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敵襲

 ――小説を区切りのいいところまで読んで時計塔で時間を確認すると十一時三十七分だった。

 昼ごはんの時間にはまだ早いけれど、人がいないうちに済ませてしまおうか。


 この基地には食事を摂れる場所が一か所しかない。

 一か所しかないと言っても大抵の食べ物は揃っていたりする。

 おそらく一般的に見ることのある食べ物は粗方揃っているのではないだろうか。


 逆に言えばメニューがとても多い。

 僕は券売機の前で悩みに悩んでいた。


 うーむ、ひとまず甘いものはパスだな。

 となると辛いものかしょっぱいものかな?

 あまり辛いのは好きじゃない。


 そういえばこの前ここのハンバーグ定食が結構おいしいって聞いたな。

 僕は券を購入し食堂のおばちゃんに手渡す。

 客がまだ少ないせいかハンバーグ定食はものの数分で出てきた。


 僕はそれを持ち、席を探す。

 席を見渡すとちらほらと人はいるが結構開いていた。

 僕は四人席に座ることにした。










 ――ハンバーグ定食を食べていると突然後ろから声をかけられた。


「一人で寂しいですわね。不和凪」


 それはオムライスを手にしたベルちゃんだった。

 相席よろしいですか? と聞いてきたベルちゃんに僕はどうぞと返す。

 席はまだまだ空いているけれど、知り合いがいたらそれを無視するのもいかがなものかという気持ちを僕は無駄にするようなことはしない。


 オムライスか。

 オムライスでも良かったな。


「今気付きましたけれど、その服この前の戦闘の時も着ていましたわね。ということはお昼からお仕事ですの?」


「あ、いえいえ。これは僕の戦闘服であり普段着ですよ。ちなみに同じ服が7着あります。今日は一日休みですけど、ベルちゃんは仕事あるんですか?」


「今複数のチームが大阪の方でお仕事をしていて、その援助に向かう予定ですわ。お昼が過ぎたら出発する予定なので早めにお昼ごはんをと」


 大阪。

 大分アビリティホルダーの確保は進んでいる都市のひとつだったはずだ。

 しかし、一部のアビリティホルダーには手を焼いているとも聞く。

 ベルちゃんなら心配するまでもないだろうが危険なところには変わりない。


「なるほど、あまり無茶はしないでくださいね」


「心配には及びませんわ――そ、それとクレープの件なのですけど……」


「クレープ? ――ああ、気にしなくていいですよ。お礼とかいらないですよ」


 結局お金は払ってないし。


「いえ、それではわたくしの気が済みませんわ」


「そう? それなら――次のクレープの屋台が来るとき僕にクレープを買ってください」


「え? それでいいんですの? 違う物でもいいんですのよ?」


「あのクレープ美味しかったのでまた食べたいです」


「そうですの……それならいいですけれど……」


 ベルちゃんはそうつぶやくと黙々とオムライスを食べ始めた。

 会話が無くなったので僕もハンバーグ定食を再び食べ始める。








 ――僕が食べ終わる頃にはベルちゃんもほとんど食べ終えていた。

 どうせなので僕はベルちゃんが食べ終わるのを待って帰ることにした。

 ベルちゃんが食べ終わると二人で食器を出して食堂を出る。


「ベルちゃんは一度居住エリアに戻るんですか?」


「そうですわね。荷物はそっちに置いてきていますし、一度チームルームに集合することになっていますわ」


「そうですか。僕は暇なので居住エリアまで送りますね」


「ひ、暇なら仕方ないですわね!」


 ベルちゃんは焦ったような口調で答える。

 歩幅を合わせながら歩く。


「ベルちゃんってどこかの貴族の家系だったりするんですか?」


「いえ、違いますけれど、なぜそう思うんですの?」


「口調的にそうなのかと」


「え。おかしいですの!? この口調!?」


「いえいえ、なにもおかしくないですよ」


 僕はいたって真面目に答える。


「そうですの……よかった」


 口調を変える気はないようだ。

 少なくともおかしくはないけれど面白くはある。


 そんな風に話をしながら居住スペースに向かっていた僕達だったが居住スペースにつくことはなかった。


 ドォンと、ほぼ同時に三方向から何の前触れもなく聞こえる爆発音。

 ざわつく人々。

 十数秒遅れて緊急事態発生のアナウンス。


 アナウンスによると敵襲らしい。


「どどどどどどうしましょう!?」


 明らかに動揺しおろおろするベルちゃん。

 仕事は出来ても緊急事態の例外には弱いか。


「そうですね、いったん落ち着いてください」


 深く深呼吸をし頬を二回叩くと真剣な表情になった。

 気持ちを取り戻したのを確認すると周りを見渡す。

 すると既に非戦闘員は戦闘員の誘導にしたがって避難を開始していた。

 僕達がすべき選択は……

 ①まず上司に連絡

 ②避難民の護衛

 ③敵部隊の制圧


 まずは連絡だな、指示を仰ごう。


「ベルちゃん。まずは柏木さんに連絡してください」


「わ、分かりましたわ!」


 流石に基地内にいるときにまで通信機を身に着けていろというのは無謀な話だ。

仕方なく携帯電話で鏡水さんに連絡する。


『もしもし華月です』


「こちら不和。緊急事態発生につき指示をお願いします」


『分かりました。まず周りの状況を教えてください』


「非戦闘員十数名、避難中。護衛で戦闘員4人。そしてベルちゃんと一緒です」


『……そうですか、本当は一度チームルームに集合するのがいいのですが、残念ながらこちら戦闘開始しています』


「戦闘中? 援護に向かいますか」


『問題ないです。ベルさんの援護にまわってください』


「了解しました」


 通話を切る。

 ベルちゃんもすぐに通話が終わる。


「こちらは避難民の護衛は十分だろうとのことで一度ルームに集合することになりましたわ。そちらは?」


「こっちはベルちゃんの援護にまわれとのことです」


「分かりましたわ、それではチームルームに行きましょう」


 僕達は走って柏木チームの部屋へと向かう。

 周りを見るとどうやら敵対勢力の侵略は進んでいないようだった。

 そしてあることに気付く。


「なんか、戦闘員少なくないですか……?」


「言われてみればそうですわね……あっ! 今は大阪の援助に人手をかなり回しています。その分の戦闘員の人数を差し引くと……現在の基地内の戦闘員、二十人」


 二十人。

 少なすぎる。

 一チーム四人構成だからわずか五チームしかいないことになる。


 居住スペースに入り角を曲がると見知らぬ身長の高い男と出くわした。

 男は嫌そうな顔をして言う。


「ようガキども。どこに行こうってんだぁ?」

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