探索
Side片桐
「避難民と学校関係者合わせて約500人、寝床は体育館や教室があるが。」
会議室を出た後、俺たちは中庭の工廠に向かうべく校長や一部作業員や教師と一緒に廊下を歩いていた。
俺が会議室で提案した意見の1つ目は地下工廠の探索、そして使えそうな物があるかどうか探すこと
今後また校内で殲滅戦が起こる可能性もあるため、それに対抗するのが俺たちだけではとてもじゃないが校内全部を守り切れない。元々が中世の城だったこともあって敷地面積はかなり広いのでもっと人手と武器が必要になるからだ。
2つ目は早期の自給自足体制の確立
校内には一応災害対策のためにそれなりの量の毛布や食料などが備蓄されているが、500人近い人間ならあっという間に食べつくしてしまうだろう。唯一、水の心配をしなくていいのは幸いだ。なんたってこの学校は水堀で囲まれているからいくらでも汲み上げることができる。まあ、飲むには濾過が必要だが水堀を引いてる川事態そこまで汚れてるわけではないから何とかなる。
そして肝心の食糧だが、生物部が中庭の一角でイモ類を育てているのを顧問の教師から聞いたので畑を拡大して増産する予定だ。ただ、500人を飢えさせないためには中庭だけでは足りないので校庭も開墾する。
3つ目だが、破壊された橋の復旧だ。
あれは想定外のことだったが、タンクローリーが突っ込んできた場合の被害なんて考えたくもないし結果的には安全が確保できた。
「しかし橋を復旧する必要があるのか?このまま閉じこもって救助を待てば」
「校長先生、備蓄された食糧でここにいる全員を最低でも秋までもたせることは」
「一日二食にしても三日が限界だ。作物が実る秋までなんて不可能だ。」
今は5月の末、もう少しで梅雨に入る時期だ。
つまり俺たちは今すぐにでも大量の食糧をどこかから確保して約4か月間食いつながなくちゃならない。
しかしスーパーなどの店舗ではそれは難しい。
「ほとんど客によって買い占められてるだろうし、俺たちみたいな人間が立てこもってる可能性があるからな。仮に大量の食糧があったとしても、その人間が平和的に分けてくれるって保証なんて無いしな。」
「そういう事。ならどこから確保するのかというと。」
俺は窓の外から見える山に視線を移す。
「吹雪山総合食料プラントか。」
吹雪山総合食料プラント
数年前に政府が食料自給率改善のために試験的に複数の都市に建設した大型の食料プラントの一つであり、中でも標高約450mの吹雪山をそのまま食料プラントにしたここは他と比べてかなり大規模で、農業、畜産、さらには川魚の養殖までやっている。
「物を買うのに製造元まで行く消費者なんていないでしょうからね。そこが盲点なんですよ。」
「吹雪山までは歩いても約30分、決して行けない距離ではない。」
「希望が見えてきましたね。」
俺たちは確かな希望を持ちつつ工廠入口へ到達した。
「ここが第一層か。」
工廠の狭い入口である階段を降り、俺たちは第一層の小銃、拳銃製造エリアを探索していた。
内部は特に変わってるわけでもなく、いくつかの部屋があり制作機械が置かれてる所と完成した物を保管する所に分かれている。通路や部屋にはすでに明かりが灯されているのでそこまで暗くはない。
「最下層にあった電源装置はここの地下水を利用して発電する仕組みになっていて、構造が単純でしたので70年経った今でもまだまだ稼働可能です。大型エレベーターの方は専用の水力発電機で稼働していたようなのですが、発見した当初は経年劣化で稼働しませんでしたが幸い修理は可能なので今現在修理に当たっています。」
案内役の作業員の一人を先頭にして簡単な説明をしながら俺たちは最下層の物資貯蔵庫に向かう。そこなら何か橋の復旧に必要なものがあるはずだ。
そして第二層、第三層と迷路状の通路を進みそして第五層の車両製造エリアに入った。
「これ以降からは単純な通路になります。おそらく、大型部品の移動を円滑にするためだと思われます。」
次の階層に行くための階段は保管室を突っ切った先にあるらしく、作業員が2人掛かりで鋼鉄製の扉を開いて最初に見たものは
「まさかこんなに大量の戦車があるとはな。」
九七式中戦車、通称チハが6両壁に沿って並んでいて俺たちはその中央にできた道を歩いていた。
「まるで博物館だな。」
「しかもこれ全部動くんだろ。信じられねぇよ。」
「製造室にマニュアルが残されていたので、それをもとにエンジンを掛けたところ正常に稼働しました。燃料さえ確保できれば走らせることもできるはずです。他の保管室内の各車両も大半が正常に稼働しました。」
そして俺たちは第六層の試作、ロケット兵器エリアに着いたのだが階段はすぐ近くにあったのでどこの部屋も見ていない。
というよりも、見れなかった。
「第六層なんですが製造室内の制作機器はほとんど破壊されていました。そして保管室の方はすべての入口の扉が溶接されていて中を見ることができないんですよ。残されていた資料が確かなら製造されたものが保管されてるはずなんですが。」
「旧日本軍が秘密裏に原爆やレールガンの研究をしていたって話を聞いたことが、まさかな。」
流石にそんなものはないはずだ。
「怪力光線は?」
あったら怖い。
とにかく、俺たちは目的の最下層の貯蔵庫内に入り使えそうな物がないか手分けして探し始めた。
「と言っても、簡単に見つかるわけないか。」
しかも何故かは不明だがまるでゴミ屋敷の様にごちゃごちゃになっている。足の踏み場があるのはうれしいが。
流石に火薬やガソリンのような危険物はないはずだが。
それでもみんな文句ひとつ言わず真面目に取り組んでいる。
「この木材は使えるか?」
「駄目だ、虫に食われてる。篠原、あっちを探してくれ。せめて丸太ならつかえたんだが。」
「みんな、丸太は持ったな!?」
みんな真面目に……
「このドラム缶の中身は…ガソリン!?」
「万が一燃えたら不味いな。三田、それと校長先生も手を貸して下さい。」
「もっと、熱くなれよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
真面目に……
「お~い片桐!こっちにでっかい鉄板があったぞ!」
「そんな重いもんどうすんだよ。衣笠!その隣の板は使えそうか?」
「まな板にしようぜまな板に!!かなりまな板だよこれ!」
………。
「「「「「「「いい加減にしろ横山ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」」」」」」
人が真面目に探してる時にふざけやがって
もう許さん!!
「熊野!それと作業員A、B、C!横山をシメろ!!」
「「「「がってん承知!!!!」」」」
「待て待て待て!俺はただ場を和ませようと…………。」
「「「「黙れ!!!!」」」」
俺の号令よりも素早く熊野と作業員ABC(仮称)が横山をたこ殴りにし
「片桐!こっちにぶっとい丸太とロープがあったぞ!!」
「でかした衣笠!篠原!それで横山を縛り付けてここから叩き出せ!!」
「「了解!!」」
「俺は女に縛られて興奮する趣味は」
「この変態!!」
篠原が持ってきた丸太にロープで縛り付けて、ここから叩き出そうとして文字通りボコボコにされた横山を担いだ時に
「あの~皆さん?」
織琴先生が待ったをかけた。
「どうしました?」
「さっき衣笠君が持ってきた丸太とロープって橋の修復に使えるんじゃ………。」
「「「「「「「あっ」」」」」」」
怪力光線
旧日本軍が研究していたマイクロウエーブ照射装置。
ぶっとい
関西弁で「太い」という意味。
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