求はテロ行為と釣り合わないんじゃないのかしら」


「まな達が払う代償はまな達の未来。望むは他人の未来。まな達は他人の為に戦うわ」


「そう。立派な覚悟ね。説得したつもりだったけれど、それでも考えを変えないということは相当ね。それならここで死になさい。この世の中にアビリティホルダーは不要だわ」


 金髪の女の子が戦闘態勢に入る。

 それに合わせて視界を確保するために柏木さんの目の前からずれていたゴーレムは金髪の女の子との直線上に戻る。

 会話によって多少緩んでいた空気が引き締まる感覚。


 僕はこの時を待っていた。

 戦闘が再開し相手に集中するこの瞬間を。


 会話の間に金髪の女の子の斜め後方に移動していた僕は素早く近付きナイフを持っている手を後ろで拘束し右腕を首に回し逆手に持ったナイフを首元に当てる。

 そして大きめに、柏木さんにも聞こえるように忠告する。


「動かないでください」


 これは存在を示すため。

 僕に気付かないで攻撃されてはたまったもんじゃない。

 柏木さんの動きが止まる。

 金髪の女の子は一瞬だけ抵抗したが、その後の抵抗はなかった。

 金髪の女の子は柏木さんの方に視線を向けたまま静かに言う。


「見逃してください」


「動かないでください」


 僕はもう一度、今度は小さく金髪の女の子にだけ聞こえるようにつぶやいた。


「あなたやるじゃないの。手錠とか持ってる? そのまま確保しちゃいなさい」


「すいません。それはできません」


「持ってないのね。私のを貸してあげるわ」


 そういうと手錠を取り出し僕に近付いてくる。

 相変わらず金髪の女の子は柏木さんを見据えている。

 柏木さんが三歩ほど歩いたその瞬間、

 バン!

 銃声と柏木さんを守るゴーレム。

 ゴーレムの盾には銃弾のものによるへこみができていた。

 僕はなにが起きたのかすぐには理解できなかった。



 謎の銃撃――ではなく柏木さんの後ろにいたはずのゴーレムによる防御。

 僕はしっかりとゴーレムの前に出てきた柏木さんを撃ったはずなのに……。


「なにするの!?」


 声を張り上げてはいるものの柏木さんは落ち着いていた。

 不意打ちにも慣れっこと言うわけか。


「なんですか、そのゴーレム」


 僕は金髪の女の子の首に回していた腕を引っ込めながら金髪の女の子の前に立ち、問う。


「質問してるのはこっちよ。なんのつもりなのか聞いてるの」


「見ての通りです。僕はこの女の子を助けあなた達の敵になります」


「それがどういうことなのか分かっているの?」


「もちろんです」


「――そう。鏡水の元にいながらその行動を取るの……いえ鏡水の元にいるからこそかしら。それともその子の話に感化されて……」


「さあ、どうでしょうね。自分でもよく分かりません」


「先に言っておくけれど、戦いの場で敵に寝返ること自体はたまにあることよ。だからこの事にもそこまで驚いてはいないわ。敵に寝返って成功すればここからはおさらばできるわけですもの。でも私の管轄に置いてそれが成功したことはたったの一度もないわ――今ならまだ間に合うわ。こちら側に戻ってきなさい。後ろの女の子を拘束して。忠告は一度しかしないわ」


「……」


 沈黙。

 正直僕はまだ迷っていた。

 この行動がどれほどのリスクを背負っているのかなんて考えるまでもない。


 ランクS兵士である柏木さんに勝てる見込みなんてものは万に一つもない。

 もしここで対立し、敗北したとしよう。

 その場合は言うまでもなく犯罪者だ。

 超能力法で捕えられた人々よりも過酷な環境に置かれることになるだろう。

 今ならまだ相手を油断させるための演技として裏切った振りをしたという口実がある。

 柏木さんもそういう体で話を収めてくれるだろう。

 だが完全に敵に回った場合容赦はされないはずだ。



 ――いや、考えるのはよそう。

 僕はこういった時初めに選んだ選択肢で決断することにしている。


 僕はナイフを収め、拳銃を柏木さんに向けた。


「ご忠告ありがとうございます。でも――僕は決めたんです」


 僕はそう言って銃弾を二発放つ。

 言うまでもなくそれは盾持ちのゴーレムによって防がれたが柏木さんの視界を遮ることはできた。

 続けざまに腕を振って袖口から手榴弾を取り出し柏木さんの斜め上に放り投げる。

 これは数瀬さんの時に使ったものとは違って何の変哲もない普通の手榴弾だ。

 手榴弾が空中でゴーレムを巻き込み爆発する。

 煙がゴーレムに纏わりつき数秒で煙が晴れるとゴーレムの盾はほんの少し削れた程度のダメージしかついていなかった。


 あのゴーレムの破壊は諦めたほうがいいのかもしれない。

 そうなると狙うなら本体である柏木さんだけれど、さっきのゴーレムの動きが頭を離れない。

 もしゴーレムを柏木さんから引き離したところで恐らくなんの効果もないだろう。


 となると狙うは両側からの同時攻撃。


「なるほど。それがあなたの答えなのね。それでは残念だけれどあなたをぼこぼこにして拘束させてもらうわ」


 柏木さんはなんの感情もない。

 そんな表情だった。

 柏木さんの中では僕はもう完全に敵なのだ。


 僕はもう一度腕を振り袖口から手榴弾を取り出す。

 今度は天井に手榴弾を当て柏木さんの後ろに落ちるように投げる。


 それと同時に拳銃から銃弾を一発放つ。

 前後からの同時攻撃。

 一体のゴーレムでは物理的に防ぎようのない攻撃だ。


 しかしゴーレムはその攻撃を難なく防いで見せた。

 手榴弾に盾を投げ弾き飛ばし銃弾をその体に纏っている鎧で受け止めた。

 投げた盾はブーメランのように弧を描きゴーレムの手に戻る。


 あのゴーレム一体で複数の攻撃を防ぐことができるのか……。

 明らかな手数不足だった。


 ――手数が足りないのならば、威力で勝負だ。

 僕はアビリティを使いロケットランチャーを取り寄せた。


「やはり物体取り寄せ(アポーツ)……!」


 僕は膝をつき反動に備え標準をゴーレムに合わせた。

 するとゴーレムが盾を構えながらこちらに向かって突進をしてきていた。


 ロケットランチャーを放つ。

 ものすごい爆発音と石の塊が砕けるような音。

 ゴーレムは粉々に砕け散り柏木さんを守るものはいなくなった。


 ロケット弾が無くなったただの筒を捨て拳銃を取り寄せる。

 拳銃を構えるのと同時に柏木さんはゴーレムを生産する。


「『数』!!」


 リボルバー式である拳銃の最後の一発を放つ。

 しかし地面から生まれた七体のゴーレムが身を挺して銃撃を阻む。

 銃弾の当たったゴーレムは足が破壊され地面に俯きに倒れた。

 そして残りの六体が僕に襲いかかる。


 その時僕の左側を横切る金色が見えた。

 それは僕と柏木さんの戦闘中ずっと僕達二人を警戒していた金髪の女の子だった。

 金髪の女の子は木槌でゴーレムを蹴散らしながら無表情で言う。


「今のところはあなたを味方だと思っておくわ。だからひとまずここは共闘といきましょう」


 金髪の彼女が僕に対して発した最初の言葉は冷たく完全に信用してはいない言葉だったけれど、僕はそれでも金髪の彼女の力になれることがとても嬉しかった。

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