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ライアー

「敵!?」


 ベルちゃんが僕の隣で臨戦態勢に入る。


「おいおいやめてくれよ」


 男は両手を上げて敵意が無いことを示す。


「で、お前らどこ行こうとしてんだ?」


「僕達はルームに向かっています。そう言うあなたは何をしているんですか?」


「ああ、俺は今日こっちに来たんだが、何分忙しくて場所の把握すらまだなのにこの事態だ。それで敵の制圧をとうろついていた訳だ。お前らも気を付けろよ?」


「ベルちゃんは強いので心配いりません」


「おいおい女の子に守ってもらおうってか? 女を守るのは男の役目だぜ?」


「それなら、僕がベルちゃんを守ります。あなたはフロントに行けばなんとかなると思いますよ」


「はっはっは、女を守るのは男の役目だが、子供を守るのは大人の使命だ。俺が護衛してやるよ」


「――そうですわね。なにがあるか分かりませんし、よろしくお願いします」


 いつの間にか臨戦態勢を解いたベルちゃんはそう言って先導を始める。

 ポジション的には僕とベルちゃんが先頭を二人で横並びになってその後ろ数メートルを高身長の男がついていくという形だ。




――




「えっと、失礼ですがお名前はなんとおっしゃるのでしょうか?わたくしはカレイド・ベル・クォドラングルと申しますわ」


 長い沈黙に耐えきれなかったのかベルちゃんが切り出す。


「ん? 俺か? 俺は数瀬かずらいだ」


「僕は不和です。数瀬さんに案内人とかついてないんですね」


「ああ、そうだな。こっちに来たのは昼だし、合流するまでの間にこの緊急事態が起きたからな。こっちの地理については全く分からん」


「それではまだこっちでのIDも聞いてないってことでよろしいですわね?」


 ベルちゃんが異常なほど普通にその質問をする。

 僕は何も言わない。


「ID?」


 数瀬さんは存在を知らないような反応を示す。


「はい。IDですわ。基地の入退場にはカードキーが必要でそれの登録に使うのですが。超能力対策部隊基地ではカードキーで入退場の記録を取ってますよね。それは共通ですけれどIDは基地ごとに変える決まりがあるので今日来たならまだだと思ったのですけど」


「ああ、あれのことか。そうだな、俺はまだIDは貰ってないぜ。今は客用のカードキーを使ってるからな」


「――そうですか。それならば、あなたは敵です!」

 ベルちゃんはそう言うと振り向きざまに木の葉を投げつける。

 木の葉は手裏剣のように鋭く空を切る。

 しかし木の葉は数瀬さんの目の前で見えない壁に阻まれるようにぶつかり地面に落ちる。


「なにすんだ。あぶねぇじゃねぇか――よく分かったな。なんでだ?」


「数瀬さん。教えて差し上げましょう。確かに基地はカードキーで出入りしますしIDがあることも事実です。でもIDで登録するのではなく、登録してIDを貰うことくらいここでは常識です。カードキーの登録に使うと聞いてそうだ。なんてここの人は言いません」


「もし俺が聞き間違いだと思ってスルーしていた場合はそうするんだ?」


 僕が代わりにその質問に答える。


「その時はその時ですよ。わざわざ他の基地から来た人が僕達より弱かったんじゃ話になりませんからね」


「流石ガキ。思い付きと言うか思い切りと言うか。浅い考えで動いてやがる。今回はまんまとはまってしまったわけだが。まあ本当は内部まで潜ってぐちゃぐちゃにしてやろうと思ってたんだが、仕方ない。ここでバラしてゆっくり探させてもらうぜ。できるならお前らのようなガキとは戦いたくなかったぜ」


 ベルちゃんはポケットの中の木の葉を両手いっぱいに掴むと数瀬さんに投げつける。

 ショットガンのように襲い掛かる木の葉は通路全体を攻撃できるほどの全体攻撃だった。

 しかしまたしても数瀬さんの前で木の葉は見えない壁に当たり地面に落ちる。


「それなら、これではどうですの!」


 ベルちゃんはまたしても両手いっぱいの木の葉を取り出た。

しかし今度は投げつけるのではなく、数瀬さんに向けてばらまくように放つ。


 ベルちゃんのアビリティの性能その一、木の葉の強度を上げる。

 ベルちゃんのアビリティの性能その二、その木の葉をもう一度自由方向に加速させることができる。


 数瀬さんの周りにばらまかれた木の葉は全方位から向きをかえ数瀬さんに襲い掛かる。

 数瀬さんはドーム状に木の葉で覆われた。

 どうやらあれはベルちゃんのアビリティではなく数瀬さんがドーム状に防御をしているらしいということだった。


 これは相性が悪いアビリティだ。

 僕も。

 ベルちゃんも。


「ベルちゃん。目を瞑ってください」


 僕はそう言いながら、あるものを数瀬さんの目の前に放り投げる。

 数瀬さんは目の前のそれに力を入れて防御の姿勢に入ったようだ。

 だが、残念だ。それは攻撃ではない。


 炸裂。

 光。


 端的にいうなれば僕が投げたそれとは手榴弾風にカモフラージュした閃光弾だった。

 直前で対処した僕とベルちゃんはともかく、数瀬さんは防御をするために閃光弾を見つめていたらしく両手を目にやってもがいていた。

 僕はここぞとばかりに拳銃を取り出す。

 この拳銃は警察が持っているものと同様で威力も低くアビリティホルダーとの戦闘では使い物にならないようなものだが制圧するには十分すぎる。


 数瀬さんの足に狙いを定め引き金を引く。

 バンという銃声のあとカランカランと鉄の落ちる音がする。

 相変わらず数瀬さんはもだえ苦しんでいるようだが銃撃が通った様子はない。

 どうやら防御は解除できなかったらしい。


 僕はベルちゃんの手を引き走り出す。


「え? えっ!?」


 急な事態にベルちゃんは戸惑っているようだが時間が無い。

 走りながら説明する。


「ひとまずあれは僕達では相性が悪いです。ここは逃げます。制圧は柏木さん達と合流してから他の人に頼みましょう」


「それならわたくしが足止めをしますわ」


「足止めは必要ないです。もし足止めをするのであれば僕がします」


「ほっておいたら被害が出ますわ。幸いにも攻撃性能は無いようですし、そしてあなたさっき拳銃とか使ってましたわよね? そこまでアビリティを使わないという事はなにか特別な理由があるのでしょう?ここはわたくしに任せなさい。わたくしはランクA兵士。カレイド・ベル・クォドラングルですわよ!」


「――そうですか。任せました。無茶は絶対にしないでください。すぐに柏木さんを呼んできますから時間稼ぎだけを考えてください。安全第一です」


「分かりましたわ!」


 ベルちゃんの手は僕の手から離れ、ベルちゃんは遠くに離れた数瀬さんに向き合った。

 僕はそれを見るとすぐに柏木さんの元に走り出した。





 ――柏木さんのチームルームまで直線距離でおよそ百数メートルと言ったところか。

 直線での距離なら大した時間もかからないだろうがここは室内だ。 障害物であったり曲がり角でどうしても減速してしまう。

 急いで角を右に曲がると左の部屋から戦闘音が聞こえた。


 鉄の当たる音。

 瓦礫のようななにかが崩れる音。

 僕は援護をするべく部屋に入る。

 幸いにもドアは壊れて開いていて部屋も広く中庭のようなスペースだった。

 僕は背の高めの煉瓦の花壇に身を隠し誰にも気付かれることなく戦況を把握できた。


 戦闘をしているのは柏木さんと青いフリフリのドレスに身を包んだ金髪の女の子だった。

 他には金髪の女の子の後ろ。

 恐らく侵入してきたであろう扉の近くに三人の青年が倒れていた。

 流石に生死までは分からないがピクリとも動かない。


「ふぅん、あなたにはこれはあまり意味が無いみたいね。それならこれはどうかしら『数』」


 柏木さんが地面に手のひらを付くと地面からぼこぼこと土塊でできた人型のようなゴーレムが七体目の前に生まれた。


 ゴーレムの動きは意外に早く人間と変わらない速さだった。

 しかしそれを金髪の女の子は木槌で一掃した。

 一体目、二体目。

 木槌を左斜め下にに振り落とすと元は一般的なサイズだった木槌は柄が伸び、頭が巨大化し土塊でできたゴーレム二体まとめて粉砕し元の土に戻した。


 三体目、四体目。

 振り落した木槌に掴みかかるゴーレム。

 木槌の頭が伸びゴーレムを打ち上げる。

 その後一体のゴーレムを道連れに粉砕。


 五体目、六体目。

 振り落した木槌の左右から襲い掛かるゴーレム。

 金髪の女の子に向かって右のゴーレムに柄を当てるが金髪の女の子の力では敵わないようで押し返される。

 左のゴーレムが目の前まで近付いた瞬間懐からナイフが伸びゴーレムを串刺しにする。

 動きは止まったがもがいているゴーレムはナイフが刺さったまま鉄の棒のように太くなりはじけ飛んだ。

 右のゴーレムの攻撃を木槌の柄で受けナイフで切り捨てる。

 最後の柏木さんの目の前で防御に徹しているゴーレムはナイフを伸ばして貫かれ同じようにはじけ飛んだ。


「なかなかやるじゃない」


 ナイフの射線上から離れた柏木さんが余裕の笑みで言う。


「でも、どうやらパワーは無いようね。『防』」


 先ほどと同じように地面に手のひらを付くと今度は先ほどよりも一回り大きく鎧を着ているような巨大なバックラーを構えたゴーレムが生まれた。


「私としてもね、あなたのような実力者にはそんなくだらないレジスタンスまがいのことをしているよりこっち側について役にたってほしいと思うわけ。だからここであなたをねじ伏せて捕獲するわ」


 やる気に溢れた表情で舌なめずりをする。

 そんな柏木さんに金髪の女の子は無表情で静かに返す。


「それだけはごめんだわ」

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